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第二十四回 母子健康協会シンポジウム 保育におけることばの問題と対応
1 言葉の発達とその規定要因
白百合女子大学教授 秦野 悦子



対人関係成立が言葉のやりとり基礎


 およそ生後九ヵ月ぐらいから生後十五ヵ月ぐらいまでに、90%ぐらいの子どもが、初語とか始語とか言われますが、最初の言葉を発するといわれます。けれども、言葉が出てくる前に、どんなことを子どもたちは学び、生活の中で身につけているのでしょうか。ひとことで言えば、どうやって人とやりとりしていくのか、ということです。すなわち、人から話しかけられているときは、相手の顔に注目し、相手が話し終えたら、今度は自分から話しかける。そんなルールはどういうところで学んでいるかというと、「いない、いないばー」とか、「ちょうだい」とか「どうぞ」とか、そういう人と人とのやりとりです。特に、生後十ヵ月ぐらいの、物を介した人のやりとり、すなわち、何か持っている物を「ちょうだい」「どうぞ」と渡していく、なんていうのは、それはまだ十分な言葉は出ていないのですけれども、言葉のやり取りの学習そのものです。持っている物を、「ちょうだい」と言って渡せる。それがやがて言葉になっていくというようなところがあり、物を使って人とやりとりができるのか、というようなことはとても大事です。
 生後六ヵ月ぐらいに、どうも人から話しかけられた言葉には意味があるらしいぞということに子どもは気づくようなのです。だから、人が話しかけると、「なに?」というように顔を向けて、じっと相手の顔を見るのはこのことに気づいている証とも言えます。対人関係障害のあるお子さんは、人の話しかけに注意が向かないのは、発達的にはこの時期の問題をかかえているといえます。つまり、相手から話しかけられたことには、自分にとって意味があるに違いない、なんていうことは、乳児期に既に学んでいるということなのです。ですから、乳児期におっぱいを飲ませてもらいながら話しかけられたり、「いない、いないばー」をして遊んでもらったり、「きれいきれい」と体を拭いてもらったり、手遊びや歌遊びなどを通して、身体に直接働きかけられる活動から、人がどうやって自分にかかわってくれるのか、ということを知り、人にどうやってかかわってコミュニケーションが展開するのか、ということを学んでいるようなのです。
 ですから、言葉が始まる前のコミュニケーションというのは、特に、人とどういうタイミングでやりとりをしたらいいのかということを、たくさん学んでいるということです。それは、どういうところで学ぶかというと、決して緊張したやりとりの中ではなく、楽しいプレイフルな場面、実際には、大人に遊んでもらうような状況ですね。ほっとしたところで、大人がリラックスしたところで、子どもは正面からかかわってもらう、楽しいやりとりの中で、ターンテイキングといわれるような、人とのやりとりの順番などを学んでいきます。やりとりの順番というのは、会話に参加していくときの基礎になっていきます。人が話したら注目する、話し終わったら自分の番だとわかる、ということですが、それが既に乳児期に獲得されていきます。



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