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第29回 母子健康協会シンポジウム 親と一緒に子育てを
2.発育に寄り添う保育
神奈川県立保健福祉大学大学院保健福祉研究科教授 小林正稔先生



子どもが変わってきているのか


 私の持っている役割は、乳飲み子から始まって、大学生、最近はだんだん高齢者が増えてくる中で、高齢者にも対応しますので、人の成長に「縦」にかかわっていく機会をいただいています。その視点で言わせていただきますと、小さい頃、幼稚園などで、きちんとルールを守らせて、きちんとした教育をおこなったと言っている園から来た子は、小学校へ行くと暴れ回るようになってしまう子が多いです。小学校でも、非常に厳しい先生で抑えつけられてきた子どもは、中学校へ行くと暴れ回る子が多いです。まあ、あとは言わなくてもおわかりになると思います。
 最近、よく小学校へ「特別支援教育」のお手伝いに行きます。私は必ずと言うほど月曜と木曜日を指定します。なぜかといいますと、家庭の影響が一番出る日だからです。幼稚園や保育園の先生方は、親の影響によって子どもが変わることはよくご存じだと思いますけれども、小学校でも全く同じです。
 月曜日とか木曜日は家の影響を一番受けていまして、月曜日の午前中などは、子どもたちは放心状態ですね(笑)。なにか、肩の力がふっと抜けてしまって、先生の言葉も上の空でみんな通り抜けていってしまっています。木曜日は、もう疲れ切っていて、一週間の疲れが一気にでてしまっているという感じです。その子どもたちの親たちを見ると、何とか自分の子どもをよい子にしたいと思って、一生懸命過ぎるタイプがほとんどです。
 言いたいことは、皆さま方も気がつかないうちに、同じ年齢の子どもたちを横に輪切りにしてしか見ていないのではないかということです。そうしてしまうと、できる子、できない子というところだけを見て、「できる子」に合わせて、皆同じようにできるようしなければならない、それが「良い教育をした」ことになるというふうに思いたい。そういう流れができてしまっているのではないでしょうか。結果、子どもたちは、自分が持っている豊かな感性をなくしてしまい、ただ周りの流れとか、動きに気を遣うだけの状態になってしまっているのではないでしょうか。もしかしたら、今日来ている若い皆さま方はほとんどその犠牲者かもしれないですね。
 大学でも、何か言うと、「わからない」とか「できない」とか言う学生が結構多いのです。そういう時に私は、「しかたがないよね、君たちは、『考えるな、覚えろ』って育てられちゃったからね」と、すごい皮肉を言っています(笑)。で、学生たちが納得してしまうのです。それも怖いなあと思っています。
 そんな状況のなかで、大人たちが勝手に、「子どもが変わった」と言い出しました。私はもう数十年も子どもにかかわる仕事をさせていただいていますが、昔の子どもはこうだったけれども、いまの子どもはこうだと感じたことは全くありません。
 昨今の発達障害などの問題でも、AD/HDが注目されていますが、この状態を示す子どもは昔からいました。ただ、昔はAD/HDと言わないで、一時期はMBD(微細脳障害症候群)とか言われたこともありますし、「落着きのない子」「乱暴な子」とか言われていた子どもたちはたくさんいました。そういう子たちがいま、クローズアップされて、その子たちに対して、適切な支援がなされればよいのですが、「きちんとした支援を」という名のもとに過剰な反応や対応をして、かえって差別を助長するという状態をつくり出してしまっている面も見受けられます。そういった「個性」を持って生まれたことは子どもの責任ですか。
 どちらかと言うと、大人のほうが変わってきてしまっているのではないでしょうか。あえて言わせていただきますと、この国というのは昔から、「子どもは大切だ」と言いながら、幼児及び低学年の教育に対してどれくらい力を注いできたのでしょうか。ほとんど個人の努力のみに依存してきただけではないでしょうか。平成二年までは、小学校も中学校も幼稚園も高等学校も、全て、一学級の人数は同じでした。つまり、一番、手をかけ、目をかけ、気持ちをかけなければいけない時期の子どもたちには、少ない人数で対応し、中学に行きますと、一学級二担任制、高等学校は科目ごとの教員も増え、多くの大人が対応する体制でおこなって来ました。
 基礎ができていないところにいろいろなものをつめこもうとして、ぐちゃぐちゃになり、行動化すれば、力で抑える。このような姿勢を貫いてきました。その結果がいま皆さま方を困らせている親たちの姿です。言い方をかえれば、見事に「教育」の成果が上がった(笑)、ということになってしまうのです。




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