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幼稚園・保育園に通う年齢のこどもの腎臓病
東京大学大学院医学系研究科小児医学講座教授 五十嵐 隆



 幼稚園・保育園に通う年齢のこどもが遭遇することが多い腎臓病について簡単に御紹介します。病気に対して幼稚園、保育園の先生や保育士の方が正しい知識をお持ち戴き、病気を持つこどもに適切な対応をお取り戴ければ幸いです。

1 急性腎炎


(図1) 正確には急性糸球体腎炎と言います。糸球体とは腎臓の細い血管が塊状になったもので、血液から尿を濾(こ)す働きを担っています(図1)。腎臓は糸球体から老廃物を尿として排泄しています。急性糸球体腎炎とはこの糸球体の血管に病変が起きて血尿、蛋白尿など異常な尿所見が急に出現して、その結果、浮腫や高血圧などを起こす病気です。

【症状】
 こどもの急性腎炎のうち最も頻度が多いのが溶連菌感染後の急性糸球体腎炎です。溶連菌とはA群β溶血性連鎖球菌のことで、咽頭炎・扁桃腺炎、猩紅熱(猩とはおおきな猿の意味です)、脳皮症(おでき)、リウマチ熱などの原因にもなります。特に秋から春にかけて流行する溶連菌による扁桃腺炎は四〜十歳のこども達に流行します。従って、急性腎炎もこの年齢のこども達がかかることが多く、どちらかというと男の子に多い傾向があります。急性腎炎が発症する二週間程前にA群β溶連菌による咽頭炎、扁桃炎、膿皮症などに感染します。むくみと肉眼的血尿などの症状が出ることで病気と気づかれます。むくみは腎炎によって血液中の蛋白質が尿中にたくさん排泄されて、血液中の蛋白質の濃度が減ることによって起こります。むくみはまぶたや下肢に強く見られます。ひどくなると全身がむくんできます。まれに著しい高血圧のために痙攣や意識障害を起こすことがあります。糸球体の血管の内側にある内皮細胞が炎症を起こして腫れてしまい、糸球体血管を流れる血液の量が減ってしまうことが病気の原因です。むくみなどの症状が出てから7〜10日間は腎機能低下による高カリウム血症(血液中のカリウム濃度が上昇する状態)と高血圧が起きやすい最も危険な時期です。

【治療】
 むくみ、高血圧、蛋白尿がある時は入院とします。浮腫や高血圧が強い時は安静が必要です。しばらくして十分な量の尿がでるようになり、塩分の制限なしでもむくみがなくなり血圧も正常化すれば安静を解除します。浮腫が消失し蛋白尿が減れば退院とします。
 むくみや高血圧が見られる間は食事からの食塩の摂取を制限します。入院当初は食事中の塩分は年長児で1日三g程度に制限します。浮腫がある時には利尿薬を使います。利尿がつくとむくみも軽くなっていきますので、塩分の摂取制限を次第に緩めます。ふつう、食塩制限は1〜2週間必要です。腎機能が低下していたり高カリウム血症がみられる間は、蛋白質の摂取を年齢相当の必要量の八割程度に制限します。水分摂取は原則として制限しません。高血圧には降圧薬を使用します。
 小児の急性腎炎は慢性腎炎に変化することはありません。腎機能の低下などを残すこともほとんどありません。ただし、小学校高学年以上の子どもが急性腎炎になると、一部腎機能障害が残ることがあります。

【通園時の注意】
 外来では、蛋白尿が消えるまでは体育などの運動は禁止します。蛋白尿が消えたら、たとえ血尿が残っていても幼稚園・保育園への登園は可能で、他の園児と同じ生活をしても問題はありません。血尿は3〜6か月間続きますが、蛋白尿が見られなければ運動を禁止する必要はありません。血尿が消失したら、完全に治癒したと考えて良いと思います。




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