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少子化社会における小児医療 小児救急、時間外診療と地域医療への貢献、大学小児科の役割
大分大学医学部脳・神経機能統御講座 小児科学教授 泉 達郎



III. 小児医療、救急体制に対する大学小児科の役割、救急、教育体制の再構築急務


 小児救急医療、時間外診療体制の最大の問題点は小児科医不足である。小児科医を志望する学生が増加するためには教育、研修を担う大学医学部附属病院小児科が、活動的で、臨床、研究ともに将来性があり、貢献するに値しうる魅力的な科であるには何が問題で、何が必要かを検討するため、我々の大分大学医学部附属病院小児科が担っている現状を検討した4)。
 小児救急医療にはてんかん重積状態や溺水、急性脳炎・脳症、髄膜炎、熱中症、虐待など真に救急集中治療を要するものと、女性、母親の社会進出、核家族化などの社会情勢の変化に伴う発熱や下痢、気管支喘息等の小児時間外診療がある。大部分の受診患児は後者であるが、当大学小児科にはてんかん重積状態や、インフルエンザ脳症などの急性脳炎・脳症、髄膜炎等の痙攣性疾患患児が救急医療を求めて、大分県だけでなく宮崎県など他県からも来院する事が多い。一方、入院病棟は難治性てんかん等の神経疾患や血液腫瘍性疾患、新生児未熟児集中治療室(NICU)への入院患児が主体を占め、常時、多数の人工呼吸器が稼働し、重症患児に対応し、多忙な病棟業務のなかで、当直業務としての小児救急、時間外診療にも対応している。
 当大分大学医学部附属病院における最近5年間の救急時間外診療受診者数は小児科が常に、最多で、内科3科の合計、外科2科と心臓血管外科の3科の合計よりも多数であった。しかし、救急医学講座は心臓血管外科医と脳神経外科医等の外科医から成り、小児科医のスタッフはいない。また、時間外を含む1次診療を担当する総合診療部も同様に内科医が中心で、小児科医はいない。これらの診療科は最近新設されたものであるが、大学附属病院における小児科をはじめとする臨床各科の定員削減によって新設されており、結果として、小児科医対内科医・外科医の教員比率が減少している。大学附属病院における救急、時間外診療と教育を担当する救急部と総合診療部の教員はそれぞれ外科医と内科医から成り、小児科医がいないことは患者数の比率からも不適当であり、これらの科にも小児科医の専任教員をおくか、小児救急科の新設と、その教員の増加が必要である。そうすることによって、大学附属病院救急医療とその教育の充実に繋がり、ひいては学生の教育や実習、新医師臨床研修制における小児科研修の充実となり、小児科医の増加を可能にすると考える。


参考文献
1) 泉 達郎、古城昌展、秋吉健介、他. 小児科医のいない街:少子、高齢、過疎化と小児医療. 小児保健研究 2005;64: 441-446.
2) 田久浩志、田中哲郎. 統計学的解析に関する研究. 平成13年度厚生科学研究費補助金:医療技術評価研究事業. 2次医療圏毎の小児救急医療体制の現状等の評価に関する研究(H13−医療−023).分担研究報告書、2001; 1-24.
3) 松尾宣武、武村和子、Takayama JI、鴨下重彦. 都道府県別、2次医療圏別にみた小児科標榜医のworkforce. 日医雑誌 2004; 131:1453-1474.
4) 末延聡一、前田知己、是松聖悟、他. 地方大学附属病院における小児救急医療体制の問題点. 日児誌2004; 108:1001-1005.



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