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財団法人母子健康協会 第30回シンポジウム 「保育における食物アレルギーの考え方と対応」
4.総合討論(14)

海老澤あと、私のほうに寄せられている質問で、さっきお話ししたアトピー性皮膚炎に関連した話です。4名の方から、「標準的なアトピー性皮膚炎の治療を拒む親は、どういうアプローチをしたらよいか」と。これはすごく難しい質問ですね。

私たちがよく経験することで、お子さんのお母さんが比較的重症のアトピー性皮膚炎だと、その人の経験をもとにお子さんに対して、「うちの子には一切ステロイドは使いたくないです」とか、「私、お医者さんを信用していません」とか(笑)、そんな話をよく聞くんです。

そういうときの私のアプローチはどういうふうにするかというと、「あなたがアトピー性皮膚炎の治療を受けたときといまとは時代が違っていて、考え方も全然違うし、薬も違う。そうしたときに、同じあなたの経験は確かに貴重な経験だと思うけど、その辺は、最近のちゃんとした治療をするとよくなっていく方がすごく増えているから、お医者さんを信用して、ちゃんとした方にかかってみたらどうですか」、というふうに言うのはすごくいいことだと思います。そういうふうに、ご家族自身、保護者自身が持っている場合というのは意外と厄介ですね。

さっき私は体型の話を冗談めかして言いましたが、別に体型とは関係なくて、人間というのは、100人いますと、95人はまともな範囲に入ってくるんですよ(笑)。残りの2.5ずつというのは、標準偏差からかなり外れてくる方で、これは絶対どんな集団でもいるんですね。

もちろん、私たちは不特定多数の方を相手にするので、そういう方に必ず出会います。そういう人に対して普通のアプローチをやっていると、たぶん、100人のうち90人までは相手にできるんです。でも、残りの10人、下手すると5人は、私たちが標準的にやっているアプローチでは絶対うまくいかないんですよ。そういう人を説得させるには特殊なテクニックを使わないとダメです。皆さん方もそういう経験があると思いますけれども、正攻法がダメだったら、後ろに回って、反則技じゃないけれども、後ろから頭を叩くぐらいのことをしないとダメなんです。

もし確固たる信念を持っていて、もう誰の言うことも聞かない、こうなっている人が来たら、まず、「あなた、それはあなた自身は満足するかもしれないけど、これ、一種の児童虐待ですね」と、私は言います(笑)。「こんなひどい湿疹の状態にしておいて、あなたは自分の思うとおりにできているけれど、このお子さんにとっては、夜も眠れない、かゆくてたまらない、こんなのもしあなたがやられたら、もう生きてられないよ」って、それぐらいのことを言います。保護者というのはもちろん子どもに対して権利を持っているけれども、そういう状況に置く権利というのは通常ないよねって、私はそこまで言ってしまいますね。

医療機関に来てこういう怖い医者に出会うと、そういうふうに言われてしまうわけですけれども、その前の段階で、皆さんがそういう人たちをどうやって医者のところに持っていくかというのは、これは永遠の課題なんですよね。なかなか難しい。

ただ、いい先生がいて、「これだけよくなったことがあるんですよ」というのを経験談として話したりすると、かなり動きますね。あと、そのお母さんだけではなくて、もう一人、父親を使ってみたり、周りの人から攻めていくのも一つの方法です。その辺に関しては若干のテクニックを使わないと、正攻法ではあまり成功しないのではないかなと思います。

両側2.5%ずつに入ってくる人の対処というのは、どの社会でもやっていかなければいけないことなので、伊藤先生とか前川先生にもアドバイスをいただくと……、前川先生は神経のプロですから、そういう人をいかに説得させるかというテクニック的なことも教えていただけるのではないかと思いますが、いかがでしょうか。

前川そういう方がいらしたら、相手の意見をまずよく聞くことですね、いくら馬鹿らしい話でも(笑)。聞いた後で、今度は海老澤流で行くんです。最初はとにかく立場は「受容」です、「ご無理ごもっとも」と。決して最初から、「この親…」というような態度はしない。相手の言うことを聞く。そうすると、やはり親ですから、自分の子どものことを気にしているんですよね。そこで、いまこんなに治療手段があるのに放っておくのは虐待だとか、子どもがかわいそうだとか、こういう方法があるとか、他の人の例を挙げるのもいいと思います。

それから、こういうときは絶対一回で解決しようと思わない。私たち子どもと接している人たちは、みんな、人が良くて「してあげよう」と思う心が強過ぎるんです。そのときにとにかく話を聞いて、「きょうはちょっと。またいらっしゃいよ」とか何とか言って、何回か話しているうちに、だんだんそのかたい頭がやわらかくなってきます。そうするとふっとしたことで、見えなかった部分が見えてくるのです。そこがチャンスです。

もう一つは、どんないい先生に紹介するときでも、その先生と親御さんとの相性があります。だから、紹介するお母さんのタイプと、紹介しようと思う先生のタイプを考えてください。絶対合わない人がいます。そういう人を紹介すると、怒って帰ってくるんです(笑)、合いませんから。紹介されたほうも、「何だ、こんなやつ」ということになりますからね。だから、親切にするのだったらそこまで考えれば百点です。

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