5.これからの新生児マス・スクリーニング

タンデム・マス試験では、多種類の代謝物の定量が可能であるため、発見可能な疾患は30疾患にのぼります。しかしながら、治療法が確立している、自然歴が分かっている、擬陽性・偽陰性が少ない、などの要件を考慮して現在の16疾患が選定されています。現在導入を検討中の疾患は、二次対象疾患と呼ばれており、6疾患存在します。この中で、脂肪酸代謝異常症のひとつであるCTP2欠損症は、発生頻度や発症予防の点から新生児スクリーニングの効率の高い疾患として検討されてきましたが、従来のタンデム・マス試験の判定基準では見落としが多いことが分かっていました。最近新しい判定基準が検討され近く一次対象疾患への繰り上げが検討されています。タンデム・マススペクトロメトリーを用いて、現在測定しているアミノ酸やアシルカルニチン以外の代謝物の測定が研究されています。グリコサミノグリカンという多糖体の検出により、ハーラー病やハンター病といったムコ多糖症の新生児スクリーニングを可能にする検出法として注目されています。

タンデム・マス試験以外の検査手法による新生児スクリーニングが研究されている疾患がいくか存在します。免疫不全症の一部は、DNA検査によりスクリーニングが可能です。特に、リンパ球の分化が障害されるために末梢血中のリンパ球が減少し、幼少期からウイルスや結核菌などの重篤な感染症を発症する重症複合免疫不全症では、生後6ヶ月に接種しているBCG生ワクチンを受けると重症結核を発症する危険があり、早期診断し、造血幹細胞移植などの治療を早期に開始する必要があります。この検査には、乾燥ろ紙血からDNAを抽出し定量的PCR法という検査を実施することで新生児スクリーニングが可能であり、実際、米国では多くの州でこのスクリーニングが実施されています。我が国でも愛知県でパイロット研究が開始されています。

先天代謝異常症である、リソソーム病やペルオキシゾーム病などの疾患で新生児スクリーニングが研究されています。リソソームは、不要になったタンパク質などを分解・廃棄する細胞内小器官で、ここで働く酵素が遺伝的に欠損している疾患をリソソーム病と呼んでいます。リソソーム酵素は大変丈夫で安定な酵素が多く、乾燥ろ紙血のなかでもその酵素活性が失われません。この性質を利用し、乾燥ろ紙中の酵素活性を測定することで、ポンペ病やゴーシェ病などの新生児スクリーニングが検討され、米国では既に実施されている州もあります。また、ペルオキシゾーム病のひとつである副腎白質ジストロフィーは男児のみで発症する疾患で、3~5万人に1人とかなりの頻度があります。この疾患は早期に診断し、造血幹細胞移植を行うと病気の進行を阻止できますが、家族歴がない場合早期診断は困難で造血幹細胞移植が有効な時期に診断されない症例も多く存在します。また、遺伝子治療の成功例も報告されており新生児スクリーニングによる早期発見に大きな期待が寄せられています。現在、異常代謝物質である極長鎖脂肪酸やその代謝物を測定することによる新生児スクリーニングが検討されています。