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第二十四回 母子健康協会シンポジウム 保育におけることばの問題と対応
4 討議(4)



前川 少なくとも、幼児期のどもり始めは、病気ではないと思ってください。むしろ、その子の特性ということと、秦野先生のおっしゃったとおり知恵のある子がどもるのです。知恵が遅れた子はどもりません。そういうことで、舌の運動とか、ゆっくり呼吸して調節してしゃべるとか、そういうことで直るのではないかと思います。むしろ、周りが反応して、「おかしいよ、おかしいよ、この子、どうにかしよう」と寄ってたかって、どもりを直そうとすると、さっきの話しにあった第三段階、第四段階になって、なかなか大変だということになると思います。ですから、ぜひ、保育園・幼稚園の先生はそうならないために対応してあげて下さい。
 それから、友達ですが、「おまえ何とかだ」とか、「言ってごらん」とか好きなことを言いますね。だけど、子ども同士で言っているのであれば、そんなに気にしてなければ、周りが気にすることもないようなことが大部分です。あんまり子ども同士のことは触らないほうがよい。クラスに一人どもりがいて、みんなまねしてどもりになったということもあるのですが、ずっとどもるわけじゃないのですから気にしないことだと思います。このことについて、もう少し詳しく栗山先生にお願いします。

栗山 先ほどの「言い誤り」に関してですが、周りの子どもたちが、何を話しているかわからないといった反応を示すとの相談についてです。
 これは前川先生が、どもりの正方形ということで書いてくださったように、今度は周りの人たちのわかりにくさというのが、子どもにとって、あるいは本人にとってプレッシャーになっているような場合にどうしたらいいかということです。これは本当に対応が難しいですね。私は、この時点で言えることは、周りの保母さん、先生たちが、いずれできるようになるんだということで、それをあまり問題視するような対応はよくないような気がします。いずれみんなと同じように話せるようになるということで、子どもの自発的な修正の能力というようなものを、生かしてあげることだという気がいたします。
 こういった子どもは、コミュニケーションとしてうまく機能しないということは、周りの人にとっても、あるいは本人にとっても、非常に苦痛を生じます。ですけれども、特に小さい子どもですから、周りがそんなに気にしなければ、恐らく、周りの子どもたちも、いずれうまく話せるようになるんだという意識で接することができるようになるのではないかという気がいたします。
 それからもう一点、
幼児語についての質問がありました。幼児語をいつ頃直したらいいか、ということですが、とかく言葉を獲得する時期には、子どもたちにとってなじみやすい、発音しやすいという言葉で、ものの名前を与えて教えることをいたします。たとえば、最初から「これは犬よ」というふうに教える親は少ない。「これ、ワンワンよ」というほうが多いですね。あるいは「ニャーニャーよ」という言い方をする。それは、子どもにとってそのほうが、鳴き声に似ていることで、なじみやすいし、注目しやすいし、物には名前があるんだということに早く気がつくということもあります。
 ただ、いつまでも「ワンワン」では、社会的に共通な言語にならないわけです。どこかで「犬」ということを教えていかなければいけないわけです。
 実は、子どもたちの言葉が、どう獲得されているのかということを、特に、語彙に関して、いろいろ系統立てて検討している人たちがいます。それによると、一たん命名されたものに、それとは別の新しい言葉を与えられると、子どもたちは、その物の名前ではなくて、それとは別のところ、たとえば色だとか、あるいは形だとか、あるいは部分の名前であるとか、その物の名前ではなくて、しっぽを「犬」と誤って覚えることがあると言われています。それはかなり発達の初期ですけれども。そういうことで、たくさん一遍にいろいろなものを与えると、子どもたちが混同することも考えられるのです。ですが、いずれ子どもたちは、「犬」という言い方もできるし、「ワンワン」という言い方もできるし、あるいは「動物」「生き物」という言い方もできるんだということに、これはオーバーライドという言い方をしていますけれども、乗り換えることが可能になってくると言われています。
 そういう意味では、その時期まで待ちながら、新しい言葉を与えていくということになるのですけれども、実際には、それがいつかというのはわかりにくいわけです。ですから、たとえば、三歳、四歳になって「ワンワン」と言っているのは、「これは犬よ」というふうに言いかえて、正しい命名を与えるという必要もありますし、まだそういった物と言葉というのは対応しているんだということがまだわからない初期の場合には、少し待ってあげて、少し理解が進んでから、「これはワンワンではなくて犬よ」と言い方をしてあげるのがいいかと思います。



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