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第25回 母子健康協会シンポジウム 保育と食育
4 討議(4)



— 楽しく食事をするにはどうしたらいいですか。同年齢の2クラスで、一方では先生がとても屈託なく大きく笑いながら大変食事も進むけど、片方は箸の上げ下ろしも細かい先生がいて、食事の量が少ないのですが。

前川 結局、食育って何ですかといったら、「おなかすかせて食事が楽しい思い出をつくればいい」ということだと思うのです。「楽しく」というのをキャッチフレーズにと言いました。一体そういうのがどうしたらできるかということについて、ここにいる先生方にまず1人ずつ、「そうしたら楽しくなるよ」ということ聞いてみたいと思います。
 まず、私の専門領域からこれを解釈しますと、食事の量とか食べ物を解釈するときに、皆様はまず年齢と体格を考えます。「何歳なのにこんなことできない」とか、「目方が15キロあるのにこれしか食べない」とか、「10キロしかないのに3杯食べる」とか。
 ぜひ、食育をするに当たって、子ども同士の比較をしないでほしい。それも年齢だけではなくて、体格についても。やせていても食べなくてはいけない人もいれば、太っていても小食で十分な人がいます。だから、皆様の考えでもって一切決めつけないでほしい。食欲というのは本人が決めることで、人が決めることではないのです。皆様、今日、うちに帰って、ご主人に「おう、おまえ、1杯しか食べないじゃないか。3杯食べろ」と言われたら、恐らく怒ると思います(笑)、「何言ってんのよ。納豆ばっかり食べてないでビフテキ食べなさい」なんてね。とにかく、人同士の比較、こちらの思うことを無理に押しつけないということが、一つの食育のヒントです。
 それから、少なくとも食べているときに「何とか食べなさい」とか、命令とか何か言わない。楽しい雰囲気で食べるということが一つです。あとは、そのためにぜひ、体を動かしてうんと遊ばせてほしい。それから、規則正しい生活です。保育園にいる間だけはうんと暴れさせて、食べてということでいいのではないかと私は思います。
 子どもの発達で一番いいのは、幼児期というのは、まねをするという、いいことがあります。保育士さんたちが一緒に食べて、ゆっくり噛んだりしていれば、早食いも直るだろうし、「ああ、これもおいしい」とか、「ニンジンさん、食べてって言ってるよ」なんて言えば、「どれどれ?」となっていくと思います。それで食べなくても、それでいいような気がします。それが正解かどうかわからないけれども、私の考えです。

大和田 “美味しい”と言う感覚は、日常の食生活で食べ慣れた食品に対して抱くことが多いでしょうし、同じ食材でもおとなと子どもで感じ方が異なります。この感覚は絶対的なものではありません。また、楽しく皆で食べれば、何でも美味しいし、食に興味が無ければ、摂取量も少ないのは当然だと思います。私が治療しているフェニルケトン尿症(pku)の子どもたちの食事を、「非人間的な食事」と称した同僚がおりますが、親ごさんたちの努力でPKUの子どもたちは毎日その食事を摂取し、健康に発育・発達して精神的にも全く健全です。このように、本当に“まずい”食事を摂らなければならない子どもたちもいる中で、食べ物を無駄にし、肥満傾向児の増加している日本では、“美味しく食べる”と言う言葉を安易に使用すべきではないと私は考えます。

加藤 個人的な感想も含まれてしまって、重複になるかもしれません。例えば、自分が楽しかった食事ってどんな食事かなと思ってみると、気のおけないメンバーで気楽に食べられた、気遣いのない食事がとてもおいしかったと思います。大和田先生、前川先生がおっしゃるように、雰囲気、関係性というものです。周りの人たちと楽しくいただけたということは、その食材や調理の方法がどうとかということよりも大きな部分があるのではないかなと思います。
 個人的な例ですが、自分の2人の娘が小さいときのことを振り返ってみれば、「あの日のあの晩ご飯を、カレーライスではなくて白身魚の野菜あんかけを食べさせるべきだった」というふうな後悔をしたことはあまりありません(笑)、むしろ、「あのとき、あのことをほめてあげればよかった」という後悔の仕方をすることのほうがずっと多いです。ですから、いい関係をつくることのほうが食生活も豊かになるのではないか、というふうに思っています。
 食育検討会も、一人の親として出席するのは非常につらかったです。立派な食生活のあり方ということを偉い先生方がみんなでおっしゃっているので、私も、自分の専門性で出席している分には構わないのですが、一人の親として何をやってきたかということを振り返りながら聞いていたら、出てきた内容が内容で(笑)、ということもつけ加えさせていただきます。

前川 ある保育園で、1年のうちの1回か2回かは休日に父親に必ず来てもらって、子どもたちと一緒に食事を作って、みんなで食事会をします。みんなで食べて楽しくして、終わったあと、父親だけの飲み会をやるのです。そうすると、すごくあとの雰囲気がやりやすくなります。父親はどうもぶきっちょで、なかなか保育園に行きにくい、けれどもそのように家族を巻き込む。そうすると、そこに野菜がたくさん入っていれば、子どもは保育園で食べたものはおいしがります。さらに、もし畑か何かがあったら、そこで子どもと一緒につくってそれを調理して食べると、もうそれが大好きになります。つくる楽しみ、参加する楽しみとか、一緒に食べるとか、ぜひやっていかれたらいいと思います。
 父親がある程度そういうのに興味を持つと、家庭の雰囲気が断然変わります。そういう意味で、食育に父親を巻き込むという手もあります。変な話ですけれども、父親の意見を聞くと、大概「この日は何とか」という文句が出る。ですから強制的に決めておいて、「この日はやるから、とにかく出られる方は出てください」という感じでおやりになったらいかがかと思います。



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