マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第5戦

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インディ500に向けて弾みをつける

第5戦 インディGP

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 インディアナポリスのロードコースで行われたインディGPは、当初、佐藤琢磨にとってあまり期待できる展開ではなかったが、結果的に多くのチャンピオンシップ・ポイントを獲得することに成功した。No.26 アンドレッティ・スポーツ・ダラーラ・ホンダは後方グリッドからスタートしながら、最初のピットストップを終えると琢磨は挽回を開始。レース中にイエローフラッグが提示されなかったにもかかわらず、スターティンググリッドよりも10ポジション上の12位でフィニッシュしたのである。

「僕にとってもNo.26をつけたマシーンにとっても難しい週末でした」と琢磨。「プラクティス以降、ずっとスピードが伸び悩んでいたのです」 琢磨は2回のプラクティスをいずれも15番手で終えたものの、予選に向けては不安を感じていた。「チームメイトと比べても、僕のマシーンはトップスピードが不足していました。状況は複雑ですが、僕のマシーンはあまり速くない傾向がありました。ほかのロードコースに比べるとインディGPはペースが速いので、速度差はより顕著になります。しかも、僕たちはハンドリング面でも苦しんでいたのです」

「今回は2デイ・イベントなので、プラクティスの段階からみんなで異なることを試しましたが、45分間のプラクティスを2回行っただけで予選に挑まなければいけません。1回目のプラクティスは昨年同様、ひどく寒く、みんな冬物のジャケットを着ているほどでした! 午後になると日差しが出てきて路面温度も上がりましたが、それでも寒い1日だったことには変わりありません。フリープラクティスではNo.98のマシーンに乗るアレックス・ロッシが好調で、僕は真ん中くらいでした。ライアン・ハンター-レイとマルコ・アンドレッティはレッド・タイアを試すチャンスがありませんでしたが、レッド・タイアに履き替えれば速くなることはわかっていました」

 予選での琢磨はフリープラクティスよりもペースが遅くなり、グループ内の11番手でグリッドは22番手となった。「ブラック・タイアで臨んだウォームアップランでもグリップ・レベルが極めて低いことは明らかでした。その理由はダウンフォース不足にあると考えられたので、アタックに向けてダウンフォースを増やしましたが、状況は改善されませんでした。なぜなら、ストレートスピードが目に見えて下がったからです。全ドライバーのなかで、僕がいちばんストレートスピードが遅かったくらいです。そこで夜になってからマシーンを分解してエンジン関連のハーネスを交換するなど、スピードを上げるためにできることはすべて行いました。ウォームアップ・セッションでは、100%とまではいかないまでも状況は改善され、10番手のタイムをマークしました。これは満足のいくもので、午後のレースに向けて士気も上がりました。前日よりは大幅に満足できる状況だったのです」

 予選を第1セグメントだけで終えていたため、琢磨は決勝レースで新品のレッド・タイアを2セット使うことができた。また、インディ・ロードコースは比較的オーバーテイクしやすいいっぽう、コースレイアウトの関係でレース序盤を中心にイエローが頻繁に提示されることで知られていた。

「ところが今回はインディGP史上初めて、ターン1でなにもアクシデントが起きませんでした!」 琢磨は声を上げて笑う。「スーパースピードウェイの幅広い部分からコークボトル状にぎゅっとコース幅が狭まるうえ、このセクションがS字状になっているので、誰もがサイド・バイ・サイドになって通過するため、3ワイドになることも珍しくありません。おかげで、いつもここで絡んだりクラッシュが起きたりします。ところが幸か不幸か、今回は全ドライバーが何ごともなくここを通過したのです」

 このときすでに琢磨はいくつか順位を上げていた。「これに続くバックストレートでは、インディGPではお馴染みの4ワイドになり、あたり一面にホコリが舞い上がるとともにマシーンは激しくボトミングしました! とっても楽しかったですよ。僕はターン7で1台をオーバーテイクし、続いてスピンしたトニー・カナーンを避けたので、順位を5つ上げることになりました」

 それでも依然として26台が混戦を繰り広げており、続く数周で琢磨は数台に抜き返される。いっぽう、イエローが提示されなければレースは3ストップで走りきることになるので、最初のピットストップを行うまでに少なくとも15ラップは周回しなければいけない。このため、琢磨は硬めのブラック・タイアを履いたまま、必要なラップ数を消化しながら、なおかつ全力を投じなければいけなくなった。「グリップを確保する為にリア・タイアの空気圧をかなり低めに設定しなければいけないことはわかっていましたが、実際には少し低すぎたようです。おかげでタイア内圧が適正値まで上がらず、グリップも得られませんでした。タイアが発熱しないことが原因です。おかげでとても不安定な状態で、ひどいオーバーステアに苦しむことになりました」

 そこで、やや早めのピットストップを行ってレッド・タイアに履き替えると、琢磨はぐんぐんと順位を上げていくことになる。特にピットストップを終えた直後は、ピット作業を引き延ばしていたドライバーたちをごぼう抜きにするほど速く、15番手に浮上。14番手を走るミカエル・アレシンを追撃していた。そしてロシア人ドライバーをフロントストレートで追い越すのだが、このときはギリギリまでピットウォールに接近し、手に汗握るオーバーテイクを演じたのである。「タイアを交換すると、ラップタイムはすぐに1.5秒か2秒ほど速くなりました。レッド・タイアを履くとマシーンの感触は大幅によくなり、このスティントでは本当に力強い走りができました。最初のラップから次のピットストップを行う直前まで、安定して速いペースを保つことができたのです。しかも、僕はリードラップに返り咲くことにも成功します。彼らが最初のピットストップを行うまで、ラップタイムは僕のほうが速いくらいでした」

「アレシンは速いドライバーですが、ときに不必要なほどアグレッシブになります。彼がポジションを守ろうとしたのは理解できますが、僕をウォールに向けて幅寄せしようとしたことは危険極まりない行動でした。それでも十分なスピード差があったので、僕はスロットルを緩めずに走り続けました。あのときは本当にピットウォールが目前でした!」

 2回目のピットストップでは少々タイムをロスしたものの、琢磨よりもさらにピットストップが長引いたコナー・デイリーに先行すると、コース上でジェイムズ・ヒンチクリフをパスし、12番手へと駒を進める。そして3回目で最後となるピットストップが近づいた頃にはスペンサー・ピゴットに照準をあわせていた。ところが、ピット作業中にホイールナットに関連するトラブルが発生、琢磨はまたも数秒をロスすることになる。そして最後のスティントではジョセフ・ニューガーデンにドライブスルーペナルティが科せられた結果、琢磨は11番手に浮上したものの、その7周後にペンスキーのドライバーが追い上げてきたときには反撃のしようがなかった。

「コースにはラバーがのってペースが上がっていました。ピットストップでのトラブルがなければ、もうふたつほどは上の順位でフィニッシュできたかもしれませんが、ニューガーデンだけは防ぎようがありませんでした。ヘアピンで彼にオーバーテイクされたときは、すぐに追い抜き返しましたが、その2周後に今度はストレート上でオーバーテイクされたのです。レース後半の2スティントについていえば、スティント前半の3/4はいい状態でしたが、最後の5〜8周はリア・タイアのグリップ低下に悩まされました。また、最初のスティントを短めにした影響で、燃費面でも苦しい状況に追い込まれました。そうした問題がありながら、一度もイエローが提示されなかったレースで22番手から12位まで挽回したのですから、チームは大健闘したといっていいでしょう」

 土曜日に決勝レースが終わっても、彼らがゆっくりと休むことは許されない。月曜日にはシリーズ中もっとも重要なインディ500のプラクティスがスーパースピードウェイで始まるからだ。「本当はインディGPを上位で終えたいところでした。けれども、少なくとも弾みはつけられたと思います。スーパースピードウェイで走らせるのは、同じマシーンですが仕様はまったく異なります。それでも、僕たちは正しい方向に向かって進んでいけるでしょう! アンドレッティ・オートスポーツの強みはマシーンの台数が多いことだけではありません。これまでの数年間にインディ500で残してきた結果を見てもわかるとおり、チームはとても速く、そして強力です。その実力は歴然としています」

「インディ500を戦う為の特別なマシーンは本来、2ヵ月ほどかけて作り上げます。様々な工程を経て、モディカウルの無駄な凹凸を取り除き、空気抵抗と機械抵抗を極限まで落としたマシーンの仕様変更には非常に多くの作業量を必要とするからです。その為、これまでの僕の経験では、初日はマシーンをシェイクダウンさせて、2日目にベースとなるセッティングをまとめ、3日目からはトラフィックのなかを走行します。ところが、アンドレッティでは走行初日の午後から6台でグループランを行うのです。マシーンがすでにそのレベルにあるのは驚くべきことといえます。インディ500が本当に楽しみで仕方ありません」

written by Marcus Simmons

 

マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第4戦

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不可解なアクシデント

第4戦 フェニックス

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フェニックス・インターナショナル・レースウェイで行われたインディーカー・シリーズ第4戦は、アンドレッティ・オートスポーツ・チームから出場した4台が揃ってリタイアに追い込まれるという厳しい戦いとなった。リタイアした4人には当然、佐藤琢磨も含まれていて、彼は250周で競われた決勝の136周目にグリップを完全に失ってレースを終えたのである。

この週末を通じて琢磨とNo.26ダラーラ・ホンダは苦しみ続けた。なにしろ、最初に行われた2時間一本勝負のプラクティスでさえ、琢磨は17番手に沈み込んでいたのだから......。「フェニックスでは2月にオープンテストが行なわれました」と琢磨。「2日間のテストで僕たちは大きな進歩を遂げ、レースセットアップのパフォーマンスにはとても満足していたのですが、予選トリムはうまくいかなかったのでセットアップを変えなければいけませんでした。一部の領域では開発も必要でした」

「プラクティスが2時間もあったと聞くと、通常のオーバルコースよりも走行時間が長かったように思われるかもしれませんが、レース直前のウォームアップ走行がないので、この2時間で予選用セットアップにくわえて決勝の準備もしなければいけません。ところが残念なことに、この日はとても風が強く、しかもコースは砂漠の真ん中にあるので、たくさんの砂が舞い込んできました。こんな状態のオーバルコースを見るのは、これが初めてでした。その様子は初めて開かれたときのバーレーンGPにそっくりで、最初のプラクティス中に吹き込んできた砂が、まるで水しぶきのように走行する車から舞い上がっていたのを思い出しました。ハンドリングのセットアップも、強い風のおかげで困難なものとなりましら。190mph(約304km/h)のコーナリング中に気まぐれな風が吹き荒れるのですから、ドライビングはさらに難しくなります。もちろん、コンディションは誰にとっても同じですが、僕たちはまだ予選シミュレーションを終えていなかったので、やや先が見通せない状態でした」

琢磨にとって不運だったのは、予選での彼の出走順が6番目で、アンドレッティのなかではトップバッターとなったことにある。おかげで、チームメイトから事前の情報を手に入れることもできなくなった。さらに悪いことに、日が沈んで気温が下がり、タイヤをウォームアップしにくい状況に追い込まれてしまう。このため、あとになって考えれば「必要以上にコンサバティブなセッティング」を選択したと琢磨は振り返る。「ハンドリングはよかったし、ドライビングもしやすいと感じました」と琢磨。「ただし、そこからどのくらいダウンフォースを減らすことができるかは判断できませんでした。それに、コースコンディションは次第によくなりそうだったので、あとからアタックするドライバーよりも速いタイムをマークするのは難しいと思われました」 実際、琢磨は予選の最終結果で18位まで後退することになった。

レースが始まると、オープニングラップで多重クラッシュが発生する。しかし、琢磨の直前を走行していたグレアム・レイホールとスピンしたマックス・チルトンのマシーンがどこに向かっていくかを鋭く予想した琢磨は、この事故に巻き込まれずに済んだ。「これほどバンク角が急なオーバルコースでは、コーナーと言うよりも、バンクに入ると目の前は壁にしか見えないこともあります。そんなときは、左にステアしているようにはまるで思えず、上に上がっていきそうな感覚ですね! 白煙が上がり、火花が飛んで破片が飛び散ったのが目に入ったとき、僕たちはかなりのスピードに到達していました。間際になってマックスがスピンしながら下のほうに下がっていくのが見えましたが、その後、今度は上に上がっていきました。それと同時にグレアムが向かっているその軌跡が、マックスと交差しそうだったので、僕は寸前で左側のインサイドに進路を変え、アクシデントを避けることができました。ほんのわずかな差でしたが、幸運な判断でした!」

これで琢磨は13番手となったが、リスタート以降は、なかなか順位をあげられなかった。「少なめのダウンフォースで戦うことにしました。なぜなら、僕たちは追い上げなければいけなかったからで、しかもフェニックスはオーバーテイクが難しいコースとされています。僕たちがもっともダウンフォースの少ないマシーンの1台だったことは間違いないでしょう。これでいいレースになることを期待していました」

「最初のスティントは厳しいものとなります。このときはまだ完全に日が沈んでいなかったので、気温もまだいくぶん高いコンディションでした。ここではポジションを守り、レース後半で状況がよくなることを期待していました。ただし、ハンドリングはルース(オーバーステア)で、スライドも多めだったので、フロントのグリップを落とすことで対応しましたが、厳しい状態は変わらず、オーバーテイクはできませんでした。前のクルマの1秒差まで迫ると、タービュランスに巻き込まれてそれ以上、近づくのがとても難しくなったからです」

それでも、チームは2回目のピットストップまで状況を好転させようとして努力したが、このピットストップを終えた直後のアウトラップで琢磨はクラッシュを喫してしまう。「とても奇妙なことが起こりました。アウトラップでターン3に向かっているとき、マシーンがまったく曲がってくれなくなったのです。アペックスにはスロットルを戻して近づいていきましたが、いつもとまったく同じことしかしていません。ところが、まるでフロントがグリップせず、僕は路面の汚れた部分に進入すると、そのままターン4のウォールまで上がっていったのです。これまでたくさんオーバルを走りましたが、こんなことが起きたのは初めてです。アレクサンダー・ロッシもまったく同じ問題でウォールに接触し、ライアン・ハンター-レイにも同じことが起きましたが、彼はあと数cmというところで接触から免れました。つまり、アンドレッティのドライバーはみんなこの奇妙な状況に陥ったわけで、これで僕のレースは幕を閉じました。とても残念です」

フェニックスが終わると、チームはもっとも重要な"マンス・オブ・メイ"をインディアナポリスで迎えることになる。その皮切りはロードコースで行われるインディ・グランプリで、5月後半にはスーパースピードウェイであの伝説的なインディ500が催される。ただし、その前にセントルイスのゲートウェイ・オーバルでテストが行なわれる予定。このコースでインディカーレースが行われるのは久しぶりのことだ。

「ゲートウェイに行ったことはありませんが、僕の大切な友人でサポーターでもあるロジャー安川はここでレースに参戦した経験があって、エキサイティングなショートオーバルだと教えてもらいました。だから、いまはとても楽しみにしています。このテストに続いてはインディGPがあります。バーバー・モータースポーツ・パークでは、僕たちのマシーンは悪くありませんでしたが、さらに速くさせる必要があります。そのためにはロードコース用のセッティングをさらに進化させなければいけません。インディGPのコースはとてもユニークですが、僕たちがこのコースでもコンペティティブで、いいレースになることを期待しています」

written by Marcus Simmon

 

マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第3戦

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ブレーキ・トラブルに苦しむ

第3戦 バーバー

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 トラブルに苦しみながらもしっかりとポイントを獲得し、ポイントテーブル上の順位を上げられたことは、チームとドライバーが熟達している何よりの証拠といえる。バーバー・モータースポーツ・パークにおける佐藤琢磨は、まさにそれをやってのけた。なにしろ、ブレーキ・トラブルを抱えたアンドレッティ・オートスポーツのNo.26 ダラーラ・ホンダで9位入賞を果たし、チャンピオン争いの8番手に浮上したのだから......。「もっと上位陣に近いポジションでフィニッシュできたら、もちろんそのほうがよかったでしょう」と琢磨。「でも、僕たちはいくつかの問題に悩まされていたので、最終的に手に入れた結果には満足しています。しかも、悪くないポイントを獲得してチャンピオン争いの順位も上がったのですから、長い目で見てもよかったと思います」

 3週間前にバーバーで行われたテストで大きな手応えを掴んでいたので、チームは意気揚々としてアラバマでのレースウィークを迎えていた。「数年前まではバーバーでオープンテストを行なうのが恒例となっていました。ただし、3月初旬に開催されるためにとても気温が低く、たとえ太陽が出ていても凍えるように寒いので、どうしても待ち時間が長くなっていました。それと、バルセロナでのF1テストと同じで、温度がマシーンのバランスやパフォーマンスに与える影響が大きく、コンディションの異なるレースウィークエンドにはあまり役に立たないという傾向もありました」

「それに比べると3週間前に行ったテストのときはずっと温かく、マシーンのバランスとパフォーマンスもとても満足のいくものでした。しかも午前中はトップ、午後も6番手だったので、レースウィークを楽しみにしていました」

 ところが、金曜日のフリープラクティスは期待外れに終わる。「初日、僕たちのマシーンはあまり調子がよくありませんでした。あの日は、普段では考えられないほど暑く、まるで夏のようでした。気持ちのいい1日でしたが、テストのときに比べるとバランスは大きくシフトしていました。また、ブレーキに問題があることも明らかになります。結果的に、これは素材が安定していないことが原因だと突き止めました。ペダルのフィーリングは良好なのに、コントロールがとても難しく、何度もタイアをロックさせてしまいました。バーバーでは、コーナー進入の姿勢を決められない限り、いいタイムは記録できません。もしも正確にブレーキングできなければ、コーナーではひどいアンダーステアになり、出口ではスナップオーバーに見舞われます。でも、チームメイトのマルコ・アンドレッティはとてもコンペティティブでした。僕は4カーチームの特権を存分に活用し、彼のセットアップを"コピー&ペースト"して最良の道を探ることにしました」

 土曜日のプラクティスで状況は好転。新しいブレーキを手に入れた琢磨はいいムードに包まれていた。しかし、このセッションの最後に起きたことは、琢磨のグリッド・ポジションに大きな影響を与えることとなる。琢磨は14番手につけていたのだが、トニー・カナーンが最後のラップで琢磨を15番手に蹴落としたのだ。予選グループの区分はこのセッションにおける順位の奇数・偶数によって決まるのだが、琢磨と同じ奇数グループにはペンスキーの3人 ---- ウィル・パワー、エリオ・カストロネヴェス、シモン・パジェノー----が含まれていたほか、これまでに4度チャンピオンに輝いたスコット・ディクソン、2017年のシリーズリーダーであるセバスチャン・ブールデ、アンドレッティのエース級であるライアン・ハンター-レイなどが揃っていたのである。激戦となることは目に見えていた。

「信じられませんでした! それでもトップ6に入ってQ2に進められそうでしたが、最後の最後に僕とライアンの間にブールデが割って入ってきたのです。それもものすごい接戦で、惜しいところでQ2進出を逃しました」 実際のところ、琢磨はあと100分の6秒速ければQ2に駒を進めていた。この結果、琢磨は14番グリッドからスタートすることが決まる。

 残念なことに、決勝日朝のウォームアップは雨のために台無しとなってしまう。もちろん、琢磨はウェットコンディションが大好きだが、レースがドライになることがわかっているときには、好ましい状態とはいえないだろう。「金曜日のセットアップには満足できなかったうえ、土曜日は予選のことに集中していたので、これまでとは異なるセッティングを試したいと思っていました。したがって、ここではあまり物事が捗りませんでしたし、はっきりとした見通しが立たないまま決勝を迎えることになりました」

 レース前に不運なメカニカル・トラブルによって脱落したマルコ・アンドレッティによって一つ順位を上げ、琢磨はオープニングラップの小競り合いを潜り抜けてオーバーテイクを演じ、2ラップ目を終えたところで9番手まで浮上。ここで、この日2度提示されたコーションの1回目を迎える。原因はコース上の破片だった。「スタートは楽しかったですよ! バーバーはオーバーテイクがとても難しいので、レースが落ち着くまでの最初の何コーナーかが勝負となります。ターン2とターン3はアウト側に回り込んだのに続き、ターン5のヘアピンでもアウトから攻めて、いくつか順位を上げました。最初はマシーンの調子もよかったのですが、間もなくドライブしづらくなります。ひどいオーバーステアで、コース上に留まっているだけでも大変な状態でした。とても苦しい展開です。リアタイアの摩耗が進行するとさらにリアのグリップは落ち込み、オーバーステアはさらに強まりました」

「しかも、最初のスティントで新たなブレーキ・トラブルが発生します。ブレーキングするとマシーンがブルブルと振動するようになったのです。右リアのブレーキ温度が常識外れなレベルまで上がっていました。これは、左フロント・ブレーキがなくなってしまったロングビーチのときと似た症状でした。そこでブレーキバイアスを大きく変更しなければいけなくなったのです」

 グリップに関連する問題は柔らかめのレッドタイアによるデグラデーションが原因だったので、次のスティントではブラックタイアに交換することを決める。ここまでに、他のドライバーが早めのピットストップを行ったこともあり、琢磨は一時5番手に浮上。続くスティントでは10番手前後につけていたが、最後のスティントではわずかにトップ10圏外に落ちてしまう。レース終盤にはもう1度、イエローが提示され、ほとんどのドライバーがここでピットストップ、そのままフィニッシュを目指すこととなる。このとき琢磨は12番手でコースに復帰した。

「イエローが出たとき、僕たちはリスタートでのパフォーマンスを優先してレッドタイアを装着しました。僕は何台かのマシーンとバトルを演じ、いくつか順位を上げました。けれども、ブレーキ・トラブルに苦しんでいたため、ヘアピンの進入でマシーンを停められず、タイアを激しくロックさせてしまいます。このときタイアにフラットスポットができました。タイアが丸くなくなったせいで、レースが終わってからも僕の目と腕は揺れているような感じがしました!」

 ロックアップをしながらも琢磨はマックス・チルトンをパスして11番手に浮上。しかし、すぐにチルトンに抜き返されて12番手となる。次の攻防ではイギリス人ドライバーを仕留めて11番手に返り咲くと、今度はチャーリー・キンボールを抜いて10番手に駒を進めた。最後のコーション中にピットストップを行わなかったキンボールは、ここで給油を行ったのだ。さらにタイアのパンクによりパワーがピットに舞い戻ったことで9番手となる。「いいスティントでした。最初はハンター-レイ、続いてミカイル・アレシンを抑えなければいけませんでしたが、なんとか彼らの行く手を遮りました。長く、厳しい戦いでした。自分たちが期待するような最高の結果ではありませんでしたが、力強いパフォーマンスを示せたと思います」

 アラバマにはフェルナンド・アロンソが姿を見せた。アロンソが琢磨と一緒にアンドレッティのマシーンを駆ってインディ500に参戦することは衆知のとおりである。「フェルナンドに会えてよかったです。彼とは毎年、日本で開催されるホンダ・サンクス・デイで顔を合わせる間柄です。いつも一緒にカートを走らせて楽しんでいます。フェルナンドと一緒にレースを戦えることが楽しみです。彼と一緒にいるととても面白いんですよ。サーキットではタフなドライバーですが、いつもフェアに戦ってくれます」

 琢磨たちはバーバーから真っ直ぐフェニックスに向かい、土曜日の夜に行われるレースに挑む。「昨年のフェニックスではライバル陣営が好調でした。けれども、ホンダは大きな進化を果たしています。フェニックスはとてもチャレンジングなコースです。本当に、信じられないほどで、コーナーでは長い時間、5Gを発生させることになります。このショートオーバルでは既にテストも行なっているのでで、力強くレースを戦えることを期待しています」

written by Marcus Simmon

 

マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第2戦

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初優勝の地で思わぬ苦戦

第2戦ロングビーチ

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 カルフォルニアのジンクスが再び佐藤琢磨と3人のチームメイトを襲った。ロングビーチの市街地コースで行われた2017年インディカー・シリーズ第2戦において、アンドレッティに所属する4人のドライバーはいずれもチェッカードフラッグを受けられなかったのだ。このうち、琢磨は残り7周で突然のパワーダウンによりリタイア。トップ10フィニッシュも十分に可能と思われていただけに、セントピーターズバーグでの5位に続く好成績が収められなかったことは返す返すも残念だった。

 セントピーターズバーグで得られた手応えは、バーバー・モータースポーツ・パーク、セブリング、ソノマで立て続けに行われたテストでも同様に感じられ、琢磨とNo.26ダラーラ・ホンダに関わるスタッフを大きく勇気づけるとともに、マシーンの進化を加速させた。「第1戦と第2戦の間に1ヵ月近いインターバルがあるなんて、インディカー・シリーズでは滅多にありません」と琢磨。「ただし、とても忙しい日々でした。今年のプレシーズンくらい、テストの量が少なかったことはここ何年もありませんでしたが、シーズンが始まってからは忙しくテストに取り組んでいます。バーバーと、マニュファクチュアラー・テストが行われたソノマはロードコース向けのテスト、そして(バンプが多い)セブリングでは市街地コースを見据えたテストを行ないました。どちらも順調で内容が濃いテストだったので、僕たちは意気揚々としてロングビーチに向かいました」

 それだけでなく、琢磨はワインの監修でも忙しい毎日を過ごしていたのだ! 「ロングビーチでTSワインの発表を行いました。このアイデアが生まれたのは1年半ほど前のことで、それ以降、たくさんのプロセスを経て誕生しました。僕が製作した初めてのワインは、インディカー初優勝である2013年ロングビーチを記念するもので、モータースポーツ・アーティストのランディ・オーエンの作品を元にラベルを作成したロングビーチ・エディションとしました」

「カベルネソーヴィニヨンから作られた上質なワインです。メドウクロフト・ワインはフォイト・ワインを製作していて、AJフォイトが作った特別なワインを彼のチームに所属している当時に見せてもらったことがきっかけでした。これは、僕が優勝した2013年にメドウクロフトで収穫されたブドウを使ったもので、そこは大きなこだわりです。クールでしょ? 僕たちはたくさんのテイスティングを行いましたが、とても楽しい作業でした。できあがったワインについては大満足しています。いま飲んでもとてもおいしいけれど、熟成して最高のワインとなるように慎重にブレンドしました。10〜15年後に飲むとまた格別な味がするはずです。まさにコレクターのためのワインといえるでしょう!」

 たしかに。このワインは600本だけが製作され、インディアナポリスのフォイト・ワイン・ヴォールトで購入可能。発売は、インディ500が開催される今年5月の予定である。

 レースの話に戻ろう。より正確にいえば、フリープラクティスについてである。「初日のセッションはとてもうまくいきました」と琢磨。「僕たちのクルマはほかと異なることを試していたので、1回目のセッションではラップタイムが状況を反映していたとはいえません。2回目のセッションでは4番手まで一気に上がりました。この結果には満足で、しかも昨年の予選タイムにとても近い記録だったから、マシーンが進歩していることは明らかでした。そして、フリープラクティスで柔らかめのレッド・タイアを試したのも、今回が初めてでした。今年からルールが変更されたためですが、セントピーターズバーグではアクシデントのため、レッド・タイアを履くチャンスがなかったのです」

「土曜日のプラクティスはさらにタイムを上げました。このときはブラック・タイアで走行しましたが、タイムは5番手で、トップ5のタイム差は5/100秒しかありませんでした。なんという接戦でしょう! このときはレッド・タイアの特性も概ねわかっていたので、予選に向けて大きな期待を抱いていました」

 しかし、予選は不本意な結果に終わり、これが決勝レースで苦戦を強いられるきっかけとなる。予選グループでの順位は9番手で、このため琢磨は18番グリッドからのスタートを余儀なくされた。「バランスの変化に戸惑いました。気温が上がったうえに風が強くなっていましたが、これは誰にとっても同じことです。まずブラック・タイアでウォームアップして、レッド・タイアに履き替えました。アタックできるのは2ラップです。最初のアタックでターン5の縁石を使ったとき、奇妙なことが起きました。アプローチの仕方がそれまでと違ったのかもしれませんが、クルマが間違った方向に飛び出し、アタックを中断しなければいけませんでした。次のアタックが最後のチャンスでしたが、やはりターン5でバランスを崩し、またもやタイムをロスしました。残りのラップで取り戻そうとしましたが、不可能でした。とても残念です。いろいろな条件が重なったのと僕のミスが原因でした」

 この後、琢磨はエンジニアのギャレット・マザーシードとNo.26のセッティングを見直し、決勝日当日のウォームアップでは2番手のタイムを叩き出す。「何人かのドライバーはレッド・タイアを履いていましたが、僕はブラックを選びました。このときは『これが予選だったら!』と思わずにはいられませんでした。上がり下がりの激しい週末でしたが、最終的にいい結果が得られると信じていました」

 追い越しが難しいロングビーチで下位グリッドから追い上げるには、できるだけ早い段階で通常とは異なる戦略に切り替えるしかない。琢磨が選択した作戦もこれで、オープニングラップにウィル・パワーとチャーリー・キンボールの事故が起きてコーションになると、琢磨は2ラップ目にピットストップを実施。2回目のストップは12周目に行った。「今年の決勝は例年より5ラップ長くなりました。したがって2ストップで走りきるには燃費を15%ほどセーブしなければいけません。ただし、朝のウォームアップでは僕たちのマシーンが速いことは明らかだったので、3ストップ作戦を基本としましたが、いっぽうで柔軟に対応できるようにしたいとも思いました。また、僕たちには使えるタイアがたくさんありました。なぜなら、僕たちの予選はセグメント1だけで終わったからで、このためレッド・タイアが1セット余分にありました。つまり、最初から最後まで攻め続けられる環境が整っていたわけです」

「けれども、期待ほど速く走れませんでした。その詳細については検証しなければいけないものの、気温の上昇が関係しているのか、予想したほどのグリップを得られませんでした。苦しい戦いだったといえます。オーバーテイクで順位をいくつか上げることができましたが、大事な局面で抑えられる格好になり大きくタイムロスしてしまいました」

 レースの1/4を終えると、琢磨はJRヒルデブランドをパスしたものの、エド・ジョーンズを攻めあぐねることになる。琢磨は結果的に4ストップ戦略にスイッチし、残り26周で最後のピットストップを行う。それから間もなく、チームメイトのアレクサンダー・ロッシがコース上で停止したため、この日2度目で最後のコーションとなる。グリーンフラッグが振り下ろされたのはフィニッシュまで16ラップとなったときのことで、琢磨は13番手につけていた。

 少なくとも、この段階まで琢磨はレースを戦い続けていたのである。続いてトニー・カナーンをパスして12番手、ミカエル・アレシンを攻略して11番手に浮上。トップ10フィニッシュが限りなく現実味を帯びてきたこのとき、マシーンが不調に陥った。「この日のレースでトップ6やトップ7に入った何人かのドライバーと同じ戦略を選んでいました。けれども、最後のピットストップではまたしてもタイムをロスし、これが決定的な痛手となりました。コースに戻った僕はまだペースが上がらない状態で、すでにタイアのウォームアップが終わっているドライバーたちに追い越されてしまいます。なにもかも、期待とは反対の方向に進んでいきました」

「やがてイエローが提示されます。僕は他のドライバーたちと同じレッド・タイアを履いていました。リスタートではかなりアグレッシブにチャージしました。TKとサイド・バイ・サイドで走るのは最高でしたし、ターン1への進入でオーバーテイクできたのも楽しかったです!」

「このままトップ10圏内に食い込めそうな展開でしたが、突然パワーダウンが起きて、僕たちは残り7周で為す術もなくマシーンを停めました。アンドレッティ・オートスポーツにとっても難しい1日でした。これまでロングビーチのコースは僕たちに優しかったのに、今年、いい結果を残せなかったのは残念でした。ただし、シーズンはまだ長いので、次の1戦にも全力で挑むつもりです」

 シリーズ第3戦はアラバマ州のバーバー・モータースポーツ・パークで開催される。「バーバーとソノマのテストは順調で、マシーンを確実に進化できたので、いいレースになることを期待しています」

written by Marcus Simmon

 

マーカス・シモンズレースレポート:2017年 インディカーシリーズ第1戦

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素晴らしい幕開け

第1戦セントピーターズバーグ

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 2017年ベライゾン・インディカー・シリーズの開幕戦セントピーターズバーグ。今季移籍した名門チームのアンドレッティ・オートスポーツからこの一戦に挑んだ佐藤琢磨は、数ラップをトップで周回した後に5位でフィニッシュするというエキサイティングなレースを演じた。

 AJフォイト・レーシングのNo.14をつけたマシーンで戦い続けて4年。今季からはNo.26アンドレッティ・ダラーラ・ホンダでシリーズに臨むが、琢磨がいわゆる有力チームからインディカーに参戦するのはこれが初めてのこと。計4台をエントリーするアンドレッティで琢磨のチームメイトとなるのは、ライアン・ハンター-レイ、マルコ・アンドレッティ、そしてアレクサンダー・ロッシの3人だ。「今回の挑戦は本当に楽しみですが、いっぽうでフォイトを離れることをとても淋しく思っています」と琢磨。「なにしろ4シーズンをともに過ごした家族も同然のチームですから、たくさんの思い出があります。また、AJとラリー・フォイト、それにチームの全員から受けたサポートは本当に素晴らしいものでした。最後の2シーズンはやや苦戦を強いられましたが、僕たちはこれまでに何度も素晴らしいパフォーマンスを発揮しました。今年のセントピーターでも、顔を会わせるたびに互いにサムアップしました」

「いっぽう、アンドレッティは仕事の進め方が異なるので、いまは新しいスタイルを学ばなければいけません。チームはここ何年間かにわたってたくさんの成功を収めてきましたが、とりわけインディ500でのパフォーマンスには目を見張るものがありました。また、アンドレッティは4台体制でインディカーにエントリーした最初のチームで、いまではガナッシやペンスキーも彼らに追随しています。その仕事ぶりはF1を彷彿とさせるものがあります。もちろん、F1はまた別世界ですが、チームのリソースや仕事のクォリティはバツグンに高く、マイケル・アンドレッティはチームに全力を投じています。もっとも高いレベルでインディカーを戦うという意味において、僕にとってはおそらく最高の環境だと思います」

 琢磨には新しいチームだが、そこには懐かしい顔もあった。琢磨がインディカーに挑んだ初年度と2年目に在籍したKVレーシングでエンジニアを務めたガレット・マザーシードと、アンドレッティで再びコンビを組むことになったのだ。「これは本当に素晴らしいニュースでした。なにしろ、あの頃に比べると、僕たちは互いにたくさんの経験を積んできましたから。また、チームは新しくても、そこに気心が知れたスタッフが在籍しているというだけでほっとします。インディカー・シリーズに活動の場を移してから、ガレット、ジェリー・ヒューズ(元スーパーアグリで、インディカーではレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングでエンジニアを務めた)、ドン・ハリデイ、ラウル・プラドス(最後のふたりはAJフォイトに所属)といったエンジニアたちと一緒に仕事ができて、僕は本当に幸運でした」

 まだアンドレッティとの契約が完了していなかったため、昨年12月にセブリングで行われたテストに参加できなかった琢磨は、フェニックスでのオーバル・テストに2日間臨んだほか、先ごろ実施されたセブリングで1日テストを行ったのみ。ただし、シミュレーターや様々な準備を行うことで「これまででもっとも充実したシーズンオフを過ごすことができました」と琢磨は語る。

 ただし、そうした成果が週末の滑り出しに反映されることはなかった。金曜日最初のプラクティスは16番手。その日の午後に行われた2回目のプラクティスではタイムを記録する前にクラッシュを喫した。「インディカーを戦うようになって、いちばん困難な金曜日だったかもしれません。とても過酷な1日でした。最初のセッションは、満足できるとはいえないものの、それほど悪くはありませんでした。僕たちのチームではセットアップのフィロソフィーを4人で分担して試すことになっていますが、僕はちょうど調子が出始めてきたところでした」

「ところで、リーグが指定するブレーキは今季からブレンボではなくなりました。新しいブレーキは硬い素材を用いたもので、作動温度域が非常に限られていることが特徴です。このため、温度が低い状態では満足に作動しませんが、高温になると急激に減速Gが立ち上がります。このブレーキでレースが走りきれるかどうか、誰もが悩んでいたほどで、リーグは開幕直前にブレーキダクトのモディファイを認めることになったほどです。第2セッションが始まるとき、ペダルのフィーリングが驚くほどソフトだったので、走行前にブレーキのエア抜きを行いました。アウトラップの段階でブレーキとタイヤはしっかり準備が整っていると思えたので、ブレーキペダルを踏み込みましたが、まったく感触がありません。そしてタイヤがロックしてコントロールを失い、ウォールにヒットしたのです。これで走行時間を大幅にロスすることになると同時に、ソフトコンパウンドのレッドタイアを試す機会も失ってしまいました。今季より、2回目のプラクティスで1台あたり1セットずつレッドタイアが試せるよう、ルールが改正されていたのです」

「チームのメカニックたちは最高の仕事でマシーンを修復してくれましたが、土曜日に行われた3回目のプラクティスではまだチームメイトから大きく遅れている状態でした。けれども、3人のチームメイトとエンジニアたちが全力でサポートしてくれました。これは本当にこのチームの強みだと思います」

 その言葉どおり、琢磨は最初の予選グループで3番手のタイムをマーク。12台が進出する第2セグメントに易々と駒を進めた。ここで4番手につけた琢磨はファイアストン・ファスト6に挑み、5番グリッドを勝ち取ったのである。

「マシーンがあんなにいい状態になって、本当に最高の気分でした。思い切り攻めることができたうえに、とてもコンペティティブで、不満はなにもありません。もしかしたら、もっといい成績を残せたかもしれませんが、状況が状況だっただけに、この結果には心から満足できました」

 ところが、日曜日のウォームアップはあまりコンペティティブではなかったうえに、チームメイトのハンター-レイにブレーキトラブルが発生、ウォールに真っ直ぐ激突するという事件が起きる。それでも琢磨は110周の決勝で好スタートを決めることができた。レースが始まると、ジョセフ・ガーデンを早々とパスして4番手に浮上。序盤のコーションが終わると琢磨はこのポジションを確固たるものとし、ウィル・パワーがピットストップを余儀なくされたところで3番手に順位を上げる。そして26周目にトニー・カナーンとミカエル・アレシンの接触で破片が散乱してイエローが提示されたとき、琢磨はトップを走るジェイムズ・ヒンチクリフのわずか5秒後方につけていた。

 もっとも、このイエローは予選を上位で終えたドライバーにとって最悪のタイミングだった。後方グループのドライバーたちは1回目のピットストップを終えていたため、コーション中にピットストップを行ったヒンチクリフ、スコット・ディクソン、琢磨のトップ3は集団の最後方に並ぶこととなり、琢磨は12番手に転落したのだ。しかし、リスタートが切られると琢磨は驚くべき手腕を発揮し、たった1周で7番手まで挽回してみせたのである!

「僕たちはおよそ半年もレースから離れていました。しかもセントピーターは空港の滑走路を使っているためにスタート部分はとてもワイドですが、ターン2はコークボトルでコース幅は急激に狭くなります。つまり、とんでもなくリスキーなのです! でも、僕の周りにいたのは信頼のおけるドライバーばかりだったので、とてもいいバトルを演じることができました。ヒンチクリフは新品のレッドタイアで、僕たちはユーズドのレッドを履いていました。だから僕は"ディキシー"を抑えていられるだけで満足で、その後は後続を引き離しながらヒンチクリフに迫っていきました」

「2回目のリスタートでの僕のマヌーバはもしかしたら数名のドライバーをアンハッピーにさせてしまったかもしれませんね。ディクソンが追い上げを図ってヒンチクリフのインサイドに飛び込み。僕はそのさらにイン側を刺し、4ワイドとなりながら全員をオーバーテイクしました。ライアンは僕より5つ上のポジションにいて、僕たちは互いに接近していきました。このとき勢いの付き過ぎていた僕を彼が避けてくれたので、2台は接触せずに済みました。彼の協力なしにいい成績は残せなかったでしょう。僕たちは引き続きレース戦略に従って走っていましたが、3番手になるのは難しくないと思っていました」

 このとき、琢磨はインディカーの新人でこのとき3番手のエド・ジョーンズが率いる集団の後方につけていた。エドのペースが上がらなかった為、トップ2のセバスチャン・ブールデとシモン・パジェノーははるか前方に逃げてしまっていた。やがて全ドライバーがピットストップを行うと、琢磨はトップに浮上。そのまま数周したところでNo.26のマシーンもピットに舞い戻った。次のスティントを琢磨は4番手で走行していた。やがて徐々にパワーに接近していったが、ほどなくオーストラリア人ドライバーはピットストップを行った。

 これで3番手となった琢磨は、残り28周となったところでピットストップを敢行。このとき後続のドライバーに対しては十分なマージンを有していたが、ここで右フロント・ホイールの交換に手間取ってしまう。「僕たちには十分な余裕がありましたが、どうやらエアガンに問題があったようです」

 結局、琢磨は5番手となってコースに復帰。やがてパワーがスローダウンすると4番手に浮上した。けれども、後方からハンター-レイが猛追を開始。最終ラップの最終コーナーでチームメイトの先行を許した琢磨は0.0528秒差で5位に終わった。「もちろん表彰台に上れれば嬉しかったと思いますが、苦しい状況のなかでメカニックたちは本当に素晴らしい働きをしてくれました。最終ラップに入ったとき、あと6秒分のプッシュ・トゥ・パスが残っているとダッシュボードは伝えていました。これは最後のストレートにとっておくつもりでしたが、その1周前にあるコーナーでP2Pボタンを押したところ、なにか想定外のことが起きて残り時間がゼロになってしまったのです。(のちにラスト10秒は何かトラブルがあり、P2Pのハイブーストが全く掛かっていなかったことが判明。HPDは原因究明に努めている)このため最終コーナーでライアンに仕留められてしまいましたが、これはあくまでもレースの結果なので気にしていません。そもそも、彼が今週末してくれたことを考えれば、僕が順位を譲るのは当然だったのかもしれません」

「でも、僕は5番手に満足しています。こうした素晴らしいスタートが僕たちには必要だったのです。これはチーム・スタッフ全員が頑張った結果であり、これからの2017年シーズンを本当に楽しみにしているところです」

 次戦は琢磨が唯一インディカー・シリーズで優勝した経験を持つロングビーチが舞台。実は、1977年に開催された2回目のF1ロングビーチGPでマイケルの父であるマリオが優勝した経験を有しており、チームにとっては験のいいサーキットでもある。いっぽう、チームはバーバー・モータースポーツ・パークとソノマでテストを実施する予定だ。

written by Marcus Simmons

 
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