Glico Supports Takuma Sato.
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江崎グリコは佐藤琢磨選手を応援しています。 Glico Supports Takuma Sato.

2018年 マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第3戦

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踏みにじられた表彰台獲得の好機

第3戦 ロングビーチ

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ベライゾン・インディカー・シリーズのロングビーチ戦で、佐藤琢磨はほぼ最後尾のグリッドから表彰台に手が届くポジションまで追い上げた。ところが残念なことに、今度は絶対に取り戻せないほど大きく遅れたポジションへと再び転落したのである。21位という結果は彼らの努力にまるで見合っていないものだが、琢磨とレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングは今後に向けて大きな自信を手に入れたといえる。

 金曜日のフリープラクティスで、琢磨はFP1で6番手、FP2で4番手と力強い滑り出しを見せた。しかし、No.30をつけたダラーラ・ホンダからさらなるスピードを引き出さなければならないことを、琢磨もチームもよく理解していた。「開幕戦のセントピーターズバーグに比べれば、はるかにスムーズな展開でした」と琢磨。「マシーンのバランスは悪くありませんでしたが、グリップ・レベルに関してはもう少し改善しなければいけないように思われました。順位自体は悪くないものの、トップとのタイム差は大きく、たくさんのライバルがそのギャップを埋めるポジションに浮上することが予想されました。多くのチームがタイムを縮めることがわかっていたので、この順位で安心しているわけにはいかなかったのです」

「ロングビーチではよくあることですが、初日から2日目にかけて路面にラバーがのり、コースコンディションが劇的に改善されるため、マシーンにも多くの変更を施さなければいけません。予選を迎えるまではマシーンに満足できませんでしたが、それでも長足の進歩を遂げていました」 金曜日のセッションはターン1でスライドし、ウォールと接触して幕を閉じた。「ラインを外すと急激にグリップが低下します。しかもレッド・タイアのライフは実質的に1周しかなかったようです。3ラップ目には、ほとんどグリップが残されていませんでした」

 土曜日の午前中に行われたFP3では15番手まで後退したものの、チームは自信を抱いていた。スピードは間違いなく向上しているが、部分的に提示されていたイエローと最後には赤旗が振られたことで、実力に見合ったタイムを出せなかったことがわかっていたからだ。

 しかし、予選は惨憺たる結果に終わった。なにしろ、琢磨はNo.30のマシーンを22番グリッドに並べることになったのだから......。「マシーンは進歩していましたが、そのパフォーマンスを発揮するチャンスがありませんでした。チームメイトのグレアム・レイホールは別の予選グループから出走し、ファイアストン・ファスト6まで進出しました。僕は、彼に比べると運に恵まれませんでした。アタックラップのタイミングが悪く、コースインしたときに複数のドライバーが前方で間隔を空けるためにスロー走行していた為、タイアを満足にウォームアップできませんでした。最終コーナーを立ち上がってアタックラップに入るときはホイールスピンがひどく、ターン1ではタイアが温まっていなかったのでマシーンは小刻みに揺れながらスライドしました。僕はタイアをセーブする方針にし、2周目に向けて万全の対策で内圧を上げようとしました。ところがその最も大切なラップが始まったターン1の進入ではローカルイエローが提示されていました。僕がターン1に進入する直前にはイエローが解除されたので、実際にはそれほど大きくペースを落とす必要はなかったのかもしれませんが、確実にタイムロスしました。そしてそのイエローを作った張本人であるマルコ・アンドレッティが前方を走行していました。彼は僕に進路を譲ることもできたし、レーシングスピードで走り続けることもできたでしょう。ところが、僕はターン8で彼に追い付いてしまったのです。セクタータイムを見ると、追いつくまでの僕はトップ6に十分入る速さだったことがわかるので、セグメント2に進出できたはずです。けれども、最後のセクションで彼に捕まったため、大幅にタイムロスする結果となってしまったのです。これで僕の予選は終わりました。とても強い不満を感じました」

 このため、レースでは戦略が重要な意味を持つことになる。22番グリッドからスタートするとなると、通常は優れたレース戦略とともにいくぶんかの幸運が必要となる。しかし、これとは異なる戦い方もある。ダウンフォースを削ってライバルたちをオーバーテイクしていくという戦略だ。このセットアップを日曜日朝のウォームアップで試したところ、嬉しいことに琢磨は11番手のタイムをマークする。「ダウンフォースを削ると1周のラップタイムは遅くなってしまいます。けれども、このセットアップはストレートが伸びるうえに良好なバランスも見つけることができたの、とても勇気づけられました。最大の疑問はタイア・デグラデーション(性能劣化)にありました。なぜなら、ダウンフォースを減らすと99%の確率でタイアの持ちが悪化するからです」

 スタートが切られるとサイモン・パジェノーのアクシデントですぐにイエローが提示されたが、改めてグリーンフラッグが振り下ろされると、琢磨は次第に順位を上げていった。最初のスティントでザカリー・クラマン・デメロ、ギャビー・シャヴェス、スペンサー・ピゴット、アンドレッティ、ザック・ヴィーチを攻略。さらに他のドライバーがピットストップを行ったため、遅めにピットインした琢磨はこの時点で6番手まで浮上し、14番手でコースに復帰した。第2スティントでは、ジョーダン・キングをオーバーテイクし、ライバルたちがピットストップを行ったために再び順位を上げた。カイル・カイザーのマシーンをコースへ戻すためにイエローが提示されたとき、琢磨は6番手につけていた。琢磨はあと1回ピットストップする必要があったが、それは彼の前を走るドライバーたちにとっても同様だった。

「ロングビーチはいつ走っても素晴らしいコースですし、コース上でオーバーテイクできたのでとても楽しかったです。もちろん、本来ダウンフォースが必要となるコーナーではステアリングと格闘することになりますが、僕たちはメカニカル・グリップを大幅に向上させることに成功していました。上位陣とは、レース戦略がもたらした幸運ではなく、実力で堂々と渡り合うことはできました。しかも、レース中盤までに6番手へと浮上できたので申し分ありません。ライアン・ハンター-レイとは何度かサイド・バイ・サイドを楽しみましたが、ほとんどのドライバーはターン1のブレーキングでオーバーテイクしました」

「レース中盤まで、トップ8のドライバーは同じレース戦略で走っていました。誰もがあと1回ピットストップを残していました。僕のタイアはまだ新品に近い状態でした。このときレッド・タイアを履いていたのは僕とセバスチャン・ブールデだけで、ほかのドライバーはほとんどブラック・タイアを装着していました。したがって、レース終盤に向けて僕が順位を上げるのは保証されたも同然でした。なにもかも計画どおりに進行していたのです」

 ところが、リスタートが切られて間もなく、琢磨を悲劇が襲う。ハンター-レイがコントロールを失い、琢磨は彼を避けきれなかったのだ。「昨年はライアンのチームメイトだったので、彼がターン5でとても速いことを知っていました。このターンでの彼はいつも自信にあふれ、よくターン6のブレーキングでライバルのインに飛び込んでいきました。そのとき、ライアンはウィル・パワーを追っていて、僕はふたりの後方につけていました。すると、ライアンはさらにウィルに接近していきました。ターン5から立ち上がるとき、ライアンがオーバーテイクしようとしていることがわかりました。けれど、少しパワーをかけ過ぎたようで、コーナー出口でハーフスピンに陥ります。僕は避けようとしましたが、最後の最後で彼はグリップを回復させ、こちらに戻ってきました。そのとき既に彼の内側に急接近していた僕のフロントタイヤと彼のテールが接触したのです」

 接触の衝撃自体は小さかった。通常であればインディカーにダメージを与えるようなレベルではまったくなかったのだが......。

「接触した角度がよくありませんでした。このためフロントのアップライトを固定するボルトが折れてしまったのです。滅多に起きるトラブルではありませんが、おかげでピットに戻らなくてはならなくなりました。これさえなければ僕はレースを走りきっていたでしょう。しかも、このとき僕の後方を走っていたドライバーが表彰台に上っているので、残念でなりません」

 マシーンの修復により琢磨は11ラップ遅れとなる。その後の走行は、今後のレースに向けてのデータ収集となったといっても過言ではない。好成績を収められたレースだったことは間違いが、今回琢磨が見せたパフォーマンスは、今後に向けた素晴らしい前兆と見ることもできる。

 来週はアラバマのバーバー・モータースポーツ・パークでの一戦に臨むことになるが、ロングビーチとはコースの特性とは大きく異なる。ご存知のとおり、琢磨はアップ・ダウンの激しいこのコースを愛して止まない。「バーバーでは冬の間にテストを行いました。路面温度は大きく異なるでしょうし、テストは天候の影響で中断されましたが、いいアイデアを手に入れたので、それをさらに改善できることを期待しています」

written by Marcus Simmons

 

2018年 マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第2戦

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砂漠に起きた「季節の変化」

第2戦フェニックス

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フェニックスでのレースは、佐藤琢磨とレイホール・レターマン・ラニガン・レーシングにとって落胆以外のなにものでもなかった。アリゾナの1マイル・オーバルで琢磨は11位完走を果たしたものの、2月のオープンテストで琢磨とグレアム・レーホールが見せた速さを思えば、期待を下回る結果だったと言わざるを得ない。
「2月のオープンテストはとてもポジティブで建設的なものでした」と琢磨。「テストは2日間で、昼と夜のセッションを2回ずつ繰り返しました。つまり、暖かい日中のコンディションと、涼しい夜のコンディションを経験したことになります。そうした異なる環境のなかで、僕たちはとてもコンペティティブでした。したがって、大きな期待を抱いたのは当然といえるでしょう」
 週末最初のフリープラクティスで、すべてが根本的に間違っていることを示す最初の兆候が現れた。「砂漠の真ん中にあるフェニックスでは実質的に冬はありませんが、それでも2月と4月ではずいぶん気温が異なります。オーバルを走るクルマは気温の影響を大きく受けます。だから、グリップが低下して苦しむことになるとは予想していました。2月のテストよりも自分たちが遅くなることは承知していましたが、これほど悪い展開になるとは予想していませんでした」
「インスタレーションラップを走り終えると、ほかのドライバーがラップタイムを記録するまで待機することにしました。最初に走り出したのはジェイムズ・ヒンチクリフでしたが、そのタイムは平凡なものでした。路面温度は2月に比べて30F°(約17℃)以上も高かったので、コンディションは決してよくないことが予想されました。ヒンチが所属するシュミット・ピーターソン・モータースポーツは、オープンテストのとき必ずしも速かったとはいえなかったので、もう少しほかのドライバーがタイムを記録するまで待つことにしました。その後で僕たちも走り始めましたが、そこで、ヒンチクリフがものすごくコンペティティブであることに気づきます。おそらく、僕たちは長く待ちすぎたのでしょう。最初の走行を終えたとき、コースコンディションがどれほど僕たちのマシーンに悪影響を与えているかを知って愕然としました」
「テストからレースウィークエンドにかけての変化という観点でいえば、各チームは3つのグループに分類できました。シュミット・ピーターソンは好調で大きく躍進したチーム。ペンスキー、ガナッシ、アンドレッティはパフォーマンスを維持したチーム。そしてトップから最下位グループに転落したチームの3グループですが、僕たちは残念ながら最後のグループに属していたようです... 僕たちも高い気温に備えた準備をしていましたが、2月のテストがあまりにも好調だったので、あまり大きく変更する必要はないと捉えていました。このため、クルマは基本的に同じ状態でしたが、まったく使い物になりませんでした。しかも、セッションが始まってから時間がだいぶ経過していたので、セッティングを大幅に変更することもできません。予選に備えてニュータイアを連続投入し、コンディションに出来る限り順応することくらいしかできませんでした。セッションが終わったとき、マシーンはまるでコンペティティブではありませんでしたし、自信を持ってアタックできるような状況ではありませんでした」
 そのことを思えば、予選で難しい状況に直面した琢磨が13番グリッドを獲得したことは大きな進歩だったといっていい。今季より導入された全チーム共通の空力パッケージ"ユニバーサルキット"は従来に比べてダウンフォースが減少しているため、ニュータイアを履いていてもフラットアウトでコーナーを抜けることができず、ときにはダウンソフトさえ必要になる。
「ウォームアップ・ラップではターン4の出口でスナップ・オーバーステアが起きました。自信を築いていくうえで、決して嬉しいできごとではありません。最初のアタックラップではターン1からターン2までスライドし、2ラップ目ではターン2でリアが弾かれるように滑ったのでスロットルを戻さなければいけませんでした。本当にギリギリのところでした」
 2018年からオーバルの予選アタック順はポイントテーブルの逆順とされることになった。つまり、第2戦の今回は開幕戦セントピーターズバーグの最下位から順にアタックしたのである。このため、セントピーターズバーグを制したセバスチャン・ブールデが最後にアタックし、ポールポジションを獲得。ところが、フロリダの市街地コースで2位だったレイホールは最後から2番目にアタックしながら11位でフェニックスの予選を終えたのである。このことからもチームの実力がわかろうというもの。しかも、琢磨はレイホールより先に出走するのだから、コンディションに恵まれていないだけでなく、セッティングの大幅変更を余儀なくされていたマシーンのハンドリング状態を試す先陣役となったのはやむを得ないことだった。
 金曜日の夜に行われたウォームアップ・セッションでは状況がやや好転し、琢磨は10番手のタイムをマーク。「このときは温度が大きく下がりました。ある意味、2月の日中に近いコンディションとなったので、僕たちにとって有利な状況に近づいたといえます。それでも、僕たちはセットアップを大幅に変更しなければいけませんでした。そこでグレアムと僕とでセッティングの方向性を大きく分け、どちらにするかを判断することになりました」
「僕が行なったロングランはコンペティティブな内容で、トップ5に匹敵するものでした。これでタイアマネージメントに関しては自信を得ることができました。また、ウォームアップでニュータイアを使わなかったので、決勝ではニュータイアを1セット分余計に使えることになりました。これでピット戦略の幅が広がったといえます」
 最初のスティントは、ルーキーのピエトロ・フィッティパルディがクラッシュして2回続けてコーションになったことを除けば、比較的平穏な展開だった。スタートで14番手となった琢磨は、こんなことを感じていたという。「誰もが注意深く走っている様子でした。なにしろ、ユニバーサルキットでオーバルレースを戦うのは誰にとっても今回が初めてだったので、この先の展開が予想できなかったからです。スタートは悪くありませんでしたが、僕とグレアムが追い上げを開始しようとしたところ、それがとても難しいことを思い知らされます。バランスシフトの点では、誰かの後ろを走るのは昨年よりも少し容易になりましたが、ダウンフォースが大きく減少していることには変わりありません。また、ウィングの角度にも制限があるので、基本的には去年の予選レベルのダウンフォースで決勝を走っているようなものです。にもかかわらず燃料の搭載量はこれまでのレースと変わらないのですから、フラットアウトで走れるはずがありません。ときには、コーナーの手前で3回ダウンシフトを行なうことがあったほどです! 単独で走行しているだけでもマシーンのグリップ力は限界的で、コース幅を目一杯使う必要があります。つまり、常にベストのラインを走らなければいけません。したがってサイド・バイ・サイドや前車に接近した走りをするのはまるで不可能でした」
 フィッティパルディのアクシデントでコーションとなったときは全員がピットストップを行なったため、琢磨は9番手に浮上するチャンスを手に入れる。このとき、琢磨が走らせる30号車はロングランを得意としていたことから、第2スティントは長めに周回することが決まる。このため次にイエローが提示されるのを待つこととなったが、そのチャンスは巡ってこなかった。それどころか、早めにピットストップをしてニュータイアを得たドライバーたちがペースを上げ始めていた。琢磨は2度目のピットストップを行なう直前に2番手まで順位を上げたが、コースに復帰すると11番手に後退。直後にサイモン・パジェノーに追い越されてしまう。「レースはどんどん厳しいものになっていきました」 琢磨はそう語った。
 グリーン中に行なわれた次のピットストップが一巡したとき、琢磨はギリギリでトップ10に加わるポジションを走行していたが、ここでエド・ジョーンズがクラッシュ。この日最後のコーションになるとともに、レースは残り8周で再開されることになる。「この直前のピットストップを終えてからは、タイアマネージメントに専念しました。なぜなら、フィニッシュまでは長い道のりだと思われたからです。ところがその途中でイエローが提示されました。そのとき装着していたタイアで、僕はかなりの周回数をこなしていましたが、このタイミングでピットストップするドライバーはそれほど多くないと予想されました。いっぽう、タイアのセット数に関して僕には余裕があったので、このときチームはピットストップすることを決めます。ところが、驚いたことにおよそ80%のドライバーが僕と同じようにピットストップを行なったのです。このため、その後は多くのドライバーがニュータイアを装着して走行することになり、僕はパジェノーにオーバーテイクされて11位でチェッカードフラッグを受けました。もしもこのときステイアウトをしていれば、僕はヒンチクリフとレースしていたはずなので、7位か8位でフィニッシュできたでしょう。もちろん、そのほうがいい結果ですが、トップ4のドライバーに迫るような走りはできなかったはずです。いずれにせよ、テストであれだけコンペティティブだったのに、レース週末ではペースが大幅に伸び悩んだのですから、残念でなりません」
 次戦の開催地は、琢磨がインディカー初優勝を遂げたロングビーチ。このコースを琢磨が愛して止まないことはいうまでもない。今年2度目の市街地レースを前にして、琢磨はこんなコメントを口にした。「セントピーターズバーグではファスト6に残ることができたので、ロングビーチでも力強くレースを戦いたいと願っています」
 このレースに向けた準備は、実はフェニックスよりも前に始まっていた。ロサンジェルス・エンジェルスとクリーヴランド・インディアンズが戦う試合の始球式で琢磨がボールを投げることになったからだ。「マリオ・アンドレッティの2シーター・インディカーを借りて数ラップを走行しました。マリオのシートポジションは僕にもぴったりでした! 皆さんに楽しんでもらったり、逆に怖がらせたりするのは楽しいですね。これに続いて、僕は大リーグの試合が行なわれる野球場でボールを投げたのですが、信じられないような体験でした。これを実現してくれたエンジェルスに感謝します」
「ボールを投げるのは、スポーツのなかでも特に苦手なので、投げる前は少し緊張していました。2シーターのドライブが終わってから、仲のいい松本浩明カメラマンと一緒にYouTubeを見て、ボールの投げ方を勉強しました! エンジェルスでプレイする大谷翔平選手と会えたことも嬉しかったです。大谷選手も僕もデサントと契約していますが、これまで会ったことは一度もありませんでした」
「マウンドに立てるなんて、滅多にできない経験ですよね。ボールを投げるのは、簡単そうに見えますが、なかなか難しいものですね。ただし、次はもっと上手くできると思いますよ!」

written by Marcus Simmons

 

2018年 マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第1戦

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消えた"トップ5フィニッシュへの期待"

第1戦セントピーターズバーグ

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ベライゾン・インディカー・シリーズで9シーズン目を迎えた佐藤琢磨の開幕戦は、あまりいい滑り出しとはいえなかった。しかし、状況は尻上がりによくなっていき、予選以降は5位以内の入賞が確実視されるようになる。ところが不運な事故が発生し、コントロールを失ったスコット・ディクソンによって上位進出が期待された琢磨のレースは台無しにされてしまう。12位という最終結果はそれほど悪いものではないが、琢磨にとってはもっと上位でフィニッシュして当然のレースだった。

 今回のセントピーターズバーグは、マニュファクチュアラーが開発したエアロキットが姿を消し、新たな空力パーツを得たダラーラのインディカー・マシーンで競われる最初の戦いでもあった。そして琢磨にとっては、2012年以来、レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングから挑む久しぶりのレースとなった。

「大きな期待を抱いていました」と琢磨。「その気持ちは、僕も、チームも、そしてファンの方々にとっても同じだったはずです。ニューカーを走らせるという意味では誰もがまったく同じ条件。しかも、そのスタイリングはとてもロー&ワイドで、かつてのレーシングカーを彷彿とさせるものでした。実際に目の当たりにすると本当に美しいですよ。また、新しいマシーンに切り替わったことで誰にでも平等にチャンスが訪れました。マニファクチュアラーがエアロキットの性能を競い合っていた当時は、いっぽうに有利で他方には不利な状況でしたが、そうした不公平は一掃されました。ホンダ陣営の僕たちにとって、最大の困難はショートオーバルのレースで、次にロードコースを苦手としていましたが、反対にスーパースピードウェイでは高い性能を発揮していました」

「レイホール・レターマン・ラニガン・レーシングに復帰したことも、僕にとってはとても大きなチャンスとなりました。2012年以降、チームと僕は別々の道を歩んできましたが、ボビー・レイホールとマイク・ラニガンはいつも僕を精一杯支援してくれました。その間、僕はAJフォイトで4シーズン、アンドレッティで1シーズンを過ごしましたが、僕たちはコミュニケーションを絶やすことなく、ボビーはチームに戻ってきて欲しいといつも言ってくれました。過去数年、チームは素晴らしいスピードを示してきたので、僕にとっては完璧な組み合わせです。ワンカー・チームに過ぎないのに、グレアム・レイホールはホンダのドライバーとして常にトップグループに位置していたことは驚異的といえます。もちろんグレアムはいいドライバーですが、チームの実力はとても印象的でした」

 チームに復帰した琢磨は、2018年のシーズン前にショートオーバルのフェニックスで行なわれたテストで目の覚めるような走りを披露する。琢磨はここでオーバーオールのトップに立つと、バーバー・モータースポーツ・パークでもセブリングでも好調を維持した。この結果、チームは大いなる自信を抱いてセントピーターズバーグでの市街地レースに臨むこととなった。

 しかし、最初のフリープラクティスは散々な結果に終わる。24台中、琢磨の順位は22番手。「僕たちはイニシャル・セットアップの判断でミスを冒しました。スイートスポットを完全に外していて、その修正に長い時間と多くの周回数を費やすことになります。最悪の状況でした」 ところが、ここから彼らは見違えるような挽回劇を演じる。金曜日に行なわれた2回目のセッションで10番手になると、土曜日の午前中には9番手に食い込んだのである。「1セッション分の遅れをとっているような気がしていましたが、週末を通じて僕たちは徐々に遅れを取り戻し、マシーンは次第に調子を上げていきました」

「インディカー・シリーズは今シーズンのマシーンでダウンフォースの20%削減を目指していました。昨年のエアロパッケージはとても洗練されたものでしたが、今年、シリーズはマシーンの上側で発生されるダウンフォースを減らすいっぽう、ボディ下面で生み出すダウンフォースは増やす方針を立てていました。おかげでレースはより接近戦となり、ドライバーはコクピットのなかで忙しい思いをすることになります。僕たちはこれに反対な訳ではありませんが、ダウンフォースが20%も減るとドラッグも急激に低下します。このためストレートスピードは10%以上も速くなり、コーナーへの到達速度は15〜20mph(約24〜32km/h)も上がります。ドラッグが大きいとスロットルペダルを戻しただけでも急減速しますが、いまではほとんどスピードが落ちずに進んでいく状態です! おかげでトップスピードはこれまでよりも上がり、しかも早めにブレーキングするようになったため、とてもチャレンジングになりました。また、セントピーターズバーグのターン3は、難しいながらもこれまではフラットアウトで走り抜けることが可能でしたが、いまでは全開で駆け抜けるのは困難な状態に変わっています。ここはハイスピードコーナーで、とても面白いところです。そしていたるところでマシーンがスライドするようになったので、操るのがとにかく忙しい。また、去年のセットアップは流用ができなくなりました」

 それでもフリープラクティスが終わるまでには状況が好転し始めたが、琢磨自身は「自分たちのマシーンに完全に満足していたわけでも自信を抱いていたわけでもありません。恐らく苦しい予選になるでしょう」と予想していた。

 ところが、予選は嬉しい驚きとでもいうべき展開になる。最初のセグメントで、琢磨はセバスチャン・ブールデを1万分の7秒差で凌いで予選グループの6番手となり、第2セグメントに進出する最後のチケットを手に入れた。ここで5番手に食い込んだ琢磨はファイアストン・ファスト6に駒を進め、5番グリッドを獲得する。「各セグメントをギリギリのところで通過しました。ラッキーにも予選を戦い続けることができたのです。セグメントごとに僕たちはマシーンを修正し、持てるポテンシャルを出し切りました。最後のセッションでは雨がぱらつきました。このため最終ターンから第1ターンと第2ターンまではしっかりと濡れていましたが、コースのほかの部分は乾き始めていました。僕たちのセットアップはややコンサバすぎたようで、ドライのセクションではタイムを大きくロスしました。もしもQ2と同じセットアップを使っていれば、フロントロウを狙えたかもしれませんが、条件は誰にとっても同じでした。また、今回の予選ではルーキーが大活躍し、ポールポジションのほか、3番グリッドと4番グリッドを獲得しました」

 決勝日の朝に行われたウォームアップではまたも後退を余儀なくされ、琢磨とチームメイトのレイホールは揃って下位に沈み込んだ。これは、マシーンのスライドを抑え込み、タイアを持たせるようにするセットアップに変更した影響だったが、琢磨によれば「ただただ遅かった。僕たちはマシーンを大幅に変更する必要に迫られ、僕のマシーンは予選とほとんど変わらないセットアップに戻しました」という。

 決勝のスタートでは、上位4グリッドからスタートした3人のルーキーがクリーンな滑り出しを決めたいっぽうで、長い経験を誇るウィル・パワーは2番グリッドからスタートしながらターン2でスピンを喫してしまう。「ウィルとはうまくやっていたので、このときは『ダメだ、ウィル! それはダメだ!』と思っていました」 琢磨はそう語ると笑い声を上げた。「幸運にも、誰も彼と接触しなくて済みましたし、ダメージもありませんでした」 これで琢磨は4番手に浮上。レース序盤にはジェイムズ・ヒンチクリフやアレクサンダー・ロッシに抜かれたが、ほどなくヒントクリフを攻略し、続いてマテウス・ライストがトラブルに遭遇すると、琢磨は4番手に返り咲く。その後、グリーン中にピットストップしたことで中団に転落したが、琢磨は好調で、コーション後の34周目にリスタートが切られると実質的な5番手まで順位を戻していた。

 琢磨はターン4でスコット・ディクソンを鮮やかに攻略したが、皮肉にもこのオーバーテイクは帳消しになってしまう。続いてヒンチクリフもニュージーランド人ドライバーをパス。そこでディクソンは次のラップのターン1でヒンチクリフに襲いかかる。ディクソンはヒンチクリフを豪快にイン側からパスしたように見えたが、減速しきれずにコントロールを失い、何の罪もない琢磨に追突。ここで琢磨はスピンに追い込まれたうえに、タイアがパンクする不運に見舞われる。「ディクソンとはいいレースを戦っていました」と琢磨。「ターン4でディクソンをパスしたとき、彼にはもう少しスペースを明けておきたいと思っていましたが、マシーンのグリップレベルは驚くほど低い状態でした! でも、僕は状況に満足していたし、すべてうまくいっているように思っていました。その後、"ディクシー"は"ヒンチ"に襲いかかったようですが、ヒンチの脇を通り抜けて僕に追突してきました。追突の衝撃はすさまじく、このため接触した瞬間に彼のマシーンは宙に浮き上がってしまうほどでした。おかげで僕はスピンに追い込まれたのです」

 パンクしたタイアはその後のイエロー・コーション中にピットで交換されたので、No.30のマシーンは周回遅れにならずに済んだが、しかしディフューザーを始めとするエアロパーツがダメージを負っていたため、琢磨は2〜300ポンド(およそ100〜150kg)ものダウンフォースを失うこととなる。「レースを戦い続けられたのは幸運でした。僕たちはレース戦略が効を奏することを期待していました。そうそう、ボビー・レイホールがふたたびピットスタンドに立ち、僕にレースの指示をしてくれたことは本当に素晴らしいと思います。なにしろ、彼の声が僕の耳のなかに響いていたのですから!」 RLLRチームは給油量を少なくするレース戦略を選択。しかし、レース終盤までイエロー・コーションとならなかったため、この戦略が報われることはなかった。最後のコーションが終わると、レースは2ラップを残して再開。このとき、琢磨は14番手につけていたが、長らくレースをリードしていたロバート・ウィッケンズが不運なクラッシュで遅れたほか、琢磨はギャビー・シェイヴスの攻略に成功。12位でチェッカードフラッグを受けた。

 それにしてもフラストレーションの募るレースだった。「残念です。それでも、僕たちにとってはいい週末だったと思います。また、グレアムのレース戦略は素晴らしいものでした。なにしろ、後方グリッドからスタートして2位でフィニッシュしたのですから。チームにとっては最高の結果でした。もちろん、僕のレースも同じような展開になればよかったのですが、今回は多くのことを学びましたし、週末を通じてポジティブに思えることがたくさんありました。だから、次戦がいいレースになることを期待しています」

 オーバルコースのフェニックスで開催される第2戦はおよそ1ヵ月先のことだが、それまで琢磨はテストのため忙しい日々を過ごすことになる。まず、今週後半はファイアストンのタイアテストのためテキサス・モーター・スピードウェイを訪れ、続いてはバーバー・モータースポーツ・パークで行なわれるインディカーのオープン・テストに参加。さらにインディアナポリスのロードコースとオーバルコースでもテストが行なわれる。「フェニックスのレースはとても楽しみです」と琢磨。テストでは最上位につけたのだから、琢磨がそう語るのも無理はない。「ショートオーバルではいつも素晴らしいレースを戦ってきましたが、これまでフェニックスにはいい思い出がありませんでした。しかし、今年のシーズン前テストは違いました! 難しい戦いになるのは間違いありませんが、レースに挑む準備は整っています!」

written by Marcus Simmons

 

佐藤琢磨 「NO ATTACK NO CHANCE」ムービー

 

未来を担う子どもたちに伝えてきたのは

アタックする勇気の大切さ。

「NO ATTACK NO CHANCE」

その先にはきっと笑顔があるから。

 

 
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