設立80周年記念 第35回母子健康協会シンポジウム(東京会場)
「保育における言葉とコミュニケーション」子ども達と保護者と共に育ちあいつながりあう保育

気持ちに寄り添う言葉(1)

専修大学人間科学部心理学科教授 吉田 弘道先生

吉田こんにちは、吉田です。

前川先生が「言葉とコミュニケーション」ということで、基本のことをお話しされました。そして、片野先生が現場のお話をされましたので、私は、ちょっと理屈っぽい話になりますが、言葉を意識して使うということをお話ししてみたいと思います。

例えば、「きょうはとっても寒いですね」と言って、「寒いですね」と返ってくると、私たちはうれしいですね。こういうふうに「応答」されると、我々はうれしいですし、応答されて嫌がる人はめったにいません。我々は、応答されるとうれしくなる生物なんだと思います。ですから、応答されることを求めているのかもしれません。

この応答ということがこれから関係してくる話になります。それは、保育者と保護者の方、保育者と子どものこと、保育者同士、うまく話しかけて応答してもらえると、何か安心するし、落ち着きます。さらに、話している内容もわかってもらえると、安心して、気持ちが通じたような感じがするわけです。気持ちが通じないと、通じるまで頑張るということもありますし、そのうち通じるだろうと、待っているということもあるわけです。

表1


表1 は、話しかける種類を整理したものです。

「挨拶」がおつき合いの始まりで、「寒いですね」と言って、「寒いねえ」と返ってくると、共感されるし、応答されて、ああ、よかったと思います。

そのほかに「説明」するとか、「報告」するということがあります。「きのう、お母さんとどこどこへ行った」と報告することです。「指示」は、「何々しなさい」「何々しましょう」ということです。保育園・幼稚園に行くと、「何々しなさいという言い方は減らしましょう」などと書いてあるところがありますけれども、それよりは、「何々しましょうね」と言うほうがいいのではないかと思われているようです。

それから、「誘い」。「さあ、何々しましょう」「一緒に何々しようか」という言葉もありますね。「提案」は、「何々しようか」「何々はどう?」ということです。「質問」は、「どうしたの?」「何があったの?」「おいしい?」などという言葉です。

さあ、今度が大事なところですけれども、「応答」です。「ああ、そうなの」「ああ、そういうことがあったの?」「ああ、あれを見ていたのね」。子どもが何か言って、「ああ、あれを見ていたのね」というのは、子どもの心や体の外側のことに関心があって、それについて、「あれね」と応答するわけです。あるいは、「お腹が痛いのね」「ああ、それが好きなのね」というのは、子どもの体の内側、心の中について応答しているということになるわけです。

子どもの心の内側に関心を持って、「ああ、そうね、お腹が痛いんだね」「ああ、それが好きなんだね」「ああ、それ面白かったのね」というふうに言ってあげる。こういうことは結構意識したほうがいいと思っています。

それから、「明確化」の言葉があります。「ああ、そういうことを言っていたのね」「ああ、そういうことなのね」「こういうことを考えているんじゃないかしら」と、子どもに言ってやるのが明確化です。保護者に対しても、「お母さん、そういうことを考えているんじゃないでしょうか」「こんなことを言いたいんじゃないでしょうか」というのが明確化です。

この明確化によって、「そうなんです、そうなんです」というふうに確認されて、お互いに理解されると、「ああ、よかった」と思うわけです。そういう意味では、明確化というのは大事です。明確化というのは共感にもつながっていきます。

明確化と関係して、「明確化の質問」というのがあります。「それはこういうことなんですか」「こういうふうに思ってよろしいですか」「今、お母さんが言われたことはこういうことでしょうか」というふうに明確化の質問をして、「そうそう、そうなんですよ」「何かうまく言えなかったけど、もっとはっきり言えてよかったわ」というのがあるわけです。このやりとりがうまくいくと、気持ちをわかってもらった、通じたということが多くなります。

そういう意味では、明確化する、あるいは、明確化の質問をうまく使うことによってより理解が深まるのです。これは職場の同僚との関係でもそうだろうと思います。「ああ、こういうことを言いたかったのね」「それはこれこれ、こういうことと思っていいかしら?」というふうに確認してみる。「あ、ちょっと違うんです」「どう違うのかな?」「これこれこうで、こうなんです」「ああ、そうだったのね」というふうなやり取りがあって明確になると、「ああ、そうか、よかった、よかった」「わかった、わかった」となるわけです。

そして、応答される、明確化でわかってくるということにもつながってきますが、「共感」。我々は共感してほしいと思っていますね。「それ悲しいわね」「それ、とってもうれしいね」「それって頭にくるわね」とか、いろいろ言ってほしいですね。そうすると、気持ちや、感情が通じたということで、自分に触れてもらえたという気持ちがして安心するわけです。

そのほかに、自分の考えを表明するということもあります。「そのことについてはこのように思うんですけど」と言います。子どもは、「何々やってよ」「何々してくれない?」と言います。

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