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寄稿「子どもの検尿検査と腎疾患について」

徳島大学大学院 発生発達医学講座 小児医学分野 教授 香美 祥二先生

子どもの腎疾患と症状

図3

腎臓の糸球体に炎症が生じたものを糸球体腎炎(腎炎)といいます。糸球体の血液濾過壁が炎症障害により壊れるために、血液中の蛋白成分が糸球体から漏れて尿中に混入し蛋白尿になります。血液の赤血球が漏れ出ると血尿になります。少量の血液の混入の場合は尿の中の赤血球は顕微鏡を使わないと確認できませんが(顕微鏡的血尿)、大量に出るとコーラのような黒っぽい尿(肉眼的血尿)として目視することができます(図3)。
腎炎は大きく分けると、急性腎炎と慢性腎炎の2つのタイプがあります。急性腎炎はA群β溶血連鎖球菌(溶連菌)感染後に生ずることが多く発症時期が推定でき、炎症障害も強いので肉眼的血尿、蛋白尿や血液濾過不全(腎機能低下)のための水分貯留(浮腫)、高血圧という症状が見られるのが特徴です。急性腎炎の炎症は自然治癒傾向が強く腎炎の予後は良好です。一方、慢性腎炎は発症時期が不明な上に炎症が持続するために徐々に腎機能障害の症状が出現してくることが特徴です。病初期は軽度の顕微鏡的血尿や軽度蛋白尿があり一般的には自覚症状はありません。しかし、年余をかけて腎炎が進行すると高度蛋白尿、高血圧が認められ最終的には腎不全になることも多い疾患です(図4)。慢性腎炎は組織病型により幾つもの種類に分かれ、病型により予後も異なります。特に、IgA腎症は頻度が高く学校検尿で最もよく発見される慢性腎炎の代表的疾患です。重症のIgA腎症は10年〜20年の経過で腎不全に進行することが3割程みられますので注意を要するものです。検尿を受ける子ども5000人に1人にIgA腎症が発見されると言われています。

図4


図5

もう一つ、子どもに多い腎疾患にネフローゼ症候群(NS)があります(図5)。この疾患は糸球体の血液濾過壁の外側に存在する細胞(ポドサイト)の働きが悪くなり血液中の蛋白成分が漏れ出てしまいます。きわめて大量の血液中の蛋白質が尿中に失われるために(高度蛋白尿)、体の中の蛋白質の量が減少し低蛋白血症となります。低蛋白血症になると体に水分が貯まりやすい状態となり浮腫が見られるようになります。瞼や顔が腫れ足にむくみがあり、尿をした時には高度蛋白尿のために泡立つことが特徴です。水分貯留が大量になると体重が発病前に比べて何キロも増えている患者もいます。NSは1年間に子どもの人口2万人に1人の割合で発病しています。NSにも2つのタイプがあります。一つは患者の8割を占める特発性NSです。突然発病して、浮腫・高度蛋白尿があるけれども、ステロイド剤(ス剤)が非常によく効き正常の状態に回復できます。

しかし、ス剤を減らすと再発しやすく1回の治療で治る人は3割程度です。あと3割が頻回に再発する状態になります。ス剤がよく効くという点で腎不全になることはありませんが、問題なのは、入院が長くなると学校生活や日常生活が不便になることです。もう一つはス剤抵抗性NSです。この疾患の多くの原因は巣状分節性糸球体硬化症(FSGS)と呼ばれるものです。子どものNS患者10人のうち1人の割合で、この病気が診断されています。大量の蛋白尿が主体で、浮腫も出ますが特徴的なのは、ス剤が効かないために約半数の人が5〜10年かけて腎不全状態になっていくことです。現時点で治療に難渋している腎疾患の一つです。

低形成異形成腎、水腎症、膀胱尿管逆流などの先天性の腎尿路奇形によるもの、ネフロン癆などの遺伝子異常による腎疾患も重要です。いずれも糸球体の障害よりも尿細管の障害が特徴的であり、尿の濃縮力の低下や低分子蛋白が尿中に出ていることが多く、通常の蛋白尿、血尿検査が陽性にはならないのです。このために発見が遅れ腎不全状態になってから初めて診断されることがよくあります。

元来、腎臓は障害に強い臓器なので、なかなか腎機能低下の症状は現れません。腎機能は一分間にどれくらいの量の血液を濾過できるかにより評価され(GFR評価)、3歳以上の子どもの正常値は約120ml/min/1・73㎡です。腎機能の働き、つまりGFRが5分の1程度になったころから血液中に余分な水分や体の老廃物が溜まりはじめ色々な症状が出てきます。浮腫・高血圧が診られ疲れやすくなります。次第に身長の伸びが止まり貧血が認められ、GFRが10分の1程度になると血液透析が必要な状態で、いわゆる腎不全状態になります。

最近、①腎障害を示唆する所見(検尿異常、画像異常、血液異常、病理所見など)の存在、②GFR(腎機能)60ml/min/1・73㎡未満のいずれかまたは両方が3ヶ月間以上持続する場合、慢性腎臓病(CKD)に罹患していると判定するようになりました。このようにして、疫学調査や標準治療を国際レベルで検討する時代になっています。慢性腎炎、ネフローゼ症候群、先天性腎尿路奇形もCKDの範疇に入ります。日本腎臓学会より出されたエビデンスに基づくCKD診療ガイドラインの中に、子どものCKDに関する部分がありますので参考にしてください(http://www.jsn.or.jp/guideline/ckd2012.php)。

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