1.イントロダクション「新型コロナウイルス感染流行下での子どもたちの生活を振り返って」(1)

皆さん、こんにちは。

今日は、会場に約50人の方に集まっていただき、約340人の方がウェブで視聴されているということです。母子健康協会の活動は90年近い歴史があり、特にこのシンポジウムは、1980年から毎年1回開催し、今回で第43回を数えます。おととしはコロナのためにウェブのみで、去年はハイブリッドでの開催でした。今回はコロナの環境も落ち着き、多くの方が来場されています。私のほうからはイントロダクションとして、今回の趣旨も含めてお話をさせていただきます。

スライド1 イントロダクション

この会には保育関係の皆さんにご参加いただいていますが、日本の保育園ほど早くから感染対策を徹底し、子どもたちを受け入れ続けたところは他にないのではと思っています。海外では学校などがなかなか再開できなかったのですが、日本では保育の関係の方、教育の関係の方が、本当に感染対策を一生懸命頑張っていただきました。私自身、小児科医としてとても感謝しています。

コロナ禍を振り返ってみると、今は第8波ですが、第5波、第6波、第7波がありました。

スライド2の右側のグラフは、コロナ陽性者における子どもの比率です。赤い線から下が20歳未満、黄色い線から下が10歳未満ですが、2020年頃は子どもが感染することは稀でした。2021年頃から子どもも感染するようになりましたが、それでも子ども同士では簡単には感染しないよ、大人からうつっているだけだよと、私たちも発信していました。

スライド2 2021年以降 子どもの新型コロナ陽性の小児例の漸増

しかし2021年の夏頃から、そうでもないという状況になり、2022年に入ってからは子どもの感染者の数が多くなり、どちらかというと子どもが大人にうつしているのではないかといわれるようになりました。その子どもも元は大人からもらっているのだと思いますが、オミクロン株になって子どもから子どもへの感染も起きるようになったため、どうしても広がってしまうということだと思います。

スライド3 2022年オミクロン株の流行

このように子どもたちの感染が増えていったのは、同じ新型コロナウイルスといっても、そのウイルスの性質が変わってきたからということだと思います。逆にいえば、最初の頃の新型コロナウイルスは子どもだけかかりにくいという不思議なウイルスでしたが、ある意味でほかのウイルスと同じように、子どもも大人もかかるウイルスに変わったのだと思っています。それが2022年の1月頃からのことです。現在やっと第8波が少し収まるようになってきて、私たち病院も少しほっとしているところですが、今はまたインフルエンザが増えてきています。コロナであれインフルエンザであれ、そうしたウイルス感染がはやる中で大事なのは、子どもたちの生活をどう続けていくかということだと思っています。

スライド4のオレンジの線が、コロナ陽性になった0~4歳の子どもたちの数です。2021年頃はほとんどいませんが、2022年から急増し、2022年の夏の第7波以降は跳ねあがっています。この「BA」の名前がつくシリーズのウイルスは本当に厄介なウイルスだなと思っていました。

スライド4 オミクロン株以降は子どもの陽性者数の急増

私たち小児科医の立場でいうと、第5波のデルタのときには、そもそも感染しているお子さんが少なかったのですが、病院での治療が必要なケースはありませんでした。しかし第6波あたりからは変わってきました。とはいえ、押さえておかないといけないことは、圧倒的に高齢者の方のほうが重症化する、ということです。

スライド5-①は厚生労働省の資料で、左側が年代別のコロナで亡くなられた方の数、右側が重症の数です。亡くなられた方や重症者は高齢者が多く、子どもたちのところはほとんど棒グラフがありません。これはもう間違いのないことですが、2022年になってから、インフルエンザなどと同じように、それなりの症状を認める方が私たちの病院などにも入院するようになってきました。

スライド5-① 新型コロナ全体の中で小児若年者の重症者や死亡は少ない

スライド5-②の呼吸器の症状としては、クループといって、息を吸うときに吸いづらくなるというぜんそくのような症状のお子さんが救急にいらっしゃったり、けいれんの方がとても多かったです。けいれんの方の中には、急性脳症といって、その後に意識混濁が続くなど、重篤になる方もぽつぽつと全国で出てきました。また心筋炎といって、心臓の筋肉に炎症が起こって具合が悪くなるお子さんも少数ですが出てきて、小児科医の中で、そうした重症の子も出てきているというのが話題になってきたのが2022年の春頃でした。

スライド5-② 小児科学会のオミクロン株流行に関するまとめ

スライド6は、亡くなったお子さんの調査を国が行ったものです。2021年12月までは、20歳未満では10代の方が3名亡くなっています。ところが2022年は62名の方が亡くなっています。その多くは、半分以上は基礎疾患のないお子さんなので、もともと元気なお子さんがコロナにかかって亡くなってしまったということです。感染したお子さんの数が非常に多いので、けしてインフルエンザより重症化しやすいということはないと私は思うのですが、ただ、ウイルス感染症なので、やはり重症になる方や、亡くなるお子さんが出てきたというのが2022年のウイルスの変化でした。

スライド6 オミクロン株の流行以降国内でもCOIVD-19感染により亡くなる子どもが報告

同じ調査でワクチンの接種状況も明らかになっています(スライド7)。接種年齢の対象外だった方が24名、5歳以上で未接種だった方が23名、2回接種していた方は3人のみで、やはり比率としては少ないなと思います。こうしたことを統計で議論するときには、全体の母集団の中でどれだけのお子さんがワクチンを打っているかということから解析するのですが、ワクチン接種率も低いので、なかなかこれだけではものは言えないとは思います。亡くなったお子さんの中でワクチン接種されていなかった方が47名というのは、もし接種をしていれば違ったかなということは、やはりどうしても考えてしまうというところです。

スライド7 オミクロン株の流行以降国内でもCOIVD-19感染により亡くなる子どもが報告(続き)