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第25回 母子健康協会シンポジウム 保育と食育
1.子供の味覚の発達
神奈川県立保健福祉大学教授 前川 喜平



乳児における味覚反応


 こんなことをしているうちに、ある日、難産で重症仮死の赤ちゃんが病院に入院してきました。その赤ちゃんは、生まれてから痙攣が30何時間以上も続いて、口からはミルクが飲めなくて鼻から管を入れてミルクを与えていました。これはもう30年前の話です、周産期医療が進歩した現在はこのような赤ちゃんは見られません。2週間くらい経ってやっと口からミルクが飲めるようになりました。私は、恐らく脳障害があるから味覚が鈍いと思いました。そこで、お母さんの許可を得て、その赤ちゃんに0.25%食塩水をやりましたら、いまだ見たこともないくらいものすごく強い反応を示したのです。写真(図1)の倍ぐらいの強い反応でした。私はそれを記録したかったのですが、その時は用意してなくてできませんでした。1週間後に、今度は撮影の用意をしてテストしたら、最初ほど強く反応しないのです。それから後、反応が時とともに段々と減弱していくのです。それで当時大学病院ですから、難産仮死で脳障害が疑われる赤ちゃんが送られてきます。そのような赤ちゃんに親の許可を得てミルクが口から飲めるようになったときに味覚テストをしてみました。そうしたら何と、全例で最初の味覚反応が段々と弱くなってくるのです。これは新生児に存在する原始反射と同じではないかと思いました。
【表1】表1新生児味覚反応の推移(正常新生児15名) そこで普通の赤ちゃんのお母さんに許可を得て同じテストをしてみました。最初に新生児室で味覚テストをおこない、退院後1カ月ごとに外来に来てもらってテストをしました。このとき食塩水は電解質で赤ちゃんによくないので、苦みの酒石酸溶液を使用しました。結果は表1のとおりです。
 結局、大部分の赤ちゃんの反応がだんだん弱くなっていくのです。2人ほど、途中で反応が弱くならない赤ちゃんがいたのですけれども、そのうちの1人は痙攣を起こしまして、あとで発達に問題があった。あと1人の来なくなった赤ちゃんは、最初にテストしたときに、結局、鈍いほうの群だったと思うのです。幾らでも検液をしゃぶっちゃう。見ていて、「あ、この赤ちゃん、鈍いね」と言ったら、それからあと来なくなっちゃったんですね(笑)。とにかく、12人の赤ちゃんがだんだん味覚の数値が下がっていくわけです。
 いろいろな人の研究で、味覚というのは舌の側面にあって、その数は新生児のほうが大人よりも多いのです。皆さんの中で、犬や猫の赤ちゃんをもらってきて飼ったことがありませんか。親から離したとたんに、食べられるもの、食べられないものの区別ができますね。それと同じように人間の赤ちゃんも、ある程度生まれつき、体にいいもの、害になるものを区別する能力があるのではないかと思います。それが、障害があろうが普通の子だろうが、ある時期になって下がっていくのです。ちょうどその時期が授乳準備期で、果汁だとかいろんな味を与える時期と一致しているのです。
 次に離乳食が始まったときに、リンゴペーストとか、リンゴジュースとか、野菜の裏ごしとか、味が同じで色が違うもの、味が違って塩辛いものとか、甘いものとか、においとか、そういうのを滅菌してつくってもらって、お母さんに食べさせてもらって、「この味はどうですか、よく食べますか」というと、赤ちゃんはどんなものでもわりと平気で食べるのです。不思議ですね。
 ただ、塩分を加えている離乳食をあげているお母さんの子どもは辛いものを好むし、甘いものを加えている赤ちゃんは甘いものをより好みます。
 ですから、わかったことは、生まれたばかりの赤ちゃんは、味覚がわかる、わからないではないのです。原始反射みたいに、生まれつき持っている反射的な味の識別能力を持っているのです。その識別能力が少なくとも大人よりも敏感だということです。それが大きくなるにつれて、数値が下がってくる。だんだん味に関しては鈍くなっていって、離乳食とか、幼児の食事のときには、わりと幅広い、いろんな味が受け入れられるということではないかと思うのです。



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