予防接種(2)

麻疹:かつて、麻疹は乳幼児を中心として、年に数万から数十万人が感染していましたが、麻疹ワクチンの接種率が向上した結果、流行規模が小さくなるとともに、感染の中心が徐々に高校生や大学生、成人に変わってきました。麻疹に罹った高校生や大学生を調べると、ワクチンを一回接種したことのある者が多く含まれていました。以前は、麻疹ワクチンを一度接種すると一生涯免疫が持続すると考えられていましたが、このような事実から、一回接種では不十分で、二回接種が必要であると考えられるようになり、2006年からMR(麻疹・風疹)ワクチンの二回接種(1歳時の1期と、小学校入学前1年の2期)が導入されました。さらに、2008年度からは5年間の時限措置で、第3期(中学1年生)と第4期(高校3年生)の接種が実施されましたので、当時の18歳未満、現在の26歳未満の方々はみなMRワクチンを2回接種する機会があったことになります。第3期、第4期の接種率は80〜 90%でしたので、せっかくのチャンスに接種を受けていない方が多くいたのは残念なことです。それでも、第1期の接種率は95%以上、第2期は90%以上となり、麻疹に免疫のある小児の割合が増加したため、数万人規模と推計されていた麻疹の患者数は、2011年には麻疹患者の全数を把握できる数百人規模に激減しました。流行した麻疹ウイルスの遺伝子を調べると、それまで国内に土着していた麻疹ウイルス型(遺伝子型D5)は全く見つからなくなり、海外から国内に持ち込まれた麻疹ウイルス型(遺伝子型D8、D9、H1など)が小規模な集団発生をおこしていることがわかりました。かつての天然痘の撲滅のようにはいきませんが、日本の国内から土着のウイルスが排除され、持ち込まれたウイルスの流行も小規模にとどまり、短期間で終息する状況に達したため、2015年に世界保健機構(WHO)より日本における「麻疹の排除」が認定されました。かつての麻疹輸出国から麻疹排除国になれたことは大変喜ばしいことですが、海外ではまだまだ麻疹の流行がみられますし、予防接種率が下がり感受性者が増えると、国内でも大きな流行になる可能性が十分にあります。今後ともMRワクチン1期、2期の接種率を高く(95%以上に)保つことが重要になります。

細菌性髄膜炎:細菌性髄膜炎は小児の重症細菌感染症の代表です。つい最近まで、国内で年間約1,000人が罹患し、約5%が亡くなり、約20%に中枢神経系に重症の後遺症が残るという、抗菌剤が発達した現代においても非常に重篤な疾患でした。小児の細菌性髄膜炎の約半数がインフルエンザ菌b型(冬に流行するインフルエンザウイルスとは異なります)により、約1/4が肺炎球菌によります。インフルエンザ菌b型感染症を予防するワクチン(ヒブワクチン)は、欧米では1980年代に普及しましたが、日本に導入されたのは20年以上遅れた2008年12月でした。小児用肺炎球菌ワクチン(高齢者に定期接種されている肺炎球菌ワクチンとは異なり、乳幼児にも免疫がつくように改良されています)は、米国では2000年から接種が開始されましたが、日本には2010年2月に任意接種ワクチンとして導入されました。任意接種のうちは接種率が十分ではありませんでしたが、2010年11月より両ワクチンに対する公費助成が開始されて接種率が著明に向上し、2013年4月からは定期接種となり、95%以上の接種率が維持されています。これにより細菌性髄膜炎の発生が激減しました。厚生労働省研究班(Hib、肺炎球菌、HPV及びロタウイルスワクチンの各ワクチンの有効性、安全性並びにその投与方法に関する基礎的・臨床的研究)による調査では、インフルエンザ菌b型によるものは95%以上の減少を、肺炎球菌によるものは60%以上の減少を認めています(図1)。

図1 小児期侵襲性細菌感染症の罹患率