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第29回 母子健康協会シンポジウム 親と一緒に子育てを
2.発育に寄り添う保育
神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉研究科教授 小林正稔先生



表【発育に寄り添う保育】


慌てない保育
 乳幼児は、それぞれ違った発達の「個性」を持って生まれています。「○○歳児だから・・・」と考えるのではなく、その子自身のペースを守り“じっくり”と経験して行ける環境が発育を促進します。大人が発達を「引っ張る」のではなく「付き添う」こころが大切です。

欲張らない保育
「這えば立て、立てば歩め、の親心」は理解できますが、だからといって他児と絶えず比較され、大人の一方的な感情で、いろいろなことをやらされても乳幼児にとっては迷惑でしかありません。発育の準備段階を十分保証するように努めましょう。目安は「甘え」。上手に甘えることができる乳幼児は、安心感、安全感が高いので、いろいろなことに、積極的に興味を示します。

明るい保育
 当たり前のことですが、褒められることは自信に繋がります。乳幼児は、自信があると何にでも積極的に興味を示し、チャレンジしようとします。その為には、乳幼児の発達を心配するあまり、まだできていない発達課題のみに注目し、これもダメ、あれもダメとマイナス思考で乳幼児を観ていたのでは、保育者も息が詰まります。結果、乳幼児は不安になってしまい、自信をなくします。できないことを指摘するのではなく、できたことを乳幼児と一緒に喜ぶプラス思考が大切です。

叱れる保育
 乳幼児期は、人間にとってとても大切な時期です。ですので、できるだけのびのびと活動できる“自由”を保証することはとても大切です。だからといって、何もかもいうなり、やりたいままに放縦することは、乳幼児の将来を保証することにはなりません。絶対にしてはいけないことやらせたくないことは「ダメ!」と言い切る勇気は必要です。その時は、くどくど理由など言う必要はありません。叱るときは「強く・短く・後、笑顔」で。

夢のある保育
 保育をしていると、どうしても、その子のプロフィール、特に親や家族環境が気になります。正直、「将来が心配」と思うこともしばしばあると思います。また、親を観ていると、「あの親の子だから」という心配も湧き起こることは否定できません。しかしながら、親は親、子は子、決して同じではありません。また、親と同じに育ってしまったら保育者としての矜持は・・・。一人ひとりの乳幼児に「ゆめ」を感じる保育を。

威張らない保育
 大人はともすると子どもに対して、「自分のやり方に従うよう」意識、無意識のうちに求めてしまう傾向があります。しかしながら、それは大人の欲求、欲望であり、乳幼児の欲求や欲望では無いことを自覚しなければなりません。例え、絶対に、間違いなく子どもの将来にとって有用であると大人が“正義”を確信していることでも、強要、支配と子どもが感じてしまったら、何の役にもたたなくなってしまします。言葉の指示でやらせるのではなく、乳幼児が自ら行動したくなるように環境整備をするのが大人の役目です。

しつこくない保育
 大人は時として、それが「子どもにとって必要」なことだからと思いこみ、やらせようと何度も何度もしつこく誘いをかけたたりしがちです。また、仕草が可愛いからといって、同じ行動を何度も何度も取らせようとすることもあります。しつこいことは、乳幼児の自立心をそぎ、興味関心を偏らせ、失わせる結果にもなりかねません。乳幼児期にたくさんの経験ができるようにしてあげるためにも、しつこいのは厳禁!乳幼児が温和しくしているからといって、同じVTRなどを繰り返し、繰り返し見せるのも、「しつこい」うちに入ります。

前向きな保育
 「過ぎたことは、もう戻れない」という人間の原則を忘れ、過ぎ去ったことをいつまでも気にし、悔やむのも乳幼児の発育を阻害する大きな要因になります。同時に、「また、同じことを」「前にも失敗したでしょう」「何度言ったらわかるの」というような感情も、乳幼児にとっては何の役もない言動です。いつも「次にはきっと・・・」という期待をもった保育が大切です。同時に、乳幼児は失敗をたくさんするものです、決定的な失敗以外は、失敗したときは新しいことを覚えるチャンスです。保育者は失敗を責めるのではなく決定的な失敗をしないように、小さな失敗の時に「次にはどうすればよいか」をしっかり子どもに伝えましょう。

待てる保育
 乳幼児にとって、早くやらせようとすることは厳禁です。せっかくやる気になっていても、実際の行動に移るまでには、必ず準備期間が必要です。保育者は、その準備期間を保証しましょう。時間は子ども一人ひとりによって違いますので、乳幼児の様子をしっかり観て、焦らせないように「待つ」ことは、大人の義務であり責任です。

「子どもを好き」な保育
 親だから、保育者だから子どもが「好き」であることは当たり前だと考えるのは、大人の傲慢でしかありません。また、「好き」の意味も大人一人ひとりによって違います。だからといって個々人の感情を統制することもできません。
 「好き」「嫌い」という感情的な側面で考え保育するのではなく、もっと情緒的な側面に目を向け、乳幼児との相互作用に目を向け、乳幼児と関わるのは、乳幼児とのやりとりが「楽しい」「楽しめる」保育を実践しましょう。そしてそのノウハウを、親・保護者に伝えることも忘れずに。乳幼児に上手に甘えることができる保育者は、保育技術を「アート」にできている人です。


以上のことをまとめると
  • 子どもが自分自身の感性を発揮できる自由を保障する
  • ルールは最低限で、基本的なものだけにする
  • その場だけの雰囲気を大切に、後に引かないようにする
  • できるだけ素朴で、工夫のできる状態を作り出すようにする
  • 時間は余裕を持って、焦らせないようにする
  • 変化に富み、こどもが興味を引く空間を用意する
  • 子どもの発想を認め、空想を否定しないようにする
  • 伸び伸びと身体を動かし、気持ちを解放できるようにする
  • 指導は最低限にし、子どもができないときだけ援助する
  • 評価はできるだけ遅らせ、子どもの感性を認めるようにする
ということが、重要ではないかと考えられる。
同時に保育者は
  • 子どもに対する態度、考え方が建設的・激励的である。
  • 子どもとの関係において、話し好きで友好的である。
  • 子どもの活動に興味を持って参加する。
  • 子どもを支配によって服従させようとしない。
  • 子どもが自分から行動するまで待つことができる。
という、5つの資質が求められるということも言える。



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