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設立80周年記念 第35回母子健康協会シンポジウム(大阪会場)
「保育に役立つ健康知識」子ども達の健やかな発育・成長のために

食物アレルギーの基礎知識と対応(1)

同志社女子大学生活科学部食物栄養科学科教授 伊藤 節子先生

伊藤皆さんこんにちは。同志社女子大学の伊藤でございます。現在は管理栄養士の養成にかかわっておりますが、今、吉岡先生からご紹介いただきましたように、小児科医でございます。私に与えられましたテーマは「食物アレルギーの基礎知識と対応」ということで、保育園でぜひ知っていただきたいことについてお話をしたいと思います。

まず、食物アレルギーの定義というのは、皆様もご存じと思いますが、「食物によって引き起こされる抗原特異的な免疫学的機序を介して、生体に不利益な症状が惹起される現象」ということで、食べるだけではなく、触ったり、吸い込んだりということも含まれます。食べ物による具合の悪い症状は、食物アレルギー以外にもいろいろなことで起こります。例えば古いサバによるヒスタミン中毒とか、食品中に含まれる薬理活性物質によるものは誰にでもおこりうる現象ですが、食物アレルギーは特定の人にのみ起こる現象です。牛乳を飲んでお腹がゴロゴロしたり下痢をする乳糖不耐症は乳糖を分解できない人におこる食物不耐症ですが、免疫学的機序を介さないため食物アレルギーとはいいません。つまり、「特定の人に」、「免疫学的機序を介して」起こる不利益な反応のことを食物アレルギーと言います。

免疫学的機序としては、抗原特異的IgE抗体の関与するIgE依存性の反応が、重篤な症状につながる即時型反応をおこします。即時型反応では皮膚、呼吸器、消化器などに次々と症状が出てくることがあります。このように複数の臓器に症状が出る場合を「アナフィラキシー」、循環不全に陥った場合を「アナフィラキシーショック」と言い、直ちに救命処置が必要な状態です。各保育園ではこういう事態に備えて対策をたてておられると思います。

生涯で最初に経験する食物アレルギーによる症状は、かゆみの強い湿疹を示す乳児期発症のアトピー性皮膚炎であることが大部分です。乳幼児の食物アレルギーで乳児期にアトピー性皮膚炎を経験していないのは、10%にもならないということが京都市の調査でもわかっています。一方、アトピー性皮膚炎の側からみますと、その原因に食物アレルギーが関与するのは、3分の1 から4 分の1 ぐらいにすぎないという調査結果でした。また、食物アレルギー自体、大きくなると頻度が低くなり、アトピー性皮膚炎とは関係なくなってしまうこともわかっています。

乳幼児の食物アレルギーの特徴をまとめます。乳児の約10%に見られます。幼児期で3〜4%です。赤ちゃんのときに、食物アレルギーの関与するアトピー性皮膚炎として発症することが多いのですが、血中に卵や牛乳に特異的なIgE抗体が存在します(=感作されている)と、離乳食として、あるいはミルクとして直接、卵や牛乳をとった時、即時型反応を起こすことがあります。きちんと原因食物の診断をして、必要最小限の食品除去を基本とした治療を行いますと症状が消失します。早期に治療を開始しますと、早く症状を起こさずに「食べること」ができるようになります。ちょうど幼稚園・保育園はこの大切な時期にあたります。

患者さんによりまして、食物に特異的なIgE抗体が非常に高い方も低い方もあります。個体差と考えてよいでしょう。同じ患者さんでも、様々な症状を示します。例えば乳児期発症の食物アレルギーの関与するアトピー性皮膚炎というのは、母乳中に分泌される僅かな量の卵や牛乳の成分、1㏄中に数十ng程度で母乳を1 日に1 リットル飲んでも数十μgという少量を、毎日毎日摂ります。そうしますと、アレルギー体質を持った赤ちゃんの中には卵や牛乳に特異的に反応するIgE抗体が作られるようになり、茶碗蒸しの上澄みをとったときやミルクを初めて飲んだときには湿疹となるのではなく、顔や体に蕁麻疹が出て真っ赤になる、嘔吐する、咳き込みゼイゼイするというような即時型反応を起こし、アナフィラキシーという状態になることがあります。母乳中に含まれる卵や牛乳の100万倍ぐらいの量の卵や牛乳を摂ったためにアトピー性皮膚炎とは全く異なる症状を起こすようになったのです。体内に吸収される卵や牛乳タンパク質量の差により症状がこれほど違ってくるのです。

スライド1

京都市内の保育所におけるデータをご紹介します。保育園の給食で、どのような食品を除去しているかという調査をしました。その結果、即時型反応を起こしたことのある子どもも、アトピー性皮膚炎のみの子どもも同じパターンを示しました(スライド①)。断然多いのが卵の除去で、約半数。それから牛乳、小麦の順番です。この3食品で除去食品の4分の3を占めていました。

スライド2

その経過を見てみます。除去しているお子さんは、乳児期の園児数が少ないということもあり、実数では1歳児がもっとも多いのですが、パーセンテージで見ますと、乳児で10・4%、1歳児で8・6%。どんどん減りまして、5 歳児(年長クラス)になると2・4%でした(スライド②)。これは、成長に伴い治っていくということをあらわしています。

では、治る仕組みは何か。この時期に起こることを考えてみたいと思います。まず、食物がアレルゲンとして働くための条件。これは一部にタンパク質を含んでいること。そして、IgE依存性のアレルギー反応を起こすためには分子量が1万以上であること、粘膜を通過するためには7万以下であることが必要です。逆に考えますと、成長自体が治っていく重要な因子であるということです。消化の力がしっかりしてきますと、タンパク質を小さく分解できる様になります。そうしますと、同じものを食べても症状を起こさなくなるのです。腸管の免疫による防御機構も働くようになります。分泌型のIgAが、アレルゲンの吸収を阻止してくれます。これも成長とともに備わっていく防御機構の一つです。大体、2〜3 歳頃です。

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