第34回母子健康協会シンポジウム 「子どもたちの遊びと体づくり」
4.総合討議(5)

前川僕のところに質問が来ていまして、「子ども時代に真剣に遊びきるといった体験がとても大切だと思い、日々、保育を考えています。遊びの本質、楽しさを知らないまま大人になると、どうなるでしょうか。これが今後起きてくるのではないかと懸念しております」。今日のシンポジウムは、こういう方がいないように一生懸命やっていますけれども、人間というのは、人と人とのふれあいによって育つのですよね。子どものころのある時期に、ふれあいによっていろんなことを体験して学習するのが「遊び」なのです。もしそれをやらないと、人間らしからぬ人になるのです。よくいますでしょう? コンピュータは強いけれども、人と話ができないとか、そういうことになってしまうと僕は思います。

ここにいる皆様、目をつぶって、子どものころ、そういうふうに楽しかった思い出のある方、手を挙げてみてくれる?

それでも結構いらっしゃいますね。逆に、手を挙げない人はそういう原風景がないので、これからでもいいですから、ぜひ、自分の心の中に楽しい思い出があるような大人になったらいいと思います。これは難しいんですね……。これからますます、効率第一でこういうことをやっていると、ますますそういう大人が増えて、世の中がますます暮らしにくくなるというのが僕の心配事です。これは、社会全体が変わってくれなければどうにもなりません。

あと10分ほど時間がありますけれども、ここで、ぜひ皆様に感じてほしいのは東間先生の情熱です。子どもに対する細かい観察——僕は小児科を五十年以上やっています。子どもの発達とか成長を専門にやっていますけれども、先生はそれ以上の観察眼を持っています。ですから、この情熱を見習って、ぜひ、今言った子どもたちのための園での遊びの工夫をしてくれたら最高だと思います。

ところで、ぜひ、東間先生、工藤先生に最後に質問しておきたいという方がいらしたら、遠慮なく手を挙げてみてください。もう十分ですか。特にいいですか。ここのところを聞いておかないと帰れないという方、いらっしゃらない?

では、工藤先生、一言、今日のことでまとめてくれる? 何でもいいです。

工藤ほかの質問のところであったのですけれども、若い保育士さんたちをどう指導していくのか。子どもの見方だったり、かかわり方だったり、「浅い」というところで、どんなふうに指導していったらいいかというご質問があったんですね。実際、経験の多い方と浅い方での子どもの見方、考え方というのはやはり違うだろうなと。経験を重ねることで、子どもの見方というのはしっかりしてくるのだろうと思いますけれども、先日、こんなことがあったんですね。

映像にもありましたけれども、0歳児の子どもが階段をよつばいで上ろうと。一応、そういうふうな形で保育は進めていたのですけれども、たまたま一人のお子さんが、手すりを持ってのぼりたいというので、手すりに手をかけたんです。そうしたら、若い保育士さんは危ないと言って、手すりから離させたのです。そうしたら、子どもは自分のやりたいことを制止されたと思って、ぐずったんです。私はその姿を見ていて、「やりたいというのだから、ちょっと様子を見るのはどう?」というふうに声をかけたんですね。でも、その経験の浅い保育士さんは、転倒したらどうしよう、ほかにいる子どもたちも真似したらどうしようと、そこに気持ちが行ってしまって、すごく気持ちが揺らいだ。じゃあ、そこは私も一緒に見るよといって、見たんですね。

そうしたら、その子は、やれるという喜びでちゃんと手すりを持って……。保育士は、両手でのぼるのではないかと思ったと思うんです。でも、その子は、片手は手すりで、片手は階段を押さえて、こうやってのぼったんです。もう満足してニコニコしながら上がっていったんですね。どこまでのぼるかなあと思ったら、途中でやめて、よつばいでのぼっていったんですね。

そのときに保育士さんがそこで止めてしまったら、その子の先の姿が見えなかったよねということで、この子の発達、興味は、今、どこにあるんだろうという話をしたことがあります。若い先生たちは、見通しが持てない怖さ、不安があるんだなというのをそこで実感しました。保育士さんはその子にピッタリくっついて、本当にほかも見られないぐらいピッタリくっついている。ああ、ここが経験が浅いところなんだなというところも感じて、園長として、どんなふうに若い子たちを育てていかなければいけないのかという学びになった場面でしたけれども、そうやってみんなでかかわって見ていく。子どもだけではない。職員同士も連携していかなければいけないというふうに思っています。

子どもをどう見ていくか。保育園でも、この子の姿というのはどこにあるんだろう、心はどこにあるんだろう、ということを大事にしていかなければいけないと思っているところです。ですから、ぜひ実践につなげて、何か報告をいただけるとうれしいですね。今日はありがとうございました。

前川では、東間先生、どうぞ。

東間いっぱいありますけれども……。今、「危険」ということに私たちがどういうふうに対応するかというところですけれども、例えば4連パックをたくさん入れますと、積むんです。先ほど、工藤先生から、一番上にのぼったらパッと手を出す。先生がパッと手を持ってポンとおろしてやるというのがあったら、先生は、知らん顔と言ったら変だけど、そういうふうにするとおっしゃいましたね。皆さん、その意味がよくわかりましたでしょう? あの「意味」ね。つまり、子どもにも責任をとらせるのよ。

のぼりというのはすごい簡単なんです、目の前を見ながらのぼればいいのだから。ところが、「おり」というのは自分の足の下を見なければならない。すごく難しいんです。だから、私は実は「おり」から始めてもらいたいぐらいなのね。だけど、そうはいかない。そうすると、責任はとれないから、またこうやってポンとおろしてもらったら、楽しいですね。そうではなくて、4連パックは「おり」もやってほしいんです。一段でも二段でもいいから、おりをやってほしい。

私も今、悩んでいるんですけれども、どうでしょうかこの方法。先生がわざと……ここに子どもがいる。いつでもパッと抱きとめられるけれども、ちょっと向こうを向いて、全体を見ている。そうすると、この子が一生懸命先生のほうを見るけれども、先生は向こうを見ていたら、簡単に登ったりはしないかもしれませんね。それで、もしグラッときたら、パッと抱きとめられる。小さい1〜2歳の子どもだったら、それができると思うんですね。先生方、どうぞ、グラッときたらパッということができるように。

それができないと思ったら、仕方がないから、ほかの方法を考えてください。でも、これが私はプロフェッショナルだと思います。それで抱きとった途端に、一言、「怖かったね」とか、「危なかったね」と言えば、「ああ、これが危ないということなのか」と。いつも、危ないわよ、危ないわよってやめさせるけれど、危ないというのはどういうことなのかわかりませんね。ちょっとドキッとする。それで子どもが自分で体感する。いかがでしょうか。これは難しいですね。そのうち、先生方もできると思います。

もう一つは、今、工藤先生が、「子どもたちを見ていて」と言いましたね。見ていてというのは大変なことなんです。例えば、この会場の端っこから端っこまで、私たちがここにいて、全部の人たちのことが目に入っているかということと同じなんですけれども、子どもというのは複数を見なければなりませんね。そのときに一人か二人しか見ていないとか、一人抱っこしたらそれっきりだと。そうすると、そういう保育士を見ているのも腹が立ってくるの、実は。だけど、同僚ですよ。同僚というのは言いづらいのね。園長には盾突いても、同僚にそんなことを言ったら、明日から大変なことになってしまう。だから言えないの。

そのときどうするかというと、悔しいかもしれないけれども、先生たち、そこを突き抜けちゃって、いいわ、この人は使いものにならないのだから、この人の分まで私が二人分見ればいいんだ、こういうふうに思ってください。

なぜかというと、私が保育士になったころは、0・1・2歳は1人で10人見るんです。3・4・5歳は1人で30人を見るんですよ。先輩たちはずっとそれでやってきたの。それで言うの。「あのときなんかさ、怪我したのおぼえてるわよね。何ちゃんが何ちゃんを、ほら、あれやって、怪我したでしょ。それから、ほら、あのときは何ちゃん、何ちゃんが怪我したでしょう。そのくらいよね、怪我の数ってね」と言うのよね。

つまり、今の怪我の率と、先輩が見ていた怪我の率はそんな変わらなかった。だから、ゼロちゃんを1人で10人見ろなんていうけど、目が行くだけは行きますよ。そうすると、「貯金」なの。つまり、いつも貯金を全部使ってしまって、お金が何にもなくてずっと定年までいるのと、私は、二人分、三人分の貯金があって、いつでも使える。しかも、その貯金は、使えば使うほど増えるでしょう。だから、どうか皆さん、知らん顔して、保育士二人分、三人分、見ちゃってください。まず、目が行くということ。目が行けば体が行く。体がついていかなかったら怒鳴る。「やめなさい!」、「危ない!」、そういうふうにね(笑)。

私は、最後の保育士で、1人で幼児30人見ました。だから、今こうやって皆さんの前で、大きな顔で話せるのよ。ですから、密かに自分の力を、早いうちに貯金してください。20代で貯金しちゃってください。そうしたら、60歳まで平気で過ごせるの。

ということで、ありがとうございます。

前川ありがとうございます。

今日は、「子どもたちの遊びと体づくり」ということでシンポジウムをしましたけれども、どうですか。皆様、期待していたような、何か得ることはありましたか。いいですか。

それで、東間先生のお話を受けまして、人間の体には限りない新しい鉱脈があるんですよね。それをいかに発掘して次につなげるか、ということだと思います。子どもたちの心と体を育てるために、自分たちの考え、固定概念を変えてほしいのです。ぜひ新しいことに挑戦してほしいというのが、今日の私のむすびの言葉だと思います。

長時間、どうもありがとうございました。(拍手)

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