マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第5戦

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納得のいかないトップスピード

第5戦 インディアナポリス

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 伝説的なインディアナポリス・モーター・スピードウェイで繰り広げられる"マンス・オブ・メイ"は今年もインディ・グランプリで幕を開けたが、No.14 AJフォイト・レーシング・ダラーラ・ホンダを駆る佐藤琢磨は20番グリッドからスタートして、18位でフィニッシュするという不本意な結果に終わった。「最近行われたレースのなかでは、もっとも多くの苦痛が伴う1戦でした」と琢磨。「とにかく難しい戦いで、十分なグリップも得られなければ満足のいくスピードも得られず、ひどく苦しみました」

 それでも、少なくともリードラップでレースを終えることで、琢磨はコンスタントなスタートを切ったシーズンを継続できたといえる。いっぽうのAJフォイト・レーシングにとっては、十分な競争力が期待できない戦いだったにもかかわらず、少しでも多くのポイントを獲得しようとして懸命に努力する一戦となった。

 この週末は満足のいく部分がいくつかあったものの、木曜日に行われた2回のプラクティスを19番手と21番手で終えるという控えめなスタートを切っていた。「最近、開催されたロードレースではいずれも苦しい思いをしました。いいときと悪いときがあるものの、満足なグリップが得られたことはありません。マシーンをうまくまとめあげることができるのかどうかはまるでわからない状態です。前戦のバーバーでは、最高の結果が得られたとはいえませんが、フリープラクティスではとても速かったほか、レースペースも良好でした」

「昨年のインディでは、ホンダ勢のなかで最速の1台になるなど、いい経験をすることができました。しかし、今回の初日はそれと同様のパフォーマンスを発揮できなかったので、2日目に向けては多くを変更しなければいけませんでした」

 金曜日のフリープラクティスで琢磨は5番手に浮上し、関係者を勇気づけた。「ようやく正しい方向性が見つかったような気がしました。しかし、コースコンディションが大きく変わった影響を、僕たちは誰よりも敏感に受けてしまったようです。僕たちのセッティングは極めてピーキーなうえにスイートスポットが狭く、バランスとグリップ・レベルは大幅に悪化しました」

 琢磨は予選グループで9番手につけたものの、第2セグメントへの進出はならず、20番グリッドからスタートすることになる。「予選は最悪でした。今回は僕とジャック・ホークスワースのほか、アレックス・タグリアーニがチームに加わりました。そこで3台に異なったセッティングを施したところ、大きなダウンフォースをつけたジャックのマシーンがとてもよく走りました。僕たちはプラクティスで十分なメカニカル・グリップがあると判断し、ダウンフォースを削ることにしたのですが、温度が少し上昇しただけでグリップは急激に低下し始めたのです」

 土曜日午前中のウォームアップは急に冷え込み、これがまたマシーンのセットアップに大きな影響を及ぼした。「たったの華氏50度(摂氏10度)しかなく、まるで冬に逆戻りしたような感じでした。タイアのデグラデーションが大きかったのでダウンフォースを増やす必要があった為、僕らはデグラデーションの問題を抱えるだけでなく、ストレート・スピードも伸び悩むことになりました。あれは本当に厳難しい状況で、ウォームアップから決勝に向けては何も改善を施せませんでした」

 決勝が始まると、琢磨は3つ順位を落として21番手となった。そこで早めのピットストップを行ったところ、不運にもピットロード出口のブレンド・ラインを踏んでしまったためにピットでペナルティを科せられ、リードラップから脱落することになる。「最初のスティントには硬めのブラックタイアで臨みました。けれども、そのスピードにはまるで納得できなかったので、早めにピットストップを行ってレッドタイアに履き替えることにします。ピットロード出口での違反は僕のミスによるものですが、温度があまりに低かったためにタイアが全くグリップせず、ターン1に向けて進路をとることができず、ラインに触れてしまいました。同じペナルティを受けたドライバーがほかにも何人かいました。おかげでラップダウンとなったので、僕はフルコーションになるのを期待することにしました」

 実際にフルコーションが出たのはレースが半ばを過ぎたあたりのこと。トップグループはピットオープン後、直ちにピットへ飛び込む必要があったので、先にピットストップを終えていた琢磨はリードラップに返り咲くことに成功。その後、改めて燃料補給を行うと、集団の最後方にあたる20番手でレースに復帰した。「あれはうまくいきました。イチからやり直し!という感じです。リスタートでは大いに楽しみました。いくつか順位を上げ、2台を同時にオーバーテイクしました。けれども、引き続きトップスピードは伸び悩んでいたので、徐々に順位を落としていくことになりました」

 琢磨はジョセフ・ニューガーデン、マット・ブラバム、ウィル・パワー、マックス・チルトンの攻略に成功して一時は16番手に浮上。しかし、最後のピットストップを行うまでにこれら全員に抜き返されることになる。これで19番手に後退した琢磨は、最終ラップにホークスワースをオーバーテイクし、18番手となった。

「グリップを向上させるため、僕たちはタイアの正しい空気圧を探し求めていました。最後の第4スティントになって、ようやく多少満足のいく設定が見つかりました。おかげでレース終盤に向けて順位を上げることができましたが、18位が期待どおりの成績であるはずがありません。目指すようなグリップがどうして得られなかったのか、徹底的に調査する必要があります。とにかく厳しいレースでした」

「今シーズンになって僕たちが手にした勢いを再現できなかったのは本当に残念なことです。いまのところ今年はいい展開ですが、直近の2戦はあまりいい戦いではありませんでした」

 しかし、その苦しさをいつまでも味わっている時間はない。この1日半後にはインディ500のプラクティスが始まり、全長2.5マイルのIMSにフルスロットルのエンジンが奏でるサウンドが響き渡ることだろう。「同じ場所ですが、まったく異なるレースの始まりです。アレックス、ジャック、僕の3人が力をあわせてインディ500に挑むのはこれが昨年に続いて2回目ですが、これがチームの戦い方に継続性を与えていることは間違いなく、できればこれがいいパフォーマンスを引き出す一助となることを願っています。とても楽しみです!」

written by Marcus Simmon

 

マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第4戦

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最後尾からの追い上げ

第4戦 バーバー

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 ベライゾン・インディカー・シリーズのバーバー・モータースポーツ・パーク戦は、佐藤琢磨があとになって振り返りたくなるようなレースではなかったかもしれない。けれども、好調にシーズンをスタートさせた琢磨にとって、スタート直後に順位を落としたレースでその被害を最小限に抑えた意味は小さくない。しかも、今回はシーズン2度目の「コーションのないレース」となり、AJフォイト・レーシングがNo.14 ダラーラ・ホンダのポジションを上げる方法はストラテジー以外にない状況だった。そして13位でフィニッシュした琢磨が得たポイントは、ランキングでトップ10に留まるのに十分なもの。ちなみに、琢磨はいまポイントランキングの9番手につけている。

 金曜日の走行を終えて後片付けしているとき、チームはこの結果よりもはるかにいい成績を期待していたはず。なにしろ、この日のフリープラクティスで琢磨がトップタイムを記録しただけでなく、チームメイトのジャック・ホークスワースも2番手に食い込み、チームは1-2ポジションを占めていたのだ。「とてもいい1日でした」と琢磨。「長い間、行われてきたバーバーでのウィンターテストは、やがて2デイのオープンテストとして定着するようになりました。しかし、今年はこれがフェニックスのテストに置き換えられ、バーバーではプライベートテストを1日行なっただけです。例年、オープンテストは開幕前の3月に開催されていましたが、この時期はまだ寒く、かなり速いラップタイムが記録されることも少なくありません。ただし、4月にレースのためにこのサーキットを訪れると、それよりもずっと温かくなっていることが多い。今年、テストでバーバーを訪れたチームのほとんどは、3月末に開催された開幕戦セントピーターズバーグのあとでアラバマにやってきました。このため、新しいエアロパッケージを試すこともできました。これまでと今回のテストの最大の違いは、気温がずっと高かったためにとても信頼のおけるデータが得られた点にあります。僕たちのテストは大成功に終わったと思います。ラップタイム的にも僕たちはコンペティティブで、いくつものアイテムを試し、どのアイデアが有用で、どれがそうでないかを確認できました」

 このため、シーズン最初のロードコース・レースが開催される風光明媚なアラバマに再び戻ってきたチームはポジティブなムードに包まれ、実際のところ金曜日はすべてが予定どおりに進行した。最初のプラクティスで琢磨は5番手。そしてその後、行われた2度目のセッションではトップに浮上したのである。「僕たちは自信がありましたし、金曜日の僕たちは本当にコンペティティブでした。ラップタイムはいずれも僅差でしたが、ホンダ勢が一団となって速さを発揮しました。それにしても、タイムシートの上位に名を連ねるのは本当に気分がいいものです」

「でも、さらに速いタイムが記録できることもわかっていました。元々コースは僕好みのものでしたが、ようやくこの流れるような素晴らしい高速コーナーの連続を満喫することができました。公式セッション中にAJフォイトが1-2ポジションを占めたのは、おそらくこれが初めてのことだと思います。ところが、土曜日になると状況は一転します。もちろん、それにはちゃんとした理由がありましたが、そのときはとてもショッキングな出来事でした。金曜日はテストのときより気温は高めでしたが、土曜日と日曜日に比べれば涼しい1日でした。土曜日は特に温かく、路面温度も気温も上昇しました。おかげでグリップ・レベルは低下し、コースコンディションは大幅に変わりました。ほんのわずかなことでクルマのバランスが変わってしまうことに、僕らは驚きました。コンディションの変化は誰にとっても同じことですが、僕たちには特に大きな影響があったようです。失ったグリップ・レベルを回復させようとして努力しましたが、すべて失敗に終わりました」

 土曜日のプラクティスは13番手という結果。したがって、トップ12のドライバーが出走できるQ2に進出できる可能性はまだ残されていた。しかし、毎回接戦が繰り返されるインディカー・シリーズの常で、琢磨は100分の数秒差でQ2進出のチャンスを逃し、16番グリッドに沈み込むこととなった。

「まだ完全には理解できていない部分が残るセットアップで、これがコンマ1秒程度の影響を与えたのは間違いないと思います。予選のときは気温が高く、柔らかめのソフトタイアでは1周しかアタックできません。今回はシーズン最初のロードコース・レースで、このパッケージングでタイアがどんな特性を示すのかは、不明な部分が残っている状態でした。あと100分の3秒速ければQ2に進出できたので、とても残念です」

「でも、僕たちには純粋にスピードが欠けていました。たった0.025秒差といえばそれまでですが、インディカー・シリーズはそれくらいの激戦なのです。それにしても16番手になるなんて、思ってもみませんでした」

 日曜日のウォームアップではふたつのセットアップを試したが、どちらも結果は芳しくなかった。そこで、いずれとも異なるセットアップで決勝レースに挑むことになった琢磨は、みずからの幸運を祈りながらグリッドに並んだ。そんな琢磨の目の前で多重クラッシュは起きた......。

「グリーンフラッグが振り下ろされる前にカルロス・ムニョスが加速し始めましたが、思った以上に加速していることに気づいた彼は状況を正そうとしてミハイル・アレシンと接触してしまいます。彼はスピンすると、チームメイトのジャックに激突。僕はギリギリのところで難を逃れましたが、ダメージを受けなかったのは幸運以外の何ものでもありませんでした」

「バーバーのオープニングラップでは、ターン1から3まではサイド・バイ・サイドで通過してヘアピンのターン5に進入しなければいけません。なぜなら、そこから先はオーバーテイクがきわめて困難になるからです。僕はターン2でアウト側に回り込むことを狙ったポジションでターン1をクリアしましたが、どうやらタイアに無理な負担をかけてしまったようです。ターン2の進入でリアグリップが一気に抜けて、思いがけず、あわやという事態に追い込まれました。ニュータイアなのでまずまずのグリップ力を発揮してくれると期待していたのですが、僕は不安定になった挙動を修正しなければいけませんでした。この結果、コーナーのいちばん外側までラインが膨らんでしまいました。必要なときにノーズをイン側に引き戻すことができず、アウト側に進んでしまったのです」

 これで琢磨は19番手となった。「僕の後にいたのは、アクシデントにあったスコット・ディクソンだけで、僕たちはなんとかして前の集団に追いつこうとしました。やがて、ペースが上がらないマックス・チルトンが先導する5台ほどのグループに追いつきました。もちろん、"ディキシー"からは猛アタックを受けましたが、なんとかしてそれはしのぎました」

 琢磨は燃料をセーブしていたが、あとでピットストップの際にジャンプアップを狙うのであれば、隊列を抜け出してクリーンなエアのなかを走る必要があった。琢磨はこれを実行、No.14のマシーンは14周目という早めのタイミングでピットストップを行った。やがてライバルたちがピットストップを実施すると、琢磨は14番手に浮上。続く第2スティントではルカ・フィリッピをパスして13番手となった。「僕はレッド・タイアを履いていて、とにかくアタックし続けました。まるで予選アタックのようなラップタイムが必要だったのです。このスティントが終わるとき、僕とディクソンは同じタイミングでピットストップしましたが、これは燃料をセーブするという意味で僕たちが正しい判断を下したことを示していました。なにしろ、彼は"燃費走行の王様"として知られているんですから!」

 続いて琢磨は硬めのブラック・タイアを装着。ピットストップが一巡した段階で12番手になる計算だったが、このときディクソンはレッド・タイアを履いていた。「彼が追い抜くのは時間の問題で、その2周後に僕をオーバーテイクしていきました。僕は燃費データに気をつけながら、できるだけ速く走ろうとしました。スコットはあっという間に視界から消えていましたが、スティントの後半になると著しいタイアグリップの低下が起きてペースが遅くなり、再び僕の目の前に現れました。最後のピットストップを行う前に、彼に追いつくところまで迫ったのです」

「ここで僕たちはひとつの決断を迫られました。予選で使ったレッド・タイアを履くか、新品のブラック・タイアを履くかを選択しなければいけなかったのです。他のドライバーの様子を見ている限り、レッド・タイアを履くとスティント中に急激なペース変動が起きそうだったので、僕たちはブラックを選ぶことにしました」

 残り25周となったところでピットを飛び出した琢磨は、レッド・タイアを履くマルコ・アンドレッティを追撃することになる。「スティント後半になれば彼のペースも落ち込んでくると期待していました。けれども、この頃には日が傾きはじめて気温が下がっていたため、マルコはタイア・デグラデーションに悩まされずに済みました。しかも、レース中はイエローが提示されなかったのです。苦しい状況でしたが、隊列の最後尾から13番手まで挽回したのだから、決して悪い展開ではありません」

 バーバーが終われば"マンス・オブ・メイ"はもう目前。そして1ヵ月近くに及ぶ戦いは、伝説的なロードコースで開催されるグランプリ・オブ・インディアナポリスで幕を開ける。しかし、琢磨はその前に"フィルム・スター"に転じるのだ! 「まずロサンジェルスに飛んで、そこでインディ500に挑む僕を追うドキュメンタリーの撮影を行います。撮影部隊は日本からやってきて、続いてホンダ・パフォーマンス・デベロップメント、その翌日にはヒューストンに移動してチームを訪れる予定です」

「たしかに残念な週末でしたが、No.14を走らせる僕たちはいい仕事をしたと思います。今回もたくさんのことを学んだので、この経験がインディGPコースの戦いで生かされることを期待しています」

written by Marcus Simmon

 

マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第3戦

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これ以上は望めない5位入賞!

第3戦 ロングビーチ

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 2016ベライゾン・インディカー・シリーズの第3戦ロングビーチで佐藤琢磨が5位入賞を果たしたことは、AJフォイト・レーシングにとって素晴らしいリザルトだった。この成績は、No.14ダラーラ・ホンダが決勝中に発揮した奇跡的ともいえるパフォーマンスを正しく反映したものだが、このレースでは一度もイエローが提示されなかったうえに、琢磨は3位と4位に入ったペンスキーのふたり----エリオ・カストロネヴェスとファン-パブロ・モントーヤ----の直後でフィニッシュしたのである。さらにいえば、琢磨はホンダ・ドライバーのなかで最上位、それも2番手をかなり引き離す活躍を示したのだ。

「ものすごく嬉しいし、チーム全員が素晴らしい仕事をしてくれました」と琢磨。「もちろん、5位が本当に期待していた成績かといえば、そんなことはありません。けれども、プラクティスの結果やライバルたちの状況を考えれば、これは喜ぶべき成績だと思います。今回は1度もコーションにならず、リタイアもありませんでしたが、それでも僕たちはコース上で順位を上げることができました。そしてTK(トニー・カナーン)やファン-パブロとバトルして、ペンスキーやガナッシのドライバーに割って入るポジションでフィニッシュしたのですから、チームのスタッフにとっては最高の成績だったと思います」

 琢磨が指摘したとおり、カリフォルニアの市街地コースでチームが示したパフォーマンスは期待とは異なるものだった。「最初のプラクティスをトップ5で終えたのはよかったのですが、この結果をそのまま鵜呑みすることはできません」 なぜなら、インディカー・シリーズでは2016年からタイアの使い方に関する新しいレギュレーションが導入されたからで、最初のプラクティスでは各チームがそれぞれの考え方に従ってタイアを使用しているため、この結果から本当の実力を推しはかるのは容易ではないからだ。「路面がまだグリーンであればマシーンのパフォーマンスは高いようでした。さらに赤旗も出たため、予定していた2/3ほどしか走行できませんでした」

 ところが2回目のプラクティスでは11番手に後退したため、エンジニアのラウル・プラドスとみっちりと打ち合わせを行い、事態の打開に努めることになった。「ラウルはたくさんのことを解析していて、それを僕と一緒に議論しました。夕食を摂るのも忘れるくらい一生懸命、仕事をしました! その結果、新しい考え方のセットアップで予選を戦うことにしました。それはちょっとギャンブルでもあったのですが、僕たちはマシーンの回頭性を向上させると同時にリアのスタビリティも改善しなければいけなかったのです」

 ドライブトレインにトラブルが発生したため、土曜日午前中のプラクティスを16番手で終えた琢磨は、予選でジャンプアップを達成。Q1を突破して12台が駒を進めるQ2に出走し、8番手のタイムを残したのである。なるほど、ファイアストン・ファスト6シュートアウトには参加できなかったかもしれないが、琢磨はホンダ勢のなかでは2番手で、しかも7番グリッドを手に入れたジェイムズ・ヒンチクリフの直後につけたのである。「Q1では、アグレシッブなセッティングを施し過ぎてしまったようで、柔らかめの新品タイアを装着していたにもかかわらず、オーバーステアが過大でした。このため安定性をもう少し高める必要がありました。この方向性は正しく、Q2ではタイムを短縮できました。ただし、Q2が行われている最中に計測器の問題が発生したため、少しトリッキーな状況となります。タイムに関する情報は誰にもわからず、コクピットのディスプレイにも何も表示されませんでした」

「通常は、ラップタイムがどれくらい速くなったか、もしくは遅くなったかが常時コクピット内に表示されるので、もっとプッシュできるのか、それともアタックを中断してタイアをセーブすべきなのかが判断できます。でも、今回はただひたすらアタックするしかなく、結果的に8番手となりました。プラクティスのことを考えれば、素晴らしい挽回だといえます」

 続いてフォイト・チームはアグレッシブな予選セットアップではなく、決勝に向けたセットアップを検討することになったものの、ウォームアップではセッション中の大半で琢磨はトップのタイムを記録し、その仕上がりに大いに満足することになった。そして彼らは決勝のときを迎える。「なんでも起きると考えられました」と琢磨。「また、ストラテジー・ミーティングを行った結果、イエローが出ない限り、2ストップで走りきるのは容易ではないことがわかりました。それでも、僕たちはできるだけ燃料をセーブして、なんとか2ストップで走りきるつもりでいました」

 琢磨はスタートでヒンチクリフに襲いかかり、オープニングラップの激しいポジション争いが行われたコーナーではジョセフ・ニューガーデンの攻撃をかわすことになった。「ヒンチとはサイド・バイ・サイドになりましたが、前が詰まっていたのでスロットルを緩めなければならず、もう少しでニューガーデンに抜かれそうになりました。ただし、2ラップ目以降は、少なくともタイアが新しい間はオーバーテイクができない状態でした。そこで誰もが燃料をセーブする走りに切り替えました。だからといってクルージングをしているわけではありません。まず、通常のブレーキングポイントの50〜100m手前でスロットルオフにします。このため、ブレーキングポイントに到達したときにはいつもよりだいぶスピードが落ちているので、ここでブレーキングのタイミングを本当にギリギリまで遅らせることになります。そして予選アタックのときとほとんど変わらないスピードでコーナーに進入し、なるべく勢いを削がない走りをしながら、使う燃料も減らさないといけないのです」

「この週末、僕たちのマシーンはハンドリングもタイア・デグラデーションも良好な状態でしたが、効率よく燃料をセーブしながらラップタイムも稼ぐには、常に誰かのスリップストリームに入っている必要があります。スリップストリームから外れかかっていると感じたら、少し燃料を余計に使ってでも前のドライバーに追いつかなければいけません」

 ここで9番手のライアン・ハンター-レイが遅れ始めたため、琢磨は後方からの追撃を心配する必要がなくなった。そして最初のピットストップではヒンチクリフを攻略して7番手に浮上。2回目のピットストップが近づいてくるまでに、琢磨はトップと5秒差ほどまで接近し、ウィル・パワーを仕留めて6番手となる。最後は残り20周以上を給油なしで走行することになったが、このとき、琢磨はトップのサイモン・パジェノーとわずか4.7秒差となっていた。

「チームはストラテジーに関して本当に素晴らしい判断を下していました。最初のピットストップを行ったときは、まだ1周分か2周分ほどの燃料を残していましたが、隊列のなかで走っている為ペースアップはできません。そして、他のドライバーと同じタイミングでピットストップを行えば、オーバーテイクするチャンスは限りなくゼロに近づいたことでしょう。そこで僕たちは少し早めにピットインすることを決め、前方がクリーンな状態で思いっきりプッシュしました。ウィルを仕留めることができたのはこのためです。もっとも、このおかげで最後のスティントは燃料が1周分足りないことになったので、さらに燃料をセーブしなければいけませんでしたが、何よりも大切なのはコース上のポジションなのです」

 残り13周で琢磨はカナーンのオーバーテイクに成功、続いてモントーヤの直後に迫った。残り4周、琢磨は4番手を賭けた勝負に挑んだが、この戦いはモントーヤがしのぎきって決着がついた。「僕は後にぴったりとついてチャンスをうかがっていました。TKはヘアピンのターン11出口でマシーンをスライドさせたので、僕はすぐにプッシュ・トゥ・パスを起動しました。あれは素晴らしい気分でした」

 「僕はまだたくさんプッシュ・トゥ・パスを残していましたが、なにしろ2周目から80周目までずっと燃料をセーブしなければいけなかったので、プッシュ・トゥ・パスを使いすぎれば燃料消費で困ったことになるのは目に見えていました。つまり、得るものもあれば失うものもあったわけです。使うのであれば、大きなチャンスが手に入る正しいタイミングにしなければいけません。たとえば、前のドライバーが小さなミスを犯した、というような状況です。一度、僕はとても惜しいところまでいきました。ファン-パブロがターン11の出口で小さな失敗をしたのでプッシュ・トゥ・パスを使いましたが、彼も使って対抗してきたのです。それにしても、ペンスキーのストレートの速さはなんでしょう! 彼らはギリギリまでダウンフォースを削り、リアウィングにつけていたガーニーも本当に小さいものだったようです」

 最終ラップの最終コーナーでもう1度チャンスがあったものの、琢磨はモントーヤのわずか0.0756秒差でチャッカードフラッグをかい潜った。「僕はまだプッシュ・トゥ・パスが残っていましたが、恐らくファン-パブロは残していなかったと思います。僕は横並びになっていました。フィニッシュまであと数メートルあればあったら、僕は彼を抜かしていたでしょう。彼との差はたったの30cmだったのですから。あれは、まるでオーバルレースのフィニッシュみたいで本当に楽しかったです。そして僕はチームのことを心から誇りに思います。彼らが素晴らしいマシーンを用意してくれたのです」

 とはいえ、ロングビーチでゆっくりと寛いでいるわけにはいかない。月曜日にはカリフォルニアでホンダのアクティビティが行われ、その後はインディアナポリスに1日だけ戻り、直後には週末の金曜日に始まるレースに備えてアラバマのバーバー・モータースポーツパークを目指さなければならない。「チームにとっては長旅になります」 そう語る琢磨は現在、ポイントランキングで6番手につけており、ホンダ勢のトップに立っている。「月曜日にホンダ・パフォーマンス・デベロップメントの方々と会えるのが本当に楽しみです。いい成績を残して、皆さんにはほんの少しだけ恩返しができたんじゃないかと思っています。その後はアラバマに向かいますが、バーバーでのレースは本当に楽しみです。シーズン最初のロードコース・イベントですが、ロングビーチのときと同じようにコンペティティブなはずなので、力強く戦えることを強く期待しています」

written by Marcus Simmon

 

マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第2戦

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あっという間のできごと

第2戦 フェニックス

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どんなドライバーにとってもレースの目標が15位ということはありえないだろうが、有名なフェニックスの1マイル・オーバルで久しぶりに開催されたベライゾン・インディカー・シリーズの1戦に挑んだ佐藤琢磨にとっては、決して悪い結果とはいえなかった。

No.14 AJフォイト・レーシング・ダラーラ・ホンダに乗る琢磨は、金曜日のプラクティス開始早々に激しいアクシデントに見舞われた。それでも、チームの素晴らしい働きぶり、そしてドクターから受けたアドバイスにも助けられ、琢磨は1ラップ・ダウンながら15位フィニッシュに漕ぎ着けた。この週末、決勝レースまでに走行できた時間は実質的に10分にも満たなかったが、それにもかかわらず価値あるポイントを獲得することができたのだ。

「まだ少し頭が痛みますし、なんとなくだるい感じがします」 レースの翌日、琢磨はそう語った。「でも、レース前には医師の判断を仰ぎながら鎮痛剤を服用しました。アクシデントの衝撃は、なんと78G! 僕にとっての最高記録ではありませんが、それに近い数字です。まるで2010年インディ500のプラクティスで起きたクラッシュを思い起こさせるようなインパクトでした」

ホンダ陣営は、週末を通じて納得のいく結果を残せなかった。とりわけプラクティスと予選では、ひとりを除く全シボレー系ドライバーの後塵を拝することになった。「まるで悪夢のようでした。1ヵ月ほど前にはここでオープンテストを行いました。テストは2日間で、昼間のセッションと夜のセッションがありました。僕らはどちらのセッションも順調に走行を終え、結果にも満足していました。その後、すべての走行データを見直して、予選シミュレーション用のセットアップから少し変更したものを今回持ち込みました」

「これまで僕たちは、まずプラクティスでの走行を行い、セッションの終わりにニュータイアを装着して予選アタックのシミュレーションを行ってきました。しかし今回は異なるアプローチを試みたのです。セントピーターズが終わって僕たちはランキングのトップ10に入っているため、いままで追加で使用することができた1セットのタイアがルールに従って使えないことになりました。週末を通して使用できるセット数が限られている為、ニュータイアでのパフォーマンスを最大限に生かそうと、予選シミュレーションを前倒しにしたのです。そこでややペンスキーを真似たプログラムを採り入れましたが、少し自信過剰だったのかもしれません。規模の大きなチームはセッション開始早々に予選シミュレーションを行うことが多々あります。巨大なリソースを駆使して、情報はできるだけたくさん用意し、すべてを把握して何が起きるかをはっきりと見極められる状態にある必要があります。。いまにしてみれば、あのときの僕たちはまだ不十分な状態でした」

「僕たちはいくつか新しいモノを持ち込んでいました。時間が許せば、それらをひとつずつテストしてどのような効果があるかを確認したうえで、予選用トリムに変更すべきでした。けれども、僕たちは一度に多くのことを行いすぎたのです。ダウンフォースのレベルも十分だったとはいえないし、さらに悪いことには、実際の空力重心は計算結果よりもずっと前方にありました。しかも、このコースは本当にリスキーです。なにしろ、予選用トリムでは5G近い横Gが発生するのですから!」

琢磨のマシーンは瞬間的にコントロールを失い、リアエンドからウォールに激突。しかも、その後、ジェイムズ・ヒンチクリフとカルロス・ムニョスの身にも全く同じアクシデントが降りかかったのである。「オーバルレースでは細かいことの積み重ねが本当に重要になります。スピードを殺さないためにはスリップアングルを限りなくゼロに近づけることが必要で、予選中のハンドリングはほとんどニュートラルになり、ステアリングはほぼ中立の状態になります。これはつまり、リアエンドがいつグリップを失ってもおかしくないことを意味しています。しかもフェニックスのターン1はコーナーの曲率がとても小さく、しかもバンク角は大きいものの非常にトリッキーで、コーナーに入ってからもどんどん変化していきます。あのときは3ラップ目で、まだ全開にしていなかったのに、あっという間にリアが滑り始めてスピンしました。僕にはなす術もありませんでした」

この後、AJフォイト・レーシングのメカニックたちは懸命にマシーンの修復に取り組んだが、琢磨は予選と最後のプラクティスに出走することができなくなった。そこでインディカーのオフィシャルは、決勝前に琢磨だけの特別走行枠を認めた。「通常であればシステム・チェックのための走行しか認められません。アウト/インラップ、それだけです。でも、オフィシャルは5分間の走行を認めてくれました。これには本当に感謝したいと思います」

「もしも自分のミスでアクシデントに遇って、そしてその原因を理解できているなら、コックピットに戻ってから直ちに全開で走行できるでしょう。でも、このようなアクシデントに遇うと、自信をすっかり失ってしまいます。こんな経験は過去5〜6年はなかったと思います。このためマシーンのフィーリングを正確に把握するのは難しい状況となりました。まして、このコースでは20秒ごとにターン2にやってくるのですから大変です。最初のラップでは、僕はスロットルを完全にオフにしました。それから、50%、60%、65%と徐々に踏んでいき、最終的に100%までいったところでチームに呼び戻されました。この走行は、決勝レース前には欠かせないものだったと思います」

ナイトレースに備えてセットアップを変更しなければいけなかったので、チームはジャック・ホークスワースのセットアップの考え方を採り入れることにした。「最後のプラクティスのとき、僕はスポッターエリアに足を運びましたが、とても強い印象を受けました。フェニックスは本当に速いコースです。素晴らしいコースだし、ファンは熱狂的だし、インディカー・シリーズは本当にここに戻ってきてよかったと思います」

「ただし、現状のダウンフォース・コンフィギュレーションでは、走行ラインが非常に限られてしまうので、オーバーテイクはとても難しくなります。だからテキサスやフォンタナとは大きく異なるし、ミルウォーキーだってこんなではないと思います。ターン1とターン2はバンク角が大きくて、ターン3とターン4はフラットなので、まるで小さなポコノのようです。僕たちは状況を鑑みて少しダウンフォースをつけることにしました。こんなふうには表現したくありませんが、ややコンサバティブな手法だったと思います。また、クラッシュの影響でエンジンを交換しましたが、おかげでエンジンはまだ十分に馴染んでいない状態でした。これらの影響でマシーンは走行抵抗が大きく、このためたくさんの燃料を使う状況となりました」

レース前半、琢磨は集団を追いかける形で走行していたが、ドラッグが大きすぎて燃費が悪かったために早めにピットストップを行わなければならなくなった。この結果、琢磨が2回目のピットストップを行った直後にムニョスがクラッシュに遭うという、不運な展開を呼び込むこととなる。

「僕は集団に追いついていたし、ペースも悪くありませんでした。最初のピットストップはイエロー中だったので問題ありませんでした。ところが2回目はグリーン中で、しかも3ラップか4ラップしたところでコーションとなりました。それまでにリーダーはピットインしなかったので、僕は2ラップ・ダウンになってしまったのです」

「ウェイブアラウンドになる可能性もありましたが、このときは集団の後方にいたので、そうはなりませんでした。このため、レースを通じてずっと後方を走行する形になり、17番手前後で周回を重ね、最終的に15位でフィニッシュしました」

「もうちょっといい結果が残せたかもしれませんし、もっと悪くなる恐れもありました。ただし、メカニックたちの奮闘によりマシーンは修復され、僕はレースに出走できました。僕たちは決して速くありませんでしたが、たくさんのことを学びました」

次戦は琢磨がインディカー・シリーズの栄冠を勝ち取ったロングビーチが舞台。しかもロングビーチがあるカリフォルニアは、アリゾナからそう遠くない。「けれども、その前に"500"に備えた最初のテストを行なうため、インディアナポリス・モーター・スピードウェイを訪れます。天気はあまりよくないみたいですが、最初のシェイクダウンとテストができることを期待しています。その後のロングビーチ戦は本当に楽しみです。それも、ロングビーチだからということだけが理由ではありません。好パフォーマンスを発揮したセントピーターズバーグで明らかになったとおり、僕たちのロードコース用パッケージはかなりいい仕上がりです。ロングビーチでは力強くレースを戦えることを期待しています」

written by Marcus Simmon

 

マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第1戦

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不幸中の幸い
第1戦 セントピーターズバーグ
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 セントピーターズバーグではいつも好調な佐藤琢磨だが、ベライゾン・インディーカー・シリーズの1戦としてフロリダ州のストリートコースを攻めているとき、運に恵まれないことのほうが多いのもまた事実である。2016年シーズンの開幕戦となった今回、琢磨には運がいい面も悪い面もあったが、オープニングラップで不運に見舞われたあと、素晴らしいパフォーマンスとストラテジーで集団に追いついたNo.14 AJフォイト・レーシング・ダラーラ・ホンダは、6位まで浮上してレースを終えたのである。

「状況を考えれば、この結果には満足しています」と琢磨。「難しいレースでしたが、僕たちは力強いパフォーマンスを示し、メカニックたちは抜群の働きを見せてくれました。とてもいい形でシーズンの幕開けを迎えることができたと思います」

 AJフォイト・レーシングではシーズン前に"人事異動"を行い、昨年までに比べると「はるかに洗練されたエンジニアリングチームができあがった」と琢磨はいう。「基本的には同じメンバーですが、他のチームから一部人員を募った結果、見違えるように強力なチームとなりました。特に、長年アンドレッティ・オートスポーツに在籍していたジョージ・クロッツが正しいポジションに正しいスタッフを配置したおかげで、ラリー・フォイトはチーム全体の運営に集中できる環境が整いました」

「長年、僕を担当してきてくれたレースエンジニアのドン・ハリデイはテクニカルディレクターに昇格し、2013年は僕のパフォーマンスエンジニアで昨年はNo.41のレースエンジニアだったラウル・プラドスが僕のレースエンジニアを務めてくれることになりました。新たに僕のパフォーマンスエンジニアに就任することになったのは、元KVレーシングのマット・カリーですが、彼はとても思慮深く、また知識も経験も豊富です。チームメイトのジャック・ホークスワースが乗るNo.41のエンジニアに起用されたのは元シュミット・ペターソン・モータースポーツのダン・ホッブズで、昨年は僕のパフォーマンスエンジニアを務めてくれたダニエレ・クッチャローニもNo.41の担当となります。というわけで、いろいろなところで人員のシャッフルを行い、より強いチームに生まれ変わりました。とても理に適った異動で、本当に強力なチームになったと思います」

 これで勢いをつけた彼らは、金曜日のフリープラクティスから目覚ましい速さを披露する。最初のセッションではホークスワースが2番手で、琢磨は5番手。そして2番目のセッションでは琢磨が5番手となり、ホークスワースをリードする形となる。「これほどスムーズなシーズンのスタートはこれまでなかったような気がします。セントピーターズバーグでは、いつもいいことが起こります。昨年も、ホンダ勢でファイアストン・ファスト6に残ったのは僕たちだけでした。新しいパッケージでテストしたことはほとんどなかったので、どのくらいのパフォーマンスを示せるかわかりませんでしたが、僕たちには自信がありました。新しいエアロは、昨年仕様に比べるととても性能が安定しています。昨年のエアロは特性がピーキーでセットアップが容易ではありませんでした。しかし、今年のエアロはとても幅広い特性を有しているようです。さらに、今シーズンはエンジンパワーも向上していますが、僕たちが速くなったのと同じようにライバルも速くなっているはずです」

「マシーンは走り始めの状態からいいバランスで、試すべきことがいくつも用意されていました。おかげで、ふたつのセッションともにとても忙しかったのですが、素晴らしいスタートで、今シーズンはふたつのメーカーがいい戦いを演じることになりそうです」

 土曜日のプラクティスでAJフォイトの2台は揃ってトップ10に食い込み─琢磨は9番手─、予選への期待が高まった。しかし、琢磨はQ2進出を果たしただけで、予選は11位に終わる。決勝で琢磨は10番グリッドからスタートしたが、これはウィル・パワーが体調不良で欠場した結果だった。「接戦でした。最初のセグメントではペンスキーの4台が僕と同じグループだったので、Q2に進出できるかどうか、少し心配でした! けれども、60.7秒をマークできたのでよかったと思います」 これで琢磨は4台のペンスキーに続く5番手となり、Q1突破を達成。「でも、Q2ではうまくいきませんでした。グリップが低下してしまったのです。原因はセットアップとタイアの内圧にありましたが、ここからいろいろなことを学べたと思います」

「続いて日曜日のウォームアップに臨みましたが、ここでもたくさんのことを試しました。土曜日から日曜日にかけてエンジニアたちが懸命に働いた結果、いくつかのプランとともに日曜日を迎えることができたのです」 ここで琢磨はグレアム・レイホールを1万分の1秒(!)しのぎ、トップに立つ。「ウォームアップでレッドタイアを使ったのは、おそらくKV時代以来のことだと思います。なにしろ、レッドタイアは本数が制限されているので、通常であればレースにとっておくことになります。ただし、4台チームであれば、そのうちの1台がレッドタイアを履いてスティント中のデグラデーションやハンドリングの変化をチェックすることもあります。このとき僕はフルタンクのレースセットアップでしたが、ブラックタイアでもとてもコンペティティブでした。ブラックタイアで4番手か5番手のタイムをマークしたところで、レッドタイアに履き替えました。同じようにしたドライバーはほかにも何人かいましたが、僕はタイムシートのトップに立ち、とても勇気づけられることになりました。マシーンはとてもドライブしやすく感じられました」

 まだスタートが切られていないというのに、早々とドラマが起きた。ウォームアップ中に琢磨のマシーンから送られるテレメトリーの通信が途切れたため、琢磨は走行中にマシーンをパワーサイクル(再起動)する必要に迫られた。惰性で空走しながら車体の電源を入れ直し、クラッチを繋げてもう1度エンジンを始動しなければいけなくなったのだ。しかも、最初の2回は失敗に終わり、3回目にしてようやく成功。おかげで琢磨は本来のポジションからスタートすることができた。ところが、続いてごく軽い接触があり、琢磨はパンクを喫することになる。「ターン1には慎重に進入しました。けれども、ターン2でマシーンの右側に異状が起きていることに気づき、ターン4ではタイアがパンクしていることが明らかになります。誰かがフロントウィングのエンドプレートで引っかけたのかもしれませんし、路面に落ちていた破片を僕が踏んでしまったのかもしれません」

 このため琢磨はエスケープロードに進入し、ゆっくり走ってピットまで戻ることになったが、コースに復帰したとき、運のいいことに琢磨はまだリードラップに留まっていた。「パンクはとても残念でしたが、メカニックたちは素早く作業を終え、リードラップでレースを再開することができました。これは非常に重要なポイントでした。また、通常であれば、リードラップで戻ってもすぐにトップに追いつかれてしまいますが、このときは先頭グループのペンスキーを逆に引き離していくことができました。僕はコース上でいちばん速かったのです。でも、どんなに速くて、どんなに頑張っても21番手のままだったのは、ちょっと残念でした!」

 レース前半をハードに攻めていった琢磨は、やがて集団に追いついたものの、引き続きリードラップに留まっていた。やがてコーションが提示され、琢磨のポジションは次第に盤石なものになっていく。「ブラックタイアでもレッドタイアでも僕たちは強力だったので、諦めずに戦い続けました。やがて、チャンスがやってきます。コーションが入ったことで僕は集団の直後につき、ポジションアップを狙いました。ピットストップではレッドタイアを装着することにしました。多くのドライバーはレッドタイアを最後のスティントのためにとっておきましたが、同じスペックのタイアでオーバーテイクするのは難しいので、僕たちは直ちにレッドタイアを履いてマキシマムアタックを行うことにしたのです。リスタートで僕は5つか6つほどポジションを上げました。少なくとも自分の目視で4台をオーバーテイクしたのは確認しました。そしてターン4に進入したところ、僕の目の前で3台か4台が横並びになったのです。ここでさらにポジションを上げられると思いましたが、ターンインするとすぐに、カルロス・ムニョスがグレアムと接触しているのが目に入りました。僕はグレアムを避けるとともに、できる限り減速しようとしましたが、そのときにはすでにイン側のタイアが縁石に乗っていたうえ、グレアムはコースのもっとも狭い部分でスライドし始めていたため、不運にもフロントウィングを引っかけてしまうことになりました」 それでも琢磨は、事故をすり抜けることに成功し、8番手まで浮上したが、その後ろでは10台近くが立ち往生した......。

 とはいえ、ダメージを負ったフロントウィングは交換しなければいけない。これは実に残念なことだった。なぜなら、このアクシデントが起きたとき、ミハイル・アレシンは接触を避けるためにコース上で一旦停止を余儀なくされたのだが、それでも彼はライアン・ハンターレイとエリオ・カストロネヴェスに続く5位でフィニッシュしたのである。「あれは本当に悔しかったですね。でも、6位でフィニッシュできたことは嬉しく思っています。なにしろ、本当に強力なパフォーマンスでしたから。チーム全体の力で上位に返り咲くことができました。今日は実際の成績以上に素晴らしいパフォーマンスを発揮できたと確信しています」

 開幕戦を戦い終えたチームと琢磨は、そのままバーバー・モータースポーツ・パークに向かい、火曜日にテストを実施。続いて、インディカー・シリーズの開催は久々となる1マイル・オーバルのフェニックス戦に備えて、チームは忙しく準備を行うことになる。「フェニックスは路面のグリップが恐ろしいくらい高くて、驚くようなコースです。ショートオーバルではロードコース用のエアロパッケージを使うことになっていますが、ウィングの角度はリーグによって規制されます。それでもグリップ・レベルは驚異的に高くて、コーナーではコンスタントに4.7Gを記録するほどです! 信じられないでしょう?! このため、肉体的には本当に厳しいレースになるはずです」

 
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