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特集 対談 「なぜ今、食育か」
神奈川県立保健福祉大学栄養学科長、食育推進会議委員
中村丁次
神奈川県立保健福祉大学人間総合・専門基礎担当科長・東京慈恵会医科大学名誉教授
前川喜平


子どもの食育をめぐる現状と問題点


中村 病気を予防するために、どんどん上流に上がっていって、最後は子どもの問題にぶつかったというのが現在の状況だと思います。生活習慣の形成期にある子どもに教育したほうが、一番効果的なのです。でも、子どもの今の生活習慣にはいろんな問題があって、さっきお話しした肥満が増えていくということと、朝の「欠食」ですね。
(表1)学校別に見た朝食のとり具合
前川 朝を食べない子どもがいる。
中村 朝食べない子がすごく多いのです。
前川 表1をみますと、約10%ですね。
中村 噂によりますと、朝食の給食もやろうという話がでていますね。
前川 そうです。あるところでは既に朝食の給食をやっています。
中村 なぜ子どもが朝食べなくなったのか。ある調査によると、夜遅くまで勉強したり遊んだりして、一日のリズムが狂って夜型になってきているので、朝、食欲がなくて食べられない。お母さんも朝起きるのが苦手、朝食をつくるのが苦手というようなことです。
前川 この間やった日本小児保健協会の「幼児健康度調査」では、子どもの寝る時間が遅れてきています。今、日本の子どもは世界一、夜更かしなのです。3歳児で6割以上の子どもが10時以降に寝ていて、大問題になっています。
中村 そうですね。
前川 それから逆に、思春期のやせ志向というのはどうですか。
中村 これも深刻な問題でして、なぜ日本人が一番ひどいのかわからないのですが。
前川 そのようですね。
中村 BMI・18.5が、やせのカットポイントですが、2割〜3割くらいいるということです。
注:BMI(肥満指数)=体重(kg)÷身長(m)÷身長(m) 標準値22
前川 この間うちの学生の身体検査をおこなったら、半分以上が19以下で、やせ志向は、非常な問題です。
中村 例えば、食料不足のやせは発展途上国に多く見られるのです。ただ、先進国においては食料があふれている中での栄養失調ですから、ちょっと問題が深刻です。ヨーロッパでもアメリカでも摂食障害症はものすごく大きな問題で、「やせればやせるほど健康になれる」「やせればやせるほど美しくなれる」というふうな社会風潮が底辺にあるのではないかと思います。「やせ志向社会」です。
前川 母子保健の立場からみますと、ご存じだと思いますけれども、やせた人が結婚して赤ちゃんを産むと、在胎週数に比べて体重が小さい赤ちゃんが生まれます。体重の小さい赤ちゃんはお腹の中で飢えていますから、節約遺伝子が発現し、栄養状態が悪くても生きて行けるようになっております.このような子は大きくなって美味しいものを食べると少し肥っただけで生活習慣病になりやすいというデータが出ています。
中村 そうです。妊娠中に低栄養だと、胎児のときに節約遺伝子が発現しやすくなるという話です。
前川 ですからやせ志向は、女性個人ではなくて孫子の代まで影響する(笑)。
中村 あれはショッキングなデータですね。
前川 それ以外に小児科の立場から言いますと、近ごろ、家族揃って夕食をとることがめっきり減りましたし、時間を決めておやつを与えることもあまりしません。
中村 「だらだら食い」というのですか。
前川 それから、お母さん自身が調理する技術とか知識を持ってない。
中村 昔は結婚間近になったらお料理教室に行ったのですがね(笑)。
前川 そうでした。
中村 今は花嫁修業じゃなくて、どこへ行ったらおいしいお店があるとか、食べ歩きの知識は持っているようです。
前川 それで、調理済みの食品を利用する家庭が非常に増えています。離乳食にしたって、食事にしたって。そういう食生活の乱れがとてもある。
中村 そうですね。



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