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特集  座談会「子どもの食育」
東京慈恵医科大学名誉教授 前川 喜平 先生
東京女子医科大学名誉教授 村田 光範 先生
こどもの城 管理栄養士 太田 百合子 先生



朝食の欠食

前川 ありがとうございます。両先生のこの問題に対する幅広いスタンスがおわかりいただけて、非常にありがたいと思います。
 それでは、現在の食育の問題のことに入りたいと思います。まず最初に、朝食の欠食。朝ご飯を食べない子どもが近頃、主に学校で主に問題になっています。さらに大学生、働いている人にも問題になっていると思うのですが、小学生、中学生の朝ご飯を食べない子どもの頻度というのはどのくらいですか。
村田 いろいろなところから報告が出ていますが、一つは、日本学校保健会というところが「児童生徒の健康状態サーベイランス事業」というのをやっています。そこの報告ですと、小・中学校で10%ぐらい、高等学校で20%ぐらい。平成18年に第一回の『食育白書』が出たときは、これは日本スポーツ振興センターというところから出している2000年度のデータですが、小学校5年生で20%、中学校2年生で25%という数字が出ています。だけど、また日本スポーツ振興センターの新しい調査で、平成17年度に出ましたが、これだと、やや改善されてきているという数値が出ています。
 ですから、大雑把に言うと、小中学生の10%ぐらい、高校生で20%ぐらいが、朝食を「ほとんど食べない」とか、「食べないことが多い」という、その二つのグループをまとめているのですが、妥当な頻度ではないでしょうか。東京都が平成十四年にデータを出していますが、これも同じような数字ですね。
前川 太田先生、「こどもの城」で子どもたちを見ていて、朝ご飯を食べない子どもたちもいますか。
太田 実は、私のところは肥満のお子さんたちの相談が多いのですが、もともと食べることが大好きなので、朝ご飯欠食ってほとんどないのですが、内容がちょっとまずいですね。

前川 偏っている。
太田 結局、お母さんたちの食べている食事が、コーヒーとパンと生野菜サラダみたいなものだったりすると同じ内容の食事は幼児期のお子さんは食べにくいですよね。パンはパサついて食べにくい、生野菜はゴワゴワして食べにくい。それを大人と同じように出されたのでは、子どもはやはり食べる意欲がなくなるんですね。
 奥歯が生えそろっていない三歳ころまでの幼児には食べにくいものがあります。食べにくい食品には特徴(表1)があるので、少し手間をかけた調理の工夫が大切になってきます。
 約10%のお子さんが朝食を食べていないという実態もありますが、むしろそれ以上に、例えば朝からドーナツとジュースだけのような組み合わせのものだったり、食べても、ちょっとしか食べていないという問題があります。朝ご飯はパワーのもとになるので、バランスのよい食事が摂れるように、あるいは作れるようにアドバイスしてあげたいなと思いますね。
前川 保育園の話ですが、忙しくて、眠っている子どもを無理に起こして、ろくにご飯を食べさせないで連れてくるようなお母さんがいて、保育園に来ても子どもたちは活発になれないのです。おそらく、村田先生がおっしゃった、小学生が朝食を食べないというのは、多少それ以前の習慣も引きずっているような気もするのです。これはデータが出しにくいのですが。
 それで、なぜ朝食を食べなくてはいけないのですか、どうして朝食を食べないと悪いのか、ということを問題にしたいのですが、どうですか

  1. ぺらぺらしたもの・・レタス、わかめ
  2. 皮が口に残るもの・・豆、トマト
  3. 硬過ぎるもの・・かたまり肉、えび、いか
  4. 弾力のあるもの・・こんにゃく、かまぼこ、きのこ
表1 食べにくい食品

村田 朝ご飯を食べないことが子どもに一番大きく影響するということは、外国ではたくさん出ています。日本でもデータがあるのですが、外国の場合、アメリカにしても、その他の国にしても、子どもが朝ご飯を食べない理由というのはちょっと日本と違って、経済的に破綻しているとか、家庭が崩壊していて朝ご飯をつくってくれる人がいないとかいうことですが、朝ご飯を食べない子どもたちに「朝ご飯給食」というのをやっています。
 朝ご飯給食をやればアカデミックパフォーマンスが上がるというのは、これはもう定説と考えていいですね。学校の成績とか出席率とか、いろいろなものが非常によくなる。アカデミックパフォーマンスというのは、わが国で言う学業成績より、もうちょっと広い意味があるようです。
前川 学校におけるアクティビティですね。
村田 ええ、そうです。論文を読んでみると、それが上がるということです。わが国ではそういう調査はなかなかしにくいのですが、平成15年に国立教育研究所が、基本的な教育がどうできているかということで学力テストをやっているのですが、その学力テストで、「いつも朝ご飯を食べている」「朝ご飯を食べないことがある」「時々食べない」「全く食べない」というグループに分けて、小学校5年生と中学2年生の国語、理科、社会、算数、それから、中学は2年生で英語をやっていますが、非常にきれいに平均点に差が出ているんですよ。要するに朝ごはんを食べている子どもは各科で成績が良いのです。
前川 本当ですか。
村田 ええ、この報告は第一回の『食育白書』にも載っています。
 これはいろいろな理由があるのですが、恐らく一つは、朝ご飯を食べないと血糖値が下がるわけです。血糖値が下がりますと、当然、脂肪をエネルギー源に使おうとして遊離脂肪酸が上がってくるのですが、脳とか赤血球というのは遊離脂肪酸をエネルギー源にできないのです。それでブドウ糖を使うわけですが、あまり食べていないと、肝臓にたまっているグリコーゲンがなくなってしまう。もう一カ所、筋肉にもグリコーゲンをためているのですが、筋肉のグリコーゲンは血中に出てこないのです。自分を動かすだけですね。そうすると、筋肉の蛋白質が壊れてアミノ酸になって、そのアミノ酸が肝臓でまたブドウ糖になって、脳を養うわけです。
 そうなると体はどうなるかというと、これは大変なことですから、摂食中枢が刺激されるわけです。摂食中枢が刺激されたら、動物というのは最も攻撃的・排他的になるわけですね。餌を探すのにのんびりしていてはいけない。のんびりしていたら餌を取られてしまいますから。食事をしているときというのは、動物は最も脳を働かせているわけです。だから、歯を食いしばったりしたら頭がピンとするというのは、生理的背景があると思うのです。
 そういう心と体の状態ですから、とても落ち着いて勉強するという雰囲気でなくなってくる。それと小学生、中学生、高校生あたりが朝ご飯を食べない理由というのは、80%ぐらいが、「食べる時間がない」と「食欲がない」、この二つです。要するに朝寝坊型でダメなんですね。こういう体の状態だと欠食せざるを得ないというか、食べられないわけです。
 そういう体調のところへもってきて、朝ご飯を食べない今のような糖代謝の背景がありますから、朝ご飯を食べない子は…まあ、それだけじゃないですけれども、やはり学業成績に影響するというのが一番の問題で、それと、情緒的に安定しない、落ち着かない、苛立っている。これは東京都の教育研究所の成績にも出ていますが、キレるのは朝ご飯を食べない子に多いです。
前川 夜たくさん食べて、肝臓にグリコーゲンをたくさん貯蔵しておけば、朝食べなくても大丈夫なんですか。そうはいかないのでしょう?
村田 肝臓に貯まるグリコーゲンは限度があって、貯め置きができないのですよ。それに夜食で摂った多くのエネルギーが脂肪になってしまうので困ります。
前川 1回の食事で山のように食べて、グリコーゲンをつくって。
村田 そんなにたくさん夜食べてもらったら、困る。(笑)さっき言ったように肥満になってしまう。
前川 3回食べたほうが食事毎に貯蔵されたグリコーゲンが使われて、頭が活発になるという話を聞いたことがあるのですが。

村田 そうですね、食事が十分できるという条件の中であれば、どの民族も、どの社会も、1日3食食べるといいますから、それは合理性があるのだろうと思います。
前川 太田先生、いかがですか。
太田 私は、3回決まった時間に食べないとイライラすることがわかっているので意識してきちんと食べるほうですね(笑)。朝ごはんを食べていない子どもは、無意識にイライラしているからかわいそうです。この朝食が食べられない原因に「夜食」という問題があるんですね。平成七年度乳幼児栄養調査では、一歳で40%、夜食を摂っています。
前川 エッ? 1歳で。
太田 はい。要するに、夕食を食べてから2〜3時間後に何かを摂っている。2〜3歳になると30%です。このような実態ではやっぱり朝はお腹が空かないですね。
 なぜ夜中に食べなくてはいけないのかという状況ですけれども、日本小児保健協会の幼児健康度調査報告にもありますが、どの年代でも、10時以降の就寝が2人に1人です。少し改善したとはいわれていますが、やはり2人に1人はいるわけで、私は、その辺が非常に問題だろうと思います。
 いま「朝ご飯運動」で、朝ご飯を食べさせようと親も一生懸命なのですが、夜食の部分を変えないことには……。幼児は、お腹がすいたときにドンピシャリで食べたいわけですよ。「今はお腹が空いていなくても、もうちょっとでお腹がすくから今のうちに無理しても食べておこう」なんて思わないわけです。

前川 そりゃそうですね。
太田 やはりお腹がすいているのが条件なので、その辺をどうにかしなくてはいけないと私は思います。ですから食べやすいものが必要だと思います
村田 「生きている」ということを実感するのは、新生児なんかはそうだと思うのですけれども、空腹になっているときに温かい母乳をもらうことで、本当に生きているということを感じているのではないかと思います。ですから、やはり空腹のリズムというものがきちんと保たれて、それが心地よく満たされることが、生きていく上で最も大切なことなのですが、それがなかなか守られない。

前川 さて、ここで、朝食の欠食に対する対応はどうしたらいいか、何かサゼスチョンを。
村田 小さい子どもたちはなかなか難しいのですが、文科省から食生活をよくしていくための副読本が出ています。小学校低学年用、高学年用、中学生用とあるのですが、小学校高学年用には朝ご飯はどのように食べたらいいか、そして赤色の食品、緑色の食品、黄色の食品をそろえて食べるよう教えています。
 赤色の食品というのは、聞くと、みんな「トマト」なんて言うけど、そうじゃなくて、体や血のもとになっていくたんぱく質のもの、卵とか牛乳、そういった類のもので、緑色の食品というのは野菜類。黄色い食品が炭水化物と油です。
 これが中学、高校になると半分ずつに分かれて、厚生労働省が言う六つの食品群に分かれるのですが、小学校のときは「三つの食品群」と教えるわけです。とにかく朝ご飯は「この三つの食品が揃ったものを食べましょう」、と教えてます。
 だけど、その次に問題なのは、もしも朝ご飯の用意がされていなかったら、何も食べずに学校へ行くのではなくて、「自分でその三色の食べ物を探して、自分で朝ご飯を食べて行きなさい」と書いてあるのです。

前川 へえー、そこまで書いてあるの?
村田 なぜ、そのことを言っているかというと、文科省はその副読本を全国に配って、もう十年ぐらいになるでしょうか。議論したに違いないと思います。小学校とか、子どもがある程度大きくなって手が離れるようになると、確かに子どもさんを持つ親は仕事等で忙しいですから、子ども自身に自分で食事をする力をつけさせようと(笑)。私は、「ああ、こういう世の中になったんだ」と思ったのですが、そうでもしないとなかなか子どもたちが朝ごはんを食べられない状況なのですね。
 ですから、ある意味では小学校では遅過ぎるのではないでしょうか。そういう基本的な食習慣を親子共につくっていくには、乳幼児期からそういうことの重要性を教育することが大切ですね。
太田 その「三つの食品」は、私もよくお母さんたちに伝えます。ただ揃えればいいということではなくて、具体的にいえばパンやサラダでは幼児は食べづらいわけです。だから、「三つの食品」の中から食べやすい方法があるよとお伝えします。一つは、ご飯。パンは唾液を吸って食べにくいですが、ご飯は水分があって、例えばおにぎりだったりすると、子どもは食べたくてつい手が出ますね。
前川 つまんで口に入れられる。
太田 はい。そこに海苔と、シャケとか入っていたら、たんぱく質と炭水化物と、ちょっとしたミネラル。そこに具だくさんの味噌汁が添えてあったら、「それでいいじゃない?」って思いますね。
 今までは、手作りすることが当たり前でしたが、忙しい中でお母さんたちはそれすらできない方もいらっしゃる。それだったら、コンビニでサンドイッチを買うにしても、野菜ととたんぱく質が入っているものを買っていらっしゃいとか、それを朝ご飯として買い置きするといいですよとアドバイスします。ちょっとできる方には、朝食用にまとめてお好み焼きを作ってもらいます。キャベツと小麦粉と、卵、そこにジャコや桜海老、お肉を入れてみたり。冷凍保存したものを電子レンジでチンするだけでも立派な一品になるわけです。
 そういう簡単なことをお母さんたちにお伝えしてあげると、「ちょっとやってみようかな」って思われるのではないかなと思います。




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