設立80周年記念 第35回母子健康協会シンポジウム(東京会場)
「保育における言葉とコミュニケーション」子ども達と保護者と共に育ちあいつながりあう保育

総合討論(6)

前川どうもありがとうございました。

吉田先生、もう一つよろしいですか。

前川どうぞ。

吉田先ほどの質問票で忘れていたものがありましたので。「お子さんが発達の心配を持っている場合の、保護者とのつき合いはどうしたらよいか」という質問です。これはよくある質問ですね。

専門機関に通っているお子さんと、通っていないお子さんとで、だいぶ対応が違います。例えば専門機関に通っているお子さんであれば、専門機関でお子さんの発達をどうとらえていて、どの部分が、これからどんなふうに伸びてくるのかを知っていて、そのために何をしたらいいのかが(専門機関で)わかっている。それを保護者の方もわかっていて、保育者もわかっていて、そして、保育園・幼稚園でできることをする。これがわかりやすくて、理想的ということになります。

家庭と保育園・幼稚園と発達センターとで力を合わせて、発達の援助をしていけるわけですから、これが理想です。この関係がつくれるのが一番いいんですね。このことに気づいていない保護者の方も多いですので、園としては、「何々ちゃんについて、どういうことを心がけてやったらいいでしょうか。専門機関の先生から、こういうふうにやったほうがいいということを、教えてもらってきていただけませんか」というふうに言います。積極的な保護者の方は、発達センターならセンターに行って、「園でどんなことをしたらいいのか知りたがっているので、どんなふうにお伝えしたらいいでしょうか」と保護者の方が言って、センターの先生が、「じゃあ、これこれこうで、こうで、今はこれこれこうだから、この部分をこういうふうにするために、保育園でこんなことができるといいな」と言ってくれる。そして、センター(専門機関)、保護者、園で一緒にやっていく。これが理想ですね。

こんなことができているところはありますか?(挙手あり)少ないですが、ありますね。私もそれをやっていました。以前、生後1カ月から染色体異常の赤ちゃんを見ていました。発達を心理面から見ていて、運動面も見ていて、そして、「この辺がこんなふうに伸びていく、そのために、今こんなことをするほうがいいんじゃないでしょうか」「もしもよろしければ、これを保育園の先生に伝えてもよろしいですよ」と、お伝えしていました。そうすると、園の先生もそのつもりでかかわってくれるということがありました。

ただ、保護者の方がまだ専門機関にかかっていないけれども、どうしたらいいでしょうか、というのが一番難しいわけです。それで、保護者の方にどうお伝えしましょうかというのがよく出る質問です。そのときは、「今、お子さんはこれこれ、こんなことができていて、こんなところがこれから伸びようとしています」というように「状態」を伝える。当然、診断名は伝えません。「言葉がこんなふうで、ほかのお子さんよりちょっと遅いですけど、今、こんなにふうに伸びているところです」「運動面は、こんな発達をしていて、この辺はちょっとゆっくりですけど、こんなに伸びているので、ここを園ではこんなふうにしようとしています」というふうに、具体的にお伝えするのが一番わかりやすいです。

「今、お子さんはこんな状態で、今こんなふうに伸びていますよ」ということを、お伝えして、保護者の方も、「ああ、そうですね」とわかって、「じゃあ、うちでもこういうふうにやってみようかしら」というと、うまくいくわけです。「いや、うちの子はそんなことないから」とおっしゃったら、「まあ、そうですね。園ではそういうことを考えて対応していきますので、おうちでも少し様子を見ていてください」と言って、さらっと流す。園では頑張る、ということをするわけです。具体的にはそれしかないです。

そして、もっと心配になってくれば、保護者の方が「どこか専門機関を紹介してくれませんか」とおっしゃるので、「あそこはどうでしょう」というふうに教えることになります。そこで、専門機関と保護者と園で協力してやっていくことができればいいわけです。

その場合の理解の道筋というのは、例えば、言葉を中心とする知的発達の流れ、人関係・友達関係の流れ。この中には、遊び方も含まれるし、食事場面でのおつき合いも含まれます。そして、保育者とのおつき合いの質の違い、質の変化。あるいは、生活習慣で、トイレに行ける、行けない、手を洗う、洗わない、服を着られる、着られないという領域がありますね。その領域をずっと追っていって、今、この辺はこうなっています、これはこうなっていますというのが図示できると、一番わかりやすいですね。それは、保育のほうで図示して、理解していて、もしも興味を示したら、親御さんにもお伝えして一緒に考えてもらう。そうすると、「いや、うちではこうできますよ」「ああ、そうですか。じゃあ、ここはこうですね」とか、「うちではこの辺はできないけど」となったり、そういうことがわかって話ができると思います。

もう一つ、「相性が悪い」ということはよくあることで、相性が悪いということは、何かあります。その保育者が担当しているこの子と相性が悪いという場合は、考えてもらいます。「なぜ、どこが嫌いなの?」「ほかの子どもはそんなに嫌いじゃないのに、あの子がこうだとなぜ嫌いなの?」と、考えてもらいます。自分のこととして、「なぜ、この子がこうすると嫌いなのか、考えてみてください」と言います。苦しい対応ですね。そうすると、何か見えてくるかもしれません。「私とそっくり」とか、見えるかもしれません。そういうことは結構ありますね。そんなことです。時間がそろそろですので、この辺で終わりにします。

前川いかがでしたか。いろいろなところでいろいろな問題が出ていますけれども、二人の先生の話が素晴らしいので、私の出番がありませんでした。皆様、今日お話を聞いてああしよう、こうしようといろいろなことがあったと思いますが、園長が片野先生で、心理に吉田先生がいて、小児科医の僕がいるなんていう園はほとんどございませんので、問題が起こったときに、どういうふうにして解決したらいいか。その園でできる範囲のことをやって戴ければ、それが最高だと思います。

これだけストレスが多い時代に、例えば夜寝られなくても、きょうはよく寝られたとか、ある程度やってうまくいかなくても、「ここまでやったらいいじゃないか、よくやった」とか自分を良い意味で騙すそれは、片野先生に言わせれば肩に力を入れないで、ほどほどにできる範囲でやるということも解決の方法ではないかと思います。

本当はもう少し質問の時間をとりたかったのですけれども、時間がありませんので、これをもって本日のシンポジウムを終わらせていただきます。

長時間、ありがとうございました。(了)

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