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設立80周年記念 第35回母子健康協会シンポジウム(大阪会場)
「保育に役立つ健康知識」子ども達の健やかな発育・成長のために

食物アレルギーの基礎知識と対応(2)

同志社女子大学生活科学部食物栄養科学科教授 伊藤 節子先生

もう一つ大事なのは、食品側の条件です。調理とか酸とか消化による影響を受けにくいものがアレルゲンとなります。ですから、調理によって何とか変性させて食べることができるようにすればいいということになります。ここにはかなり正確な情報が必要です。この点について、後で鶏卵を例としてお話したいと思います。

食物アレルギーへの対応というのは、食事療法(原因療法)と、起こってしまった症状に対する対症療法が2 本の柱ですが、3 つ目には、やはり社会的な対応、いろいろな仕組みを整えていくということが大事になってまいります。

食事療法は、原因となる食品の摂取回避が基本です。家庭では症状の出ない範囲で少しずつでも食べさせていきますが、園では治るまでは食べさせません。園では安全性の確保を第一として誤食の防止をする。そして、家庭では必要最小限の食品除去により、栄養面と生活の質(QOL)の維持に配慮しながら「食べること」を目指します。

原因療法は、正しい抗原診断から始まります。そして、除去は必要最小限、「食べること」が目的であるということを忘れないようにする。調理による低アレルゲン化や牛乳アレルギー用のミルクを必要とすることもあります。何かをやめれば必ず別の食品で代替をする。保育園では、この辺は非常によく実行されているということを日ごろから感じております。そして、離乳食の開始は遅らせる必要はありません。安全に摂取するということを常に念頭に置き、「食べること」を目指す。そして、大きくなれば治るという自然の現象をうまく利用します。

今、そういうことを研究しております。患者さんの生活の質を保つためにも、安全性の確保のためにも食品に対する知識が必要です。

鶏卵について少し詳しくみてみましょう。アレルギーを起こす原因となるタンパク質は主に卵白アルブミンとオボムコイドです。卵白アルブミンは卵白中のタンパク質の54% を、オボムコイドは11% を占めており、卵アレルギー児の3分の1はオボムコイド特異的IgE抗体陰性です。鶏卵の場合、どういうことが食事療法のポイントになるかということを、園での対応も含めましてお話します。

まず、鶏卵ほど安価で、必須アミノ酸のバランスという観点から100 点満点の理想の食品はほかにはありません。ただし、除去をしてもほかの食品を組み合わせてとることにより、簡単に栄養面の補いをすることができます。非常に調理特性がすぐれております。色もきれいですし、しかもおいしいです。ご家庭では天ぷらの衣、ハンバーグのつなぎに卵をお使いになっていらっしゃると思いますけれども、用いなくても調理が可能です。京都市内では、このような場合には卵を使用しない保育園が増えています。卵を使わなくてもすむ場合には卵を使用しないで調理する、卵アレルギー児もアレルギーのない児も同じものが食べられる。これほど安全なことはないということで、安全性、QOL(生活の質)の向上ということに役に立ちます。

鶏卵は非常にすぐれた性質を持っているということで、加工食品や灰汁取りに使われていますので、原材料の表示をしっかりと確認して使用します。そして、卵は加熱によってアレルゲン性が減る、これは非常に有名な話ですが、調理する条件をきちんと確認する。単に加熱という言葉では片づけられなくて、私も今、患者さんを診ておりますけれども、幼稚園・保育園で食べていいかどうかと聞かれるときに、「どうやって加熱をしますか」ということを確認していただいて、その上で指導するようにしております。

加熱により卵のアレルゲン性がどのように変化するのかを正確に理解するのは意外と難しいということをいくつかの例をあげてお話します。

スライド3

鶏卵の中では生卵の抗原性(=アレルギーを起こす性質)が一番高いというのは、皆さんもわかっていらっしゃる。生卵の抗原性を100%とした場合の、加熱卵料理中の卵白アルブミンとオボムコイドのアレルゲン性の変化を見てみます(スライド③)。

温泉卵は生卵に近いという概念を皆様はお持ちでしょう。確かに卵白アルブミンは90%あまりの抗原が残っております。しっかりと火を通して調理した3種類の卵料理の抗原性を生卵の抗原性と比べてみましょう。生卵と比べると炒り卵では10分の1、錦糸卵で100分の1、固ゆで卵では1万分の1になっています。特に炒り卵とゆで卵、同じ加熱卵料理ですが、卵白アルブミンの抗原量には1000倍ぐらいの差があります。原材料として含まれる卵白アルブミンのタンパク質量は同じであるのに、加熱により固く凝固するかどうかにより「食べる」側から見た抗原性が異なってきます。

スライド4

ところが、オボムコイドのほうは、加熱しても凝固しません。オボムコイドも加熱により抗原性が低下しますが、凝固しないため、卵白アルブミンほど顕著ではありません。温泉卵のように70℃で30分加熱すると、ゆで卵などよく加熱した卵料理と同じ程度まで低下する点が卵白アルブミンとの大きな違いです。こういうことをまず知っておかないといけません。

もう一つの例を挙げてみます。卵ボーロ1g(1、2個)と12分固ゆで卵50g(1 個)を比べてみましょう(スライド④)。オボムコイドの量を見ますと、当然、ゆで卵の方が多く、250倍以上含まれています。ところが、卵白アルブミンを見ますと、12分の固ゆで卵よりも、卵ボーロのほうが4、5倍多いのです。ですから、固ゆで卵を1個使った負荷試験が陰性でも、卵ボーロ1、2 個で蕁麻疹や咳が出ることがあるのです。よく経験することです。原材料としてのタンパク質量ではなく、「食べる」側から見た抗原量を知ること、これが実際の患者さんの指導には不可欠な情報です。

また、原材料としては同じ量の卵を使いましても、卵ボーロとビスケットでは「食べる」側からみた抗原性には大きな違いがあります。卵ボーロはいわゆる片栗粉(実は馬鈴薯でん粉)を使っていまして、ビスケットは小麦粉を使っています。同じ量の卵を原材料として使用した場合には、ビスケットの方が卵の「食べる」側から見た抗原性が10倍ぐらい高くなっています。抗原というのは、「食べる」側から見たもので判断しないと、なかなか食事指導には用いられないということがわかります。

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