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第二十四回 母子健康協会シンポジウム 保育におけることばの問題と対応
1 言葉の発達とその規定要因
白百合女子大学教授 秦野 悦子



身近なできごとに対してスクリプトを形成する


 私たちの生活の中には、言語を豊かに使っていくような場面が、たくさん組み込まれています。特に強調したいのは、私たちは、重要な身近な出来事に対して、スクリプトを形成するということです。スクリプトというのは聞き慣れない言葉だと思いますが、うまく日本語に訳せないのです。スクリプトを、日本語に直訳しますと「脚本」ということになります。私たちは、生活の中にたくさんの脚本を持っています。
 たとえば、「御飯を食べようね」「お食事をしようね」と言われると、私たちはそれに関連する一連の手続き的な知識を思い浮かべることができます。子どもの場合だと、その年齢にふさわしく、手を洗って、食卓の椅子に座って、首にはエプロンをかけて、準備が整ったら「いただきます」をして、お腹がいっぱいになったら、最後に「ごちそうさま」して、食卓から離れるというような決まった行動があります。また「洋服を着替えようね」というと、お母さんと向かい合って立ち、手をバンザイして着替えに協力するような動作などという一連の流れがあります。これらの一連の流れの中に、決まった言語的な指示が入って、一連の行動の中にゴールがあるようなもの、たとえば今お話したような着替え、食事とか、お風呂に入る、お散歩に行くとか、そういうようなものを、私たちは生活スクリプトと言っています。
 一番わかりやすいスクリプトの例としては、ファーストフード店に行ってハンバーガーを注文するときを思い出してください。店員さんは、その店の決められたスクリプトで、会話を進めていこうとしますね。店のお客は、そのスクリプトにはまって応答していくと、うまくコミュニケーションできますけど、そのスクリプトに外れたやりとりをすると、店員さんとちぐはぐなコミュニケーションになってしまいます。スクリプトは、ある一定のコミュニケーションを活性化させ、スムーズで自動的なやり取りに人々を導いていきます。子どもたちは、そのスクリプトさえわかれば、そこにはまっていけばいいので、相手と安定したコミュニケーションを確保できます。子どもたちは、こういうスクリプトを生活の中にたくさん持っていると、そこではいつも決まりきった言葉かけがありますので、子どもたちは応答の仕方も分かり、とても楽なんですね。
 生活の中にたくさんのスクリプトを持って、大人がいつも決まったように決まった言葉かけをしていくと、子どもはとてもそのやりとりに対して見通しが持ちやすいので、会話コミュニケーションに入れる。特に、保育園とか幼稚園とか、生活が見えやすい、いつも決まった活動が入っている場面では、そういうスクリプトというのがとても形成しやすいですね。ですから、規則正しい生活習慣は、ことばの発達の基礎知識を提供するといえます。生活習慣が、ことばの発達にとって重要なのはこのような理由によります。
 ですから、ことばの遅れのお子さんなんかにも、生活の中でわかりやすい、決まりきった場面をスクリプトとしてどんなふうに入れてあげるかというのが、彼らの言語生活を判りやすくし、言葉の働きかけの意味を理解しやすくします。
 幼児期の保育所や幼稚園という集団生活の中には、このようなスクリプトは、もっともっとたくさんあります。お集りの活動とか、お片づけ活動とか、お当番活動とか、生活発表とか、いろんなものがたくさんあります。集まって、並んで、順番にお返事をするとか、そういうような中に、子どもに理解してほしいたくさんの言葉かけをどのように行っていくのか、というのは教育する側の問題です。またどういう場面でなんていったらよいのか、自分はどういうふうにこの活動に参加していくのか、というのは、子どもが経験しながら学んでいくことがらです。生活のなかで積み重ねていけることを、意識的に行うのかそうでないのか、いままで当たり前に過ごしてきていた生活の中で、より意識的に言葉かけをしていくことで、子どもの言語生活をとても豊かにしていくということにつながっていきます。



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