総合討論(33)

前川 では、最後に、今手を挙げられた方。

質問者 今日はいろいろありがとうございました。

今日、発達障害類似症状ということを聞きました。これは、適切な支援を行うことにより健常な子どもに育つとおっしゃいましたけれども、適切な支援を行わなければ、発達障害に近いことになっていくことにもなりかねないのではないかと思いますが、この「適切な支援」というのをもう少しお聞きしたいような気がします。そして、早ければ早いほどよいとおっしゃいましたけれども、その辺の根拠についてもお願いしてよろしいでしょうか。

前川 対応について私の講演の最後に述べたことを参考していただければと思います。要因が複雑にからみますので、総合的に支援が必要です。洲鎌先生という、成育医療センターで研修医に発達障害の講義をしていた先生がいます。「発達障害がある乳幼児は、こういう行動的な特徴があるから注意してください」といった項目が、私が説明した項目なのです。自傷とか、いろんなことが書いてありますね。それで、そういう目で見ると、わりとああいうことを呈するお子さんが多いのだと思います。発達障害は支援が早ければ早いほどいいというわけではないのです。そのお子さんの特徴をまるごと受け入れて、伸ばすところを伸ばす。だから、診断をつけることがマイナスになることもあると思います。それがなかなか難しいと思うのです。

それから、今困っているのは、早ければ早いほどいいという、さっきおっしゃった考えです。早ければ早いほどいいわけではないのです。要するに、社会へ出るのにまだ時間があるから、その間に、社会へ出て困らないようにいろんなことの準備をしますよという支援ならいいのです。ところが、発達障害があるからと言われちゃうと、親も何か治療しなくてはと思うのです。発達障害は治らないのです。治療ではなく如何に社会生活を送るかです。今の社会で一番困っているのは、レッテル貼りが多過ぎるのです。レッテル貼りではなくて、それは子どもの特性と考え、将来社会適応する支援を行えばよいのです。社会にでるまでにどうしてあげたらということを支援するほうが早道のような気がしますが、どうですか、先生。

秋山 広汎性発達障害や自閉症という診断名が、自閉スペクトラム症という診断名に変わりました。スペクトラムというのは、ここから正常で、ここから発達障害と切れ目がなくて、なだらかになっているからということで、判断がすごく難しいのだと思います。それをはっきりしなければその対応ができないということではなく、はっきりしなくても、そのときそのときに対応していくというのが適切な対応と言われています。

何で適切な対応をしなければいけないかという一つの例を挙げると、子どもが間違った学習をしていくことです。例えば、大きな声でしゃべっているときに怒られる、でも、相手にしてもらえるから、大きな声を出したほうがうれしくなるというふうに、間違った学習をしていきます。そうしているうちに毎回毎回怒られて、自分は悪い子じゃないかと自己肯定感が下がって、学校に行きたくないなどの二次障害が起きます。ですから、誤った学習をし始めたときに、早く、「それは違う」という訂正をしていくということで、早目に対応したほうがいいのではないかということが一つの例ではないかと思います。

前川 今日は、「育てにくさ」への対応ということでシンポジウムを開催いたしました。それで、いろいろなヒント的なこと、お子さんも親御さんも千差万別なので、私としては、これを一つのヒントとして、皆様のいらっしゃる保育園や幼稚園で対応して、少しでもプラスになってくれたらありがたいと思っております。

これをもちまして、本日のシンポジウムを終わりたいと思います。(了)