4.出血症状を見た時の診断アプローチ

(1)出血症状の観察

出血症状や出血部位を確認します。紫斑では、まず、斑状出血か点状出血の観察が重要です。点状出血では血小板異常か血管異常を疑います。子どもで紫斑の多発を見た場合、虐待が疑われますが、出血性素因をまず念頭に置くことが重要です。両下腿前面に診られる丘疹様の点状出血ではIgA血管炎を疑います。鼻出血は小児でしばしばみられる出血で、必ずしも出血性素因を意味しませんが、頻回の鼻出血や止血困難な場合は出血素因を考えます。関節の腫脹・疼痛や関節の動きが低下している場合には、関節炎だけではなく関節内出血も念頭に置きます。関節以外の四肢の疼痛、腫脹や運動低下が見られたら、筋肉内出血を考えます。腸腰筋出血は大腿神経や血管が圧迫されえて麻痺や循環障害をきたす危険性があり、迅速な診断を要する出血症状ですが、股関節の進展障害を伴うpsoas positionを取ります。また、右側の腸腰筋出血の場合、虫垂炎と間違われる場合があります。新生児の臍出血は先天性凝固障害症を疑う重要な症状です。フィブリノゲン欠乏症、第Ⅷ因子欠乏症やαアンチプラスミンインヒビター欠乏症を疑います。出血性素因による血尿は、鮮紅色の肉眼的血尿です。血尿をきたす場合、少量の出血でも鮮紅色の尿になります。消化管出血も出血傾向を疑う症状ですが、消化潰瘍、腹部打撲では大量の出血をきたすことがあります。血友病で、腹痛や嘔吐などの腸閉塞症状がみられた場合は、腸管壁内血腫の可能性があり、超音波やMRI検査が必要です。新生児にみられる消化管出血(新生児メレナ)ではビタミンK欠乏症を考えます。頭痛、嘔吐、意識障害、けいれんがみられたら、頭蓋内出血の可能性があります。出血性素因を背景に発症する頭蓋内出血はゆっくり進行する場合も多く、時に乳幼児の場合、胃腸炎と誤診されてしまう例があります。出血のみならず、創傷治癒遅延や縫合不全をきたす場合も出血性素因を疑う。血小板異常やvon Willebrand病などの女児では生理が始まると出血が遷延し、出血量が多くなります。重度の貧血を伴うことがあります。

(2)全身状態の把握

バイタルサインのチェック等、全身状態を把握する必要があります。出血量が多い場合は、顔色が不良、蒼白になり、脈拍も早くなります。また、慢性の出血症状では貧血のために活動性が低下します。出血量が多い場合はショック状態にもなり、意識レベルも低下します。全身状態が不良で、緊急性が高い場合には貧血のチェック等一般血液検査、凝固スクリーニング検査を直ちに実施します。出血歴や家族歴を確認も重要です。出血症状を反復する場合には先天性の出血性疾患を疑います。初めての出血症状の場合は後天性の原因を考えます。貧血の確認や基礎疾患の有無を調べるために血液検査を実施します。

(3)問診のポイント

出血素因の有無や出血性疾患の診断で、これまでの出血症状に関する病歴や家族歴を聴取することはきわめて重要です。まず、出血症状が初発か、反復性か、出血症状が初めて出現したときの年齢と出血部位、感染の有無、免疫異常等その他の基礎疾患の有無などについて聴取します。反復性の場合は先天性の出血素因を疑います。この場合、疾患や原因により出血症状の初発年齢が異なります。例えば、無フィブリノゲン血症、先天性第 因子欠乏症、αアンチプラスミンインヒビター欠乏症では臍出血、ビタミンK欠乏症ではメレナを発症しますが、いずれも新生児期です。一方、ビタミンK欠乏症は乳児期に頭蓋内出血を発症します。

血友病は活動の高まる乳児期後半から主に紫斑を中心に症状が明らかになりますが、血友病に特徴的な関節出血は通常歩行開始以後みられます。軽症の血友病では出血症状の初発はもっと後になることもあります。von Willebrand病は幼児期以降から紫斑や鼻出血を主体として出血症状が徐々に明らかになりますが、学童期以降、月経過多で診断される場合もあります。

先天性の出血素因は遺伝性疾患に分類されます。最も発生頻度の高い血友病はX連鎖劣性遺伝形式をとりますが、家系に他の出血者がいない孤発例が約1/3存在します。血友病以外の先天性凝固異常症は常染色体性遺伝形式をとります。特にvon Willebrand病タイプ1は優性遺伝形式で家系に出血者が多発します。重症のタイプ3は劣性遺伝性です。