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第29回 母子健康協会シンポジウム 親と一緒に子育てを
総合討論(2)



—「お互いさま」の気持ちが育っていない親に対して、どう対応したらよいのか。わが子しか見えていない。「自分の子に嫌いなことばかりするので、○○ちゃんとは遊ばせないでください」「同じ席にしないでください」と言い張ってくる。どう対応したらいいか。

小林 基本的なことでお話ししますと、親というのは、確かに子どもの発育に関して責任を持っていることは事実ですが、親は子育てのプロでしょうか。「それは違う」というのが原則だと思っています。だから、今日のテーマでもあります、「親と一緒に」ということを考えたときには、例えば親からいまみたいに要望が出たとします。それを、その子を主軸に置いて考えたときに、果たして妥当であるか、妥当でないかということを判断し、園としてどういう方針でやるかということを決め、実行することもすごく大事なことだと思っています。
 ただし、そういうふうに言っているお母さんに直接お話して、こういうことだからそれは違いますよと言ったところで、そう言っている方がちゃんと、はい、わかりましたと言うかといったら、それは言いません。なぜかといいますと、はっきり自分の子育てに自信があったら、誰々と遊ばせないでくれとか、そういうことは言わないのです。子どもにとって一番影響力を持っているのは誰かというと親です。親が「○○ちゃんと遊んじゃダメよ」と言ったら、その子はちゃんと、「お父さん(お母さん)に遊んじゃいけないと言われたから遊ばない」と言います。
 それを子どもは言っていないけれど、親が言っているというのは、実は「私は自分の子育てに自信がないんです、助けてください」というふうに親が言っていると理解していただいたほうがいいと思いますので、園は園の形として進めていくというか、園の方針に従っていくことを堅持していくのも大事だと思います。ただし、議論をする必要はないと思います。しばらくやっていく中で、その子どもの成長の姿を見て、母親・父親が理解をしてくれるのを待つことも大事です。
 ちょっと余分なことを言いますと、「親と一緒に」という意味は、いままで保育園、幼稚園は、お子さんをある一定時間お預かりして、親の意のままにというか、何かサービスをしていくことが大事みたいな発想がどこかにありますけれども、そうではなくて、社会の大人として、人生の先輩として、保育園、幼稚園の職員・保育士の方が、その子に対してどういう子育てをしていったらいいのかということを、親と一緒に考えながら実行していくという立場になってほしい。もっとプライドと自信を持っていただきたいという思いも込めていますので、ぜひ、その辺はご理解いただきたいと思います。

前川 いま、子育て支援ということが非常に出ています。子育て支援には四つの要素があって、「子どもを育てること」と、「子どもが育つ環境をつくる」、「親育ちの環境をつくること」、もう一つが「親育てをする」ことです。この四つをその場に応じてかかわるのが子育て支援だと思います。ですから、そういうお母さんたちに対して、さっき山田先生がおっしゃったように、「○○ちゃんのお母さんだから」と言われると感情のほうが出てしまいますけれども、それを押さえて公平の目で話を聴いてやっているうちに、子どもが変わってきて、親が変わってきて、だんだんわかってくるような気がしますが、どうですか。

山田 「やられた」とか、「あの子は」と訴えるお母さんのお子さんというのは、結構、仕掛け人じゃありませんか。

前川 そうです、そうです(笑)。

山田 意外と、やられたと訴える子のほうが仕掛け人だったりするんですね。現場でしばらく観察していると、たくさんそういう場面が出てきます。だから、実はこういういきさつがあるということをお話ししたり、また、どうしてそういう子たちが出てくるのかということをお話ししたりして、そういうトラブルを見守っていくことが、この時期にそれを経験することが大切なんだということをじっくり伝えていく。その子のためにそれはよかったことなんだ、ということをお母さんがポジティブに考えられるように、お母さんが受け入れてくれることを信じて話をしていくことがよくあります。
 学期に一回、お母さんの勉強会という形で、できるだけ全員参加ということで集まっていただいています。そして、どういう見方をするのが一番いいのか、乱暴な子どもに対する見方とか、すぐ泣いたり、逃げ出したりしてしまう子どもとか、そういう一つひとつの具体的なことをお母さんたちに学んでいただいて、それで、「待とうね」ということをお話ししていくと、いま前川先生がおっしゃったように、子どもが変わっていくんですね。変わっていくと、お母さんたちもなるほどと思ってくださいますので、そこまで辛抱強く、お母さんが学んでくださることを根気よくお伝えしていくことがよく現場ではあります。

前川 私たちは子育て支援のことをやっていて、いろんな問題があるお母さんに対して、意識して幼稚園とか保育園でその子にかかわるんですね。結局、受け入れられていなくて、いろいろな不満やストレスで乱暴とかいろいろなことをするので、受け入れられると子どもの顔が笑顔に変わってきます。子どもの笑顔を見ると、どんなお母さんでも変わっていきます。だから、いま山田先生のおっしゃったことが一つのヒントになるような気がします。次に同じような質問あります。

—園への要望書に毎回同じ内容の苦情−過去に自分の子がケガをして、その対応が不十分だったことをいつまでもこだわって−を言い続けている保護者(母親)がいる。園側も、またその当事者も、そのことではそのときにきちんと謝り解決したはずなのに。そのようなときに、再度、面接の時間を設けて話し合ったほうがよいのか悩んでいます。

小林 こういう親に対して、私はよく、「お母さん、お父さんがきっとコミュニケーションを求めているのだろうと考えてください」と言います。だから、定期的に会ってお話を聴くことを園の役割として考えてほしい。実を言いますと、これは結構つらいですね。だから、そのときに何時から何時までと必ず時間を設定して、時間厳守でやっていただく。
 我々カウンセリングのプロでも、感情的にならずにきちんと話を聴ける時間というのは一時間半が限度です。皆さん方だったら、たぶん一時間くらいが限界だと考えていただいていいと思いますので、それくらいの時間でお話を聴いて、「では、またこの次も」という形で何回か繰り返していくうちに、徐々に変化するという例はたくさんあります。ですから、一気に解決しようと思わないで、また言ってきたということは、「ああ、そうか。話ができる人がいなくて寂しくなってるんだな」「○○ちゃんのために少し我慢しようか」という時間をたくさんとっていただくことも、必要な時代になってきているのではないかと思っています。
 それが、ある意味で言うと「親育て」ということの基本です。親育てと言うと、親はこうでありましょうという標語を並べ立てる人が多いですけれども、聴く人はちゃんとやってくれますし、聴かない人というのは、標語をいくら並べても意味がないのです。だから、講演とか何かをしても、本当に聴いてほしい人というのは来ないんですよ(笑)。それが本筋ですので、そこは現場として、そういうところに参加できたり、興味を持ったりということを含めて、それこそ親を孤立化させないように支援していただくことがすごく大事かなと思います。

前川 親を指導とか何かというような考えで接すると、親はますます態度がかたくなってコミュニケーションが悪くなる。そうではなくて、さっき小林先生は一時間半とおっしゃいましたけれども、私は一時間半もたないですね。三十分でもいいから真剣な態度で聴くということから始められたら、いいのではないかと思います。聴く、聴く、聴く、しかないですね。あとは、相手の感情に反応して相手の心が動くようにすると、コミュニケーションがついてくると思います。本当に素直にぶつかり合われたら、何か解決するような気がします。




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