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寄稿 「こどもの発熱の原因とその対処法」

九州大学大学院医学研究院 成長発達医学分野 小児科教授 原 寿郎先生

発熱のメカニズム(図1)

発熱を起こす物質を発熱物質と呼びます。体外から由来するウイルス、細菌、真菌などの微生物自身や菌体成分、あるいはそれらから産生される物質を外因性発熱物質といいます。外因性発熱物質が生体に侵入して主に自然免疫系細胞に働くと、発熱活性を有する物質が放出されます。発熱物質は血流によって脳に運ばれ、血液・脳関門が欠落している脳室周囲器官の細胞に作用してプロスタグランジン(PG)E2を産生します。産生されたPGE2は脳組織の中へ拡散し、PGE2受容体を活性化しサイクリックAMPを遊離します。サイクリックAMPは神経伝達物質として体温調節中枢である視床下部にシグナルを伝え、体温のセットポイントを上昇させます。また外因性の微生物由来物質に対する受容体も視床下部内皮細胞に存在し、その活性化はPGE2産生により発熱を起こします。

体温調節中枢である視床下部が刺激されると、交感神経系が活性化され、脂肪組織における代謝性熱産生が上昇し、皮膚内を走る血管の平滑筋が収縮することで、体表面の血流が減少し、体表面からの熱放散が抑制されます。一方、発熱シグナルによる運動神経の活性化は、骨格筋におけるふるえ、熱産生につながります。熱産生促進および体表面からの熱放散抑制の2つの作用によって体の深部温度が上昇します。体深部温を上昇させる生理学的意義としては、体内に侵入した細菌類の増殖至適温度域よりも体温を上げ、それらの増殖を抑える作用、温度上昇による免疫系の活性化を促す作用、といったことが考えられています。むやみに解熱薬を使用することは、生体の感染防御機能を弱めることにつながりますが、高温の発熱状態にある場合は、食欲低下を改善させるため、また場合によっては脳などへの障害を防ぐためにも解熱薬を適切に投与することが勧められています。
解熱鎮痛薬の多くは、プロスタグランジン合成酵素群のなかのシクロオキシゲナーゼと呼ばれる酵素の働きを阻害することで、プロスタグランジンE2の合成を抑制して発熱を抑えます。

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