マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第12戦

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20番グリッドからの復活劇

第12戦 トロント

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 結果的に佐藤琢磨はベライゾン・インディカーシリーズのトロント戦で5位入賞を果たし、去る4月に行われたロングビーチ・グランプリと並ぶ今シーズン・ベストの成績を残した。それは素晴らしい週末の締めくくり方だったが、No.14 AJフォイト・レーシング・ダラーラ・ホンダの悪い流れを変えるのに必要ないささかの幸運にも恵まれたのも事実。「最終的にはいい週末になりましたが、ある時点ではちょっとした心配もしていました」 琢磨もそう語っている。

 今年もトロントで開催された市街地レースにおいて、先ごろ開発されたばかりのセッティングを採り入れた琢磨は走り始めから好調だった。このためには、ピットレーンがアウトサイドに移設され、コース終盤のターン9、10、11がモディファイされた新しいコースレイアウトに適合することも必要だった。

「新しいピットレーンを建設するために、オフィシャルはターン9、10、11にコンクリートウォールを築き、コース幅を半分ほどにしてしまいました。かつてピットレーンとして使われていた部分はレースコースとなっています。おかげでずっとタイトなうえにコース幅が狭く、とてもツイスティーなセクションに生まれ変わりました。以前はターン9が70mph(約112km/h)、ターン10は80mph(約128km/h)、ターン11は100mph(約160km/h)で通過していましたが、コーナリングスピードは大幅に低下しています。さらに、ターン9の中央にはコンクリート・パッチが作られ、とても滑りやすくなりました。右コーナーのターン10には大きなバンプが生まれたうえ、5度から7度ほどのひどい逆バンクとなった影響で、進入ではアンダーステアが出やすくなり、出口付近ではトラクションがかかりづらいコーナーとなりました。ターン11は複合コーナーで、奥に行くにしたがってコーナーはきつく、そして幅は狭くなります。プラクティスでふたりのドライバーがここでアクシデントを起こした際には、ウォールの間でまるでピンポンのようにマシーンは跳ね返されていました。さらにはサポートレースでも事故が起きていたので、ここには何かしらの問題が潜んでいると僕たちは考えるようになりました」

 しかし、琢磨は高い戦闘力を発揮、最初のフリープラクティスで4番手となる。続く2回目のセッションでは14番手になったものの、まったく心配はしていなかった。「セッション開始直後はトップ3に入っていて、マシーンも好調。4番手という結果にも勇気づけられました。2回目のセッションでもセッティングを煮詰めていきましたが、途中で赤旗が提示されます。当初はセッションの最後にニュータイアを装着する予定でしたが、複数の赤旗の影響でテストメニューの一部を割愛し、比較テストを行うために使い古した1セットのタイアを履き続けました。僕たちにスピードがあることは、このときすでにわかっていました」

 ところが、土曜日のプラクティスを迎えると状況は悪化し始めてしまう。琢磨は当初トップ5に食い込んでいたが、「やがてマシーンのバランスに問題が生じ始め、十分なグリップが得られなくなりました。ラップタイムは一向に速くならず、タイアのドロップオフが限界ではないかと僕たちは疑いました。そこでニュータイアを装着してベースラインを取り直そうとしましたが、驚いたことに古いタイアと大して変わらないタイムしかマークできません。何が原因か、まるでわかりませんでした。しかも、このコースの路面は場所によって様々なため、攻めすぎるとタイムが伸び悩み、それ以上、速く走れなくなってしまうのです」

「僕たちは手持ちのリソースを使い果たしてしまったので、予選にはおそらくこれがいいだろうと思われるセッティングで臨みました。けれども、これでもうまくいきません。アンダーステアがひどいうえに、スナップ・オーバーも頻繁に顔を出します。まったく出口が見えない状態で、あれほど好調だったデイ1の次にこんな日がやってきたことが信じられないほどでした」

 予選を20位で終えた琢磨のマシーンには、なんらかの作業を行う必要があった。チームはフロントウィングがストールして十分なダウンフォースを発生していない可能性を見いだす。つまり、メカニカルなセッティングとエアロのセッティングがマッチしていなかったのだ。さらに、ダンパーのひとつにもトラブルがあったことが判明。そして直観に頼ることなく、最初のセッティングに戻すことを決断する。通常、アンダーステアを解消するには、フロントのスプリングを軟らかくしてバランスをリア寄りにするものだが、今回実施されたのは、フロントを固めてより大きなエネルギーを生み出すというもの。バンプが多いトロントでは、このセットアップが効果的なのだ。「アンダーステアの度合いは変わりませんが、フロントがしっかりと支持されるようになった結果、よりブレーキングを攻め込むことができ、安定するようになりました。おかげで僕たちは速くなりました。これはマシーンのパフォーマンスとサーキット環境のコンビネーションによるものであり、フロントのライドハイトをどうコントロールするかに関わることです」 最後のプラクティスで琢磨はトップとわずか0.145秒差で6番手となる。状況は好転し始めたのだ。

 レースが始まると、序盤にしていくつかのイエローが提示されたため、琢磨は16番手に浮上。さらにグリーン中にアレクサンダー・ロッシをオーバーテイクして15番手へと駒を進める。「この種のコースでは、長いサバイバルレースになることが往々にしてあります。85ラップのレース中、フルコーションは平均して20ラップにもなるのです! だから、もしもポジションを上げるチャンスがあれば素晴らしいことですが、かりにそうでなかったとしても心配する必要はありません」

 プライマリーのブラックタイアでスタートした琢磨は、続くふたつのスティントを柔らかめのレッドタイアで走行する予定だったが、通常とは異なる試みによって状況をさらに改善することを目指し、早めにピットストップする戦略が検討された。そしてピットストップの際にレッドタイアを装着したところ、ラップタイムが向上する。これが45ラップ目にイエローが提示される前のことだった。「ここが分岐点となりました。レースの残りは40ラップ、ただし1度に給油できる燃料の量は最大でも30ラップ分しかありません。したがって40ラップの連続走行は現実的ではありませんが、途中でイエローが提示されれば可能になるかもしれません。それは試してみる価値のあるギャンブルでした」

「レッドタイアは20周目を過ぎるとデグラデーションが起きるので、ラリー・フォイトが無線で『残り40ラップだ』と伝えてきたときには、冗談だろうと思いました! それでも、まずはやってみることにしましたが、そのためにはブラックタイアが必要で、イエロー中も燃料をセーブすることにしました。僕がノーマルのマッピングを使ったのはリスタートのターン3までで、その後はミクスチャーを薄くし、徹底的に燃料をセーブしながら走りました」

「使える燃料は驚くほどわずかでしたが、それを守らなければならず、いっぽうでチームは順位を落とすなと指示してきました。もう、まるで信じられないような状況です。けれども、これも素晴らしいチャレンジですし、こういうことが僕は嫌いではありません」

 次にイエローが提示されるまの間には、結果的にこのレースで3位に入るジェイムズ・ヒンチクリフとバトルを演じる一幕もあった。前方を走るマシーンがピットインを行うと、琢磨は自分が4番手まで浮上していることに気づく。「僕の前にいたのはトニー・カナーン、ウィル・パワー、ヒンチクリフの3名だけだったので、ヘルメットのなかで笑顔がこぼれました。ただし、燃料は相変わらず不足していました」

 続くリスタートではエリオ・カストロネヴェスから猛チャージを受ける。「とても厳しい戦いでしたが、10ラップ以上は彼を抑え続けました。パドックでもっともリスペクトされているエリオとのバトルは本当に楽しいもので、コース上のバトルで彼との間に問題が起きたことはこれまで一度もありません。そして3度目のアタックで、エリオは僕を追い抜いていきました」

 レース終盤にはカナーンがスプラッシュ&ゴーを実施、ミカエル・アレシンの猛攻を受ける琢磨の直前でコースに復帰した。「彼はとてもアグレッシブで、何度もサイド・バイ・サイドになりました。一度、ターン3で完全に追い抜かれたこともありましたが、僕はインサイドにいたので、"スーパーレイト・ブレーキング"で順位を守り抜きました。何度か軽い接触もしましたが、心配すべきダメージはひとつもありませんでした」

 待望のイエローが提示されたのはレースが最終盤に入ってからのこと。そして、信じられないような低燃費で走り続けた琢磨は、ファイナルラップに入ったところでカナーンへのアタックを開始する。「残り1周で、まだプッシュ・トゥ・パスが5回分残っていたので、できる限りこれを使おうと思いました。僕はバツグンのリスタートを切り、ターン1に進入するときはカナーンのまさに直後につけていました。ターン2からの脱出も完璧に決まったところでプッシュ・トゥ・パスのボタンを押しましたが、僕は最悪のタイミングでオーバーブーストの問題を抱えることになります。これまでの84周、なにひとつ問題はなかったのに、ここで起きたのです。ある状況下で、エンジン回転を低く抑えたままスロットルペダルを踏み続けると、この種のトラブルが発生するのです。オーバーブーストはエンジンのパワーを制限します。僕の視界からはTKが徐々に遠ざかっていきましたが、幸いにも後から追ってくるドライバーはいませんでした」

「それでも、20番グリッドから5位でフィニッシュするなんて誰にも想像できなかったはずです。ピットストップを含め、チームの働き振りは本当に素晴らしいものでした! ラリーと僕のエンジニアは素晴らしい判断を下すとともに、苦戦した予選の後で素晴らしいマシーンを作り上げてくれました。イエローが出たことはラッキーでしたが、これまで何度も不運を経験してきたので、今回くらいはいいでしょう」

 次戦は2週間後に開催されるミドオハイオ戦で、今週の後半にはこのコースでテストを行なう予定になっている。ロードアメリカで強い手応えを掴んだ琢磨は、このレースを楽しみにしているようだ。「このコースでも僕たちのセッティングは最高のパフォーマンスを発揮してくれるはずなので、僕たちの奮闘を見届けて欲しいと思います。テストでどんな成果が得られるのか、いまから楽しみで仕方ありません」

written by Marcus Simmons

 

マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第11戦

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自己ベストを更新せよ!

第11戦 アイオワ

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 アイオワ・スピードウェイは佐藤琢磨の好きなコースのひとつだが、この7/8マイル・オーバル(全長約1.4304km)で琢磨が好成績を残したことはほとんどない。2013年に琢磨がAJフォイト・レーシングに加入して以来、ベライゾン・インディカー・シリーズのなかでもっともラップタイムが短いアイオワでは、いつも満足のいくパフォーマンスが発揮できずに苦しんできた。今回もそうした状況に大きな違いはなかったが、少なくともNo.14ダラーラ・ホンダは、琢磨にとってこのコースでのベストリザルトにあたる11位完走を果たしたのである。

 レースの1週間前、AJフォイト・レーシングはNo.14とチームメイトであるジャック・ホークスワースのNo.41をアイオワに持ち込んで事前のテストを実施し、セットアップの面で大きな進化を遂げた。「とても大きな成果が得られました」と琢磨。「テスト用アイテムを試すうえでいい機会となりました。2010年に初めてアイオワ・スピードウェイでレースして以来、僕はこのコースがずっと好きでしたが、いい結果が得られたことはありませんでした。また、いい状態のマシーンを手に入れられたこともなかったので、たくさんのアイテムを試すのはとても大切なことでした。最近変更になったエアロパッケージについては、特にその傾向が強かったといえます」

「僕たちはいくつかの大きく異なるセットアップも用意し、どの方向に進むかを決めることにしました。この結果、昨年までとは大幅に異なるセッティングを採用することになります。もう少し細部を煮詰める必要がありましたが、それでもとてもコンペティティブに思えました。もちろん、時間はいつでも十分ではありませんし、テストで使用できるタイアのセット数には制限があります。だから、すべてを試すことはできず、時間切れで変更できなかったものもありました」

 もっとも、そうした成果をフリープラクティスの結果に結びつけることはできず、琢磨は19番手に終わる。「僕たちは前回のテストで見つかったマシーンの進化版を持ち込みましたが、ここでセットアップに関連する問題が見つかります。これは残念でした。このセットアップで大きく前進できるはずでしたが、問題があったためにあまり多くのことを学べませんでした。この影響で、はっきりと状況がわからないまま予選に臨むことになりました」

 アイオワのコースでは路面のあちこちに残る補修痕が問題を引き起こす。トンネルがあるターン2部分にできたバンプは再舗装が実施されたほか、ターン3とターン4のバンプについても補修作業が行われた。「ところが、状況はさらに悪くなっていました! おかげで、とんでもなくバンピーで、ひどくトリッキーでした。いちばん下のレーンはもっともグリップが良好で、走行距離も短くなりますが、最近実施されたダウンフォース削減の影響により、予選では特にこの問題がクローズアップされるようになりました。本当はいちばん下のレーンを走ったほうがいいのですが、そうするとあまりにもバンピーな路面によりグリップレベルが低下してしまうのです。プラクティスではホンダ勢の何名かがローダウンフォースを試したところ、スピンアウトを喫しました。つまり、ダウンフォースは少し多めにしたほうがよかったのです。しかも、気温が高ければ、その傾向はなおさら強くなります」

「ダウンフォースを大幅に削れば空気抵抗を抑えることもできますが、するとバンプを避ける為に2番目のレーンを走らなければいけません。ここでは高いスピードを維持できますが、走行距離は長くなります。したがって、これはストラテジーとドライバーの好みによって決めるしかありません。ただし、僕たちは安全策を採りました。なぜなら、プラクティス中にしっかりした予選シミュレーションできなかったからです。また、フェニックスでの苦い経験があったので、マシーンを失うわけにはいきませんでした」

 それでも琢磨はプラクティスから大幅な進歩を遂げ、予選で13番グリッドを獲得した。「フリープラクティスで発生した問題を解消していたので、マシーンのメカニカルな部分は良好な挙動を示しました。ただし、ダウンフォースは大きすぎるうえ、空力バランスも最適とは言いがたい状態でした。ハンドリングはアンダーステアが強かったものの、スタビリティは良好で、いちばん下のレーンに留まるのに必要となるアグレッシブなドライビングができました。僕たちの出走順は5番手で、その段階では2番目に速かったから、とても順調のように思えました。ところが、予選前にストックカーのプラクティスが行われたうえ、ストックカー用タイアのゴムと僕たちが使うコンパウンドの相性は決してよくないようです。この影響で、予選で最初の8台が走行した以降は路面の状態が急速に改善されました。僕たちが走ったときはとても滑りやすかったですが、その後は大きく回復していったのです」

 この次の走行セッションは、レースを想定して実施される金曜日最後の走行となった。1週間前に行われたテストでは、琢磨の周回のほとんどは単独走行だった。なぜなら、「まず必要となるのは的外れでないクルマを用意することで、あわせてコンディションが安定していることも比較テストをするうえでは重要」となるからだ。したがって、このウォームアップは琢磨がトラフィックのなかを走る最初のチャンスとなった。「ただし、クルマの状態が完全に満足できるものではなかったので、少し心配でした。ひとりで走っているときはコンペティティブなのですが、トラフィックのなかではバランスがとてもトリッキーに感じられたのです。このときはマシーンをまだ完全に仕上げることはできませんでしたが、どのようになるかについて、目標を定めることはできました」

 この状況は決勝レースでも大きく変わらなかった。1周目に琢磨はひとつポジションを落とすが、すぐにセバスチャン・ブールデをパスしてもとの順位に戻る。さらにこのスティントの後半ではチャーリー・キンボールを仕留めて12番手に浮上。ところが、その直後には3つポジションを落としたうえ、トップを独走するジョセフ・ニューガーデンにラップダウンされて周回遅れとなってしまう。そして誰もがグリーン中にピットストップを行うなか、琢磨は15番手を堅持したものの、ほどなく2周遅れとなったうえにキンボールの攻略を許すこととなる。

 このレース最初のイエローが提示されたのは、この後のこと。ここで琢磨は1周遅れまで挽回したものの、ピットストップでは18番手に後退する。「スタビリティはあまりよくなく、最初の何スティントかはオーバーステア傾向がとても強い状態でした。そこで調整を行いましたが、レースが残り1/3になるまで、トラフィックでの挙動には満足ができませんでした。とても長いレースで、自分のポジションを守ることで精一杯でした。2メーカーの間にはパフォーマンスにはっきりとした差があり、ライバルと同じダウンフォースとグリップを得ようとするとドラッグが大きくなってしまい、トップスピードは伸び悩みました」

「ラップダウンとなっているときにイエローが提示された場合、ピットレーンがオープンになってリーダーがピットストップを行うと、その後方を走るドライバーはウェイブアラウンドといって、セーフティーカーを追い越すことで1ラップを取り戻すことができます。けれども、アイオワは1周に18秒しかかからない短いコースのため、ウェイブアラウンドを受けた直後に自分がピットストップを行うとペースカーにラップされる前に作業を終えられないことがあります。そこでもう1周多く、つまりウェイブアラウンドで2周を回ったうえでピットストップを行い隊列に戻ることで確実にラップバックができます。ところが、何人かのドライバーはウェイブアラウンド1周目にピットストップを行い、ペースカーにラップされるまえに作業を終えました。僕たちはこれができなかったので、先にピット作業を行った彼らの後ろに隊列する為、いくつか順位を落とすことになります。しかも、それが2度もあったのでとても苦しみました。それでも1ラップを失うことはありませんでした」

 この後、琢磨はチャンスを掴む。レース中に3度提示された最後のイエローが提示される直前、数人のドライバーが最後のピットストップを行った。しかし、琢磨はイエローになってからピットストップを実施したおかげで11番手に浮上。そして最終的に2周遅れにはなったものの、最後の40周はこのポジションを守ったままフィニッシュを迎えたのである。

「11位は悪くないと思います。難しいレースでしたが、まずまずの成績を収めることができました。僕たちはたくさんのことを学びました。最後のスティントでは、同じラップを走る何人かのドライバーと一緒に走行する機会がありましたが、彼らに追い付いていけるほど僕は速くありませんでした。とはいえ、全般的にいえば昨年から大きな進歩を遂げることができ、これまでよりもコンペティティブな戦いができるようになったので、今後もさらに努力を続けるつもりです」

 今週末、琢磨たちは国境を越えてトロントを訪れ、今シーズン最後の市街地レースに挑むことになる。「とても忙しいスケジュールになるでしょう」と琢磨。「僕はトロントが大好きですが、トロントは僕のことを嫌っているとずっと思っていました! 最近の数年を除けば、いい成績を残すことができなかったからです。トロントはとてもトリッキーなサーキットで、非常にバンピーで、路面にはいくつもの補修痕があり、様々な舗装が混在していますが、素晴らしいコースです。トロントの街も魅力的で、おしいレストランもありますし、カナダのファンはとても熱狂的です。僕たちのパッケージは強力だと思うので、シーズン最後の市街地レースでいい成績を残すことを期待しています」

written by Marcus Simmons

 

マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第10戦

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偉大なサーキットでの目を見張る走り

第10戦 ロードアメリカ

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 ロードアメリカで開催されたインディカー・シリーズの一戦で、佐藤琢磨ほど何度も失望を味わったドライバーはほかにいないだろう。今回はこれまでの悪い流れを断ち切る絶好のチャンスになることが期待されたが、ウィスコンシン州に建つ雄大な全長4マイル(約6.4km)のロードコースで久々に開催されたトップクラスのオープンホイルレースで、琢磨は実に奇妙な週末を過ごすことになったのだ。

 No.14 AJフォイト・レーシング・ダラーラ・ホンダに乗る琢磨はロードアメリカ戦を17位で終えた。しかし、彼のマシーンは決勝中に素晴らしいスピードを発揮、トップ5フィニッシュを果たすかに思えたが、ピットレーンスピードリミッターに起きた不可思議なトラブルのため、2度もペナルティを科せられることになった。ロードコースといえば、ヨーロッパで多くの経験を積んできた琢磨が得意とするタイプのサーキットだが、琢磨とフォイト・チームはここ何年も苦戦を強いられてきただけに、今回の展開はとりわけフラストレーションの募るものだった。

 ロードアメリカで事前にテストを実施するというチームの計画は、テキサス・モーター・スピードウェイで開催された前戦が雨でスケジュールが遅れたのちに最終的に延期となった影響でキャンセルされた。そのことを思えば、琢磨のパフォーマンスは実に印象的なものだったといえる。プラクティス初日に彼らが示した進歩は、あらかじめテストを実施できたチームに追い付くためにはどうしても必要なことだったのだ。

「ロードアメリカはアメリカの有名なサーキットです」と琢磨。「アメリカでは最高のコースで、世界的に見てもおそらくベストのひとつです。とてもクラシックで、ものすごく速く、驚くほど狭いコースは、木々に囲まれて美しい景観を生み出しています。僕がインディカー・シリーズを戦い始めた2010年には、ロードアメリカでの一戦をカレンダーに復活させたいとの願いを多くの人が僕に語ってくれました。サイド・バイ・サイドとオーバーテイクが多く見られることが、人々の心を掴んで離さなかったのです」

「昨年、テストでここを訪れたときにはイギリスのクラシックサーキットが思い起こされましたが、なかでもサンマリノGPの舞台だったイタリアのイモラにはそっくりでした。だからこそ、事前のテストを実施できなかったのは残念でした。いっぽうで多くのチームはテストを行っていたので、僕たちにとっては難しい状況となります。2016年のエアロパッケージでこのコースを走るのは金曜日が最初の機会となり、僕たちは多くのことを学ばなければいけませんでした。75分間のセッション2本では決して十分とはいえません。なにしろ、僕たちはタイアを3セットしか使えなかったのですから。しっかりしたテストを行うにはたくさんのタイアが必要となります。先週、グレアム・レイホールは500マイル(約800km)のテストを行ったそうです!」

「けれども、自分が手にしていないものについて嘆いても仕方ありません。そこで初日にはたくさんのことを試しました。土曜日の午前中に行われたプラクティスまでに、僕たちはかなりの進歩を遂げ、マシーンの挙動は僕の好みに近づいてきたので、僕は走行を楽しめるようになります。僕たちは8番手のタイムをマークしました。トップ3との差はコンマ2〜3秒ほどで、最終的にはグリップ・レベルにも満足できました。正直いって、ここ何年かはロードコースでのセットアップがあまりよくなかったので、この結果にはとても勇気づけられました」

 そのことを思えば、予選では後退を強いられたといっても過言ではない。琢磨は予選グループの8番手に留まり、15番グリッドからレースに臨むことになったのだ。「僕たちはやる気満々でしたが、セットアップに少し問題を抱えていました。コミュニケーションがうまくいかなかったため、僕が期待するようなマシーンに仕上がっていなかったのです。このシリーズはいつも接戦なので、3本のメインストレートでスピードが伸びなかったことは大きな痛手となりました。ただダウンフォースが大きいだけでなく、予想よりもドラッグが大きかったのです。順調だったプラクティスの後だったのでとても落胆しましたが、決勝については楽観的に捉えていました」

 もうひとつ、予想外のことが起きた。激しい雨のために朝のウォーミングアップがキャンセルとなり、琢磨は一度もフルタンクで走ったことがないままレースに挑まなければいけなくなったのだ。しかもスタートが近づくにつれて路面は乾いていったので、どんな展開になるのか、誰にも予想がつかなかったのである。

 最初のピットストップが始まる頃、琢磨は9番手まで挽回しており、ライアン・ハンター-レイが早めのピットストップを行うと8番手に浮上した。「ターン5に向かう狭いストレートでは、前方に3ワイドや4ワイドになって戦うライバルたちの姿が見えました。しかもスピードは180mph(約288km/h)に達しているんです」 レース序盤について、琢磨はそう振り返る。「ひどいホコリとマシーンの破片がいくつか舞い上がるのも見えました。スタート直後から素晴らしいレースが繰り広げられていたのです。ロードコースで本気で戦えるマシーンを手にしたのは、本当に久しぶりのことでした。僕は思いっきりハードにチャージしていき、たくさんオーバーテイクしました。最高に楽しかったです」

「最初はタイアの空気圧を理想どおりに設定するのが困難なため、スタートスティントはどのレースでも苦しいものです。けれども、僕の目には誰もが同じ条件で戦っているように見えました。スティントの終盤にはタイア・デグラデーションに見舞われましたが、僕の症状は比較的軽いようでした」

 フォイト・チームのメカニックたちが奮闘した結果、琢磨は8番手となって第2スティントの走行を開始。そして3回目のピットストップが始まる頃にはハンター-レイを追撃していた。「全体のスティントを通じて、僕は最も速いドライバーのひとりで、トップに迫りつつありました。後方にはまったく目を向けず、前だけ見て走ればいいので最高の気分が味わえました。メカニックたちの働きぶりも素晴らしいもので、ピットストップで止まるたびにポジションを上げることができました」

 そして悲劇は起きた。結果的に4位でフィニッシュするハンター-レイを仕留めた直後、琢磨にドライブスルー・ペナルティが科せられたのだ。「トップ3が大きく先行していることはわかっていましたが、トップ5フィニッシュは可能に思えました。だから、ピットレーンでの速度違反のためドライブスルー・ペナルティを消化しなければならないとラリーに告げられたときは、本当にショックでした。後になって、原因はテクニカル・トラブルにあることが判明します。ホンダ陣営のなかに、スピードリミッターの誤作動を起こしたマシーンが他にもあったのです。ライアンの直後でピットに進入したとき、彼に急接近したので、十分に減速できたかギリギリに感じましたが、僕には問題がないと確信していました。だから、ペナルティーはまったく信じられませんでした」

 それでも琢磨のペースはずば抜けて速かったうえ、フルコーションが出ていなかったので早めにピットストップを行ったドライバーのなかにはフィニッシュまでにスプラッシュ&ゴーをしなければならない者いたので、トップ10フィニッシュは十分に期待できる展開だった。そして琢磨がピットストップを行ったところ、驚いたことに再びスピード違反を犯したとされたのである。しかも直後にコナー・デイリーがターン1でクラッシュしたため、このレースで唯一のコーションとなる。おかげで琢磨はグリーンフラッグが振られるまでピットに入ることができなくなり、残り6周となったところでペナルティを消化。集団に大きく遅れてチェッカードフラッグを受けることとなった。フィニッシュの3周前にはこのレースで4番目に速いラップタイムを記録したものの、こうして何の収穫も得られないレースとなったのである。

「リザルトだけを見れば、とても残念な結果に終わりました。けれども、これまでロードコースでのパフォーマンスを向上させるために様々な努力を続けてきた結果、素晴らしいレースとなりました。ファンの皆さんも最高でした。とても熱狂的な雰囲気で、インディカー・シリーズとしても大成功を収めたと思います。僕自身は、今後のレースに大きな期待を抱いています。なぜなら、ミドオハイオ、ワトキンスグレン、そしてソノマといったロードコースでのレースが控えているうえ、ミドオハイオとワトキンスグレンではテストも行う予定です」

 さらにロードアメリカ直後の木曜日にはアイオワ・スピードウェイのショートオーバルでテストを実施し、翌週のレースに備える予定になっている。「このテストでマシーンの理解がより深まることを願っています。そして、間もなくいい結果が得られることも期待しています」

written by Marcus Simmons

 

マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第9戦

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史上最長のインディカーレース?

第9戦 テキサス

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 テキサス・モーター・スピードウェイで開催されたベライゾン・インディカー・シリーズの一戦は、まるでひと夏かけて行う庭掃除のような様相を呈している。本来、このレースは6月11日にスタートが切られるはずだったが、1日延期となったばかりか、そのフィニッシュは天候の影響で8月下旬に持ち越しとされた。そしてスタートが切られてからチェッカードフラッグが振り下ろされるまでの2ヵ月半の間に、各チームはいくつものイベントに取り組むことになるのだ。

 この週末、雨の話題で持ちきりとなったテキサスで、佐藤琢磨とNo.14 AJフォイト・レーシング・ダラーラ・ホンダは力強い走りを披露した。なるほど、248周のレースの71周目までを終えた段階では、琢磨にとってベストの展開とは言いがたかったものの、予選4位という結果は、琢磨がテキサスで記録した成績としては過去最高のもので、チームを大いに勇気づけることとなった。また、中断となっている決勝レースでも、これまでのところ上位フィニッシュが期待されるほどの好走を示している。

 2011年に5位でフィニッシュしたことを除けば、琢磨が過去数年間にテキサスで幸運に恵まれたことはなかったが、それでもこの超高速オーバルを琢磨は愛して止まないようだ。「テキサスで走るのをいつも楽しみにしています。なにしろ24度のハイバンクなので、スピードを満喫できるうえ、2ワイドや3ワイドがよく見られることでも有名です」と琢磨。「けれども、ここ数年は密集した戦いを防ぐため、ダウンフォースに制限がかけられていました。でも、個人的にこれはあまり好きではありません。この影響でグリップ・レベルが減少し、サイド・バイ・サイドはあまり見られなくなりました。そしてレースは一列縦隊の戦いとなり、誰がタイアをいちばん長持ちできるかの競争となりました。もっとも、それも決して悪くはないチャレンジですが......」

 ほかの多くのインディカー・チームと異なり、AJフォイト・レーシングはテキサスで2016年仕様のエアロパッケージをテストしたことがなく、このため現実的に考えれば好成績が期待できる状態ではなかった。ところが、たった75分間のフリープラクティスを1度行った後に迎えた公式予選で、琢磨は4位に食い込んで見せたのだ。

「これがいいレースになるという情報を事前に手に入れていたわけではありません。もちろん、ここはAJとチームのホームコースですから、いい結果を残したいとは願っていました。けれども、ここでテストをしていなかったことが僕たちには気がかりでした。ただし、ドーム・スキッドとスーパースピードウェイ用のエアロ・パッケージを装着して走行したインディ500での経験から、僕たちはいいアイデアを思いついていました。もっとも、インディ500のときと何もかも同じというわけではなく、テキサスではダラーラが作ったオリジナルのリアウィングを装着。迎角はマイナス6度までに制限されていますが、これはダウンフォースを規制するためのもので、まるで調整できないというわけではなく、ガーニーフラップなどを取り付けることもできました」


「僕は自分たちが考えるベストのパッケージで臨んだものの、満足のいく結果は得られませんでした。大きなバンク角は垂直荷重が大きいことを意味しており、計算によって求めたダウンフォースはシミュレーションを通じて得られた予測に過ぎません。そしてタイア・グリップの影響により、想定していたよりも高い速度域に到達していました。これによってクルマは上から押しつぶされたような格好となっており、車高を大幅に見直さなければなりませんでした」

「ほかのチームは1日分のテストを行なっていたので、75分間の走行は僕たちにとって決して十分とはいえませんでした。このためプラクティスはとても忙しく、またタフなものとなります。結果的に僕たちは予選シミュレーションさえできなかったばかりか、バランスとグリップに関しても決して満足できませんでした」

「このような状況だったので、予選結果は嬉しい驚きとなりました。データを見直した結果、プラクティス中に十分なダウンフォースを得られなかった理由が判明しました。僕たちには、この問題を補正できる自信がありましたが、その結果、得られるパフォーマンスに関しては推測の域を出ません。しかし、マシーンはアウトラップからいい感触を示していました。ダウンフォースはずっと大きいのに、ドラッグも低減されている......。とても効率的なセッティングで、スウィートスポットに収まっている手応えがありました。エンジニアたちが素晴らしい働きをしてくれたおかげでNo.14のマシーンは非常に速く、2ラップの平均で216mph(約346km/h)を上回る記録を叩き出して僕たちを驚かせたのです」 ところが、琢磨はわずか1万分の1秒差でエリオ・カストロネヴェスに3番グリッドを譲ることとなった! 「僕のパフォーマンス・エンジニアによると、この差は0.38インチ、もしくは9mmに相当するそうです。それも2ラップを走り終えたあとで!」

 この後、チームは夜のプラクティスに臨んだが、これは土曜日に行われるナイトレースの実質的なウォームアップ走行となった。ところが、琢磨はレースセットアップでグリップ不足に見舞われるとともに、トラフィック内ではバランスにも満足がいかなかった。「僕とチームメイトのジャック・ホークスワースは5番手と6番手でしたが、これはニュータイアを装着してトーを活用したからに過ぎません。実際には、トラフィック内のハンドリングにはまったく満足できませんでした。このためレースに向けては、データを見直して大幅にセッティングを変更する必要がありました」

 土曜日の午後にスピードウェイを襲った豪雨のため、予定されていた土曜日のナイトレースは実施が困難な状況となった。「雨は止んで青空も見えていましたが、レースのために路面を乾かすには時間が足りないように思われました。荷台にジェット・エンジンを積んだピックアップ─こんなのが見られるのはアメリカだけです!─で路面を乾かそうとしていたので、まるで空港にいるような気分を味わいました。とにかく、ジェット・エンジンの音が凄まじいのです。ところが、午後10時になっても路面から水がしみ出す問題が収まらず、レースは日曜日に延期されることになりました。それでもたくさんのファンがスピードウェイを訪れ、夜遅くまで待っていてくれたことに僕は心から感謝しています」

 スタートは日曜日の午後1時に切られる予定とされた。ところが、ターン2とターン3から漏れ出している水を一気に排出させるため、オフィシャルは路面にドリルで穴を開ける作業を実施。このため予定の1時間遅れとなったものの、ようやくスタートが切られた。ところが、それから3周の間に琢磨は4番手から16番手まで後退してしまう。「残念ながら、僕たちのセッティングはあまり効率的ではなかったようです。おまけにアンダーステアもひどい状態でした。僕たちはリアタイアを、それも右リアタイアを特に温存しなければいけない状況にあり、このためスティントの序盤はアンダーステアとする必要がありました。けれども、僕たちはいささか心配しすぎたようです。僕たちのペースは上がらず、バランスが悪くてグリップが不足しているために2番目のレーンさえ走行できませんでした。一部のドライバーはとてもアグレッシブに攻めていましたが、やがて彼らは後退していきました」

 ハンドリングの症状が落ち着くと、琢磨はぐんとペースを上げ、苦戦を強いられていたマルコ・アンドレッティをパスして15番手に浮上。しかし、やがて他のドライバーに攻略されるようになったため、38周目にピットに飛び込んだ。その数周後、コナー・デイリーとジョセフ・ニューガーデンが大クラッシュを演じ、長時間にわたってフルコーションとなる。しかも、この間に激しい雨が降り出したため、レースは8月まで延期とされたのである。

「本当に恐ろしいアクシデントでしたが、インディカーの安全性が高いために、ふたりとも深刻なケガを負わずに済みました。最初のピットストップまで、僕たちのペースは目を覆いたくなるようなものでしたが、その後はスピードが向上することを期待していました」

 クラッシュが起きたときに先頭につけていた7台はフロントランナーではなく、いずれもステイアウト組。残るドライバーは全員ラップダウンである。ここで問題が持ち上がった。アクシデントによる破片がコース上に散乱していたため、オフィシャルは各マシーンをピットレーンに移動させる。この結果、まだピットストップを実施していなかったマシーンもピット作業が行えることとなった。これには、ラップダウンとなった琢磨を含む多くのドライバーが憤慨。とりわけ、本来であればリードラップに返り咲くはずだった琢磨は、ステイアウトしてトップに立ったジェイムズ・ヒンチクリフの直後につけていたので、その怒りは一入だった。

「ヒンチクリフは集団の先頭に立っていたのでいちばん最初にピットインしましたが、本来であれば、隊列はセーフティーカーの先導でコースを走っているため、ピットに入ったクルマが作業を終えると、隊列の最後尾に並ぶことになります。ところが、今回は全員がピットロードにいた為に、彼は隊列のなかほど、僕の目の前に入ることを許されたのです! なぜ、自分がラップダウンにならなければいけないのかが理解できませんし、とても悲しい出来事でした。オフィシャルはどうしてこうした事態になったかを見直す必要があると思います。彼らはコースがクリアになるまでピットクローズ、つまり作業できない状態を維持させるべきでした。なぜなら、たとえフルコーションでピットがクローズとなっていても少量の燃料を継ぎ足すことは可能で、ピットロードがオープンになったところで本格的なサービスを実施すれば何も問題は起きなかったのです」

「おかげで、僕は8月27日、1ラップダウンの17番手として72ラップ目からのレースに臨むことになります。こんな変な話は聞いたことがありません。ただし、幸いにも僕たちのマシーンはいい状態に仕上がっています。いいアイデアもありますし、力強く戦っていけるでしょう。8月27日には何度かイエローが提示されることを期待しています。そうすれば周回遅れから脱することができるでしょうし、上位を狙えると思います」

 次戦は、インディカー・シリーズに復活したロードアメリカでの開催となる。不運にも、テキサスのレースが順延となった影響で、AJフォイト・レーシングを含むいくつかのチームは美しいウィスコンシンのロードコースで事前にテストするチャンスを逃すことになった。それでも琢磨は、昨年8月に2015年仕様のエアロパッケージでこのコースを走った経験がある。「本当に素晴らしいサーキットで、すべてのファンやドライバーはとても楽しみにしています。コースは高速で、狭く、クラシック・タイプといえます。チームのトレーラーが日曜日の深夜までテキサス・モーター・スピードウェイを出発できなかったためにエンジンとシャシーをロードコース用に変更できず、この影響でテストがキャンセルとなったのは残念です。僕自身も、嵐の影響でまだテキサスを出発できない状態です! けれども、来週には多くの情報を収集し、いいパッケージに仕上げられることを期待しています」

written by Marcus Simmons

 

マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第7、8戦

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裏切られた期待

第7、8戦デトロイト

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 ベライゾン・インディカー・シリーズで唯一のダブルヘッダー戦となるデトロイトGPは、これまで佐藤琢磨にとって宝の山も同然のレースだった。ところが今年は土曜日が11位で日曜日が10位に終わり、まずまずのポイントを稼ぎ出したものの、#14 AJフォイト・レーシング・ダラーラ・ホンダを駆る琢磨にはやや不満な結果に終わった。

「トップ10フィニッシュだからよかったじゃないかと思われるかも知れません」と琢磨。「でも、僕はもっと上位を狙っていたので、正直、いささか残念です。なにしろ、デトロイトは僕が得意とするコースで、昨年は表彰台を獲得したほか、2014年もポールを勝ち取ったり何度もレースをリードしていたんですから......」

 2016年も雨は降ったが、琢磨にとって都合のいいタイミングではなかった! しかも、インディカー・シリーズのなかでもっとも路面がバンピーなことで知られるベル・アイル・サーキットは、いつもにもましてチャレンジングだった。「僕たちは昨年のセットアップをベースとしたマシーンを持ち込みましたが、もちろんエアロパッケージは新しくなっています。また、タイアのスペックは変わっていないと思われるものの、今シーズンは素材の一部が変更になったため、硬めのブラック・タイアは従来よりもさらに長持ちするようになりました。これがレース戦略にどの程度影響を与えるか、興味深いところでした。おまけに路面は昨年よりもさらにバンピーになっていました。カナダ国境と接しているデトロイトは冬が厳しいので、これが影響しているのでしょう。昨年はコンクリートパッチで路面が補修されましたが、それでも今年はさらにシビアな状態になったと思います。グリップは上がったものの、路面は信じられないほどバンピーだったのです」

 ダブルヘッダーのため、デトロイトGPのプラクティスは通常のシリーズ戦よりも走行時間が短くなり、土曜日の決勝レースに向けて金曜日に行われる予選の前には1回しか走行のチャンスがない。ここで琢磨はマシーンのバランスとスピードに納得がいかなかったため、予選に間に合うよう、大急ぎでセッティングを変更することになった。

 そういった状況を考えれば、予選グループで4番手になって第2セグメントへの進出を果たしたことは満足できる結果だったといえる。「嬉しい驚きでした。全ドライバーがブラック・タイアでアタックを終えたとき、僕はトップに立っていました。マシーンはギリギリの状態でしたが、期待が持てる展開でした。ところがレッド・タイアでは思ったようにいかず、タイムを詰めることができません。グリップ・レベルは上がっているのですが、舗装の状態、コンディション、セットアップなどの影響により、タイアが1周ももたなかったのです。レッド・タイアを履いた最初のラップは遅いマシーンに引っかかり、2ラップ目はもうグリップが低下していて、オーバーステアがひどい状態でした。ところが、ブラック・タイアで記録したタイムで、僕は第2セグメントに進出することができたのです」

「ほかのドライバーもよく似た症状に苦しんだようです。レッド・タイアの摩耗があまりに早いため、本来の性能を引き出すには路面にしっかりとラバーが乗っている必要があったのです」

 ここで琢磨らは「第2セグメントにはどちらのタイアで挑むべきか?」の選択を迫られることになる。しかし、新品のブラック・タイアは第3セグメントに進出した場合と決勝のためにキープしておかなければいけないので、琢磨は中古のブラック・タイアで走行してから新品のレッド・タイアに履き替えることを決める。しかし、またもやレッド・タイアでタイムを更新することができず、ファイアストン・ファスト6進出には到底届かない11番手でセッションを終えることになる。「本当に残念な結果でした。もしも新品のブラック・タイアを投入していれば第3セグメントに駒を進めることができたでしょうが、それでは決勝レースで苦戦するのは目に見えていました」

 土曜日の朝に行われるプラクティスではふたつの作業をこなさなければいけない。ひとつは、日曜日に行われるレース2のスターティンググリッドを決める土曜日の予選に備え、レッド・タイアに適した空気圧を探ること。もうひとつは決勝用のセットアップを煮詰めることだ。ここでレッド・タイアによる走行は問題なく終わったものの、「決勝用セットでブラック・タイアを装着するとスピードが伸び悩みました。そこでレース1に向けてさらにセッティングを変更することにしました」

 おまけに雨が降る恐れがあった。「もう、雨乞いをしたい気分でした!」 琢磨がウェットレースを得意としていることは、いまさらいうまでもないだろう。「けれども、期待どおりにはいきませんでした」 実際には、本降りの雨にはならず、軽い小雨が降った程度。ウェット・タイアが必要にならなかったばかりか、ペースが大きく落ち込むようなコンディションにもならなかったのだ。

「180mph(約288km/h)から50〜60mph(約80〜96km/h)まで急減速するオープニングラップのターン3は、いつもひどい混雑になります。僕は3ワイドになってここに進入、ウィル・パワーと軽く接触しました。ここでポジションをいくつか上げることに成功したものの、セットアップ変更はあまり功を奏さなかったようで、スタート時に装着していたレッド・タイアでのペースはとりわけ遅かったほか、次第に順位を落とすようになりました。そこで早めのピットストップを行うことにします。自分たちのレース戦略を考慮しながら、ピットウィンドウが開くとすぐにピットレーンに飛び込みました。けれども、たくさんのドライバーが僕たちと同じことを考えていたのです!」

 ジェイムズ・ヒンチクリフのアクシデントでイエローが提示されると、チームは2度目のピットストップを実施。グリーンのまま24周を走りきれる燃料を補給し、タイアを交換すると#14のマシーンをコースに送り出した。「けれども、それには燃料をかなりセーブしなければいけませんでした。また、このときピットストップをしなかったドライバーはリスタートが切られると全速力で周回し、タイア交換をしても僕たちの前に復帰できる十分なマージンを築いたのです。いっぽうの僕は、燃費走行をするマシーンの隊列に行く手を阻まれていました。おかげで、なにかとアップ・ダウンの激しいレースだったにもかかわらず、終わってみればスターティンググリッドと同じ11番手でチェッカード・フラッグを受けることになったのです」

 最後のスティントでいくつかポジションを落とした琢磨は、最後の4ラップでいくぶんなりとも挽回することに成功する。「僕が速い区間でオーバーテイクされることはありませんでした。けれども、ターン2ではひどいアンダーステアに苦しんでいたので、ターン3で攻略されることもありました」

 レース1で得られたデータをもとに、日曜日のレース2までにセットアップをさらに煮詰めることが期待された。そしてこの期待は、予選セッション中に確信へと変わる。レース2の予選では、全ドライバーをふたつのグループに分割したうえで、各グループが12分間ずつのセッションを行ってスターティンググリッドを決定する。もちろん、ここでも「レッド・タイアを履くか、ブラック・タイアを履くか?」という選択を迫られた。「Q1では、レッド・タイアのほうが速かったドライバーは少数派でした。また、土曜日の晩には激しい雨が降ったため、路面はグリーンな状態で、タイムを記録するまでには数ラップを要することが予想されました。僕たちは新品のブラック・タイアを履いて計測ラップを3周走行した後、新品のレッド・タイアに履き替えるつもりでした。けれども、第2グループに振り分けられた僕たちは、最初のグループがすでに走行を終えていたため、まずは新品のレッド・タイアでアタックし、その後で新品のブラック・タイアを装着したほうが好ましいと考えられました。なぜなら、第1グループのポールシッターは、ブラック・タイアでベストタイムをマークしていたからです。僕はまず、レッド・タイアでまずまずのタイムを記録。続いてブラック・タイアに履き替えましたが、ここで雨が降り始めてしまいます。同じ雨量で降り続く雨だったら大歓迎ですが、僕の予選を台無しにするような雨だけは勘弁して欲しいものです!」

「僕が3ラップ目を走っていたとき、この通り雨は止みました。そのまま4ラップ目を走れるくらいの燃料が、僕のマシーンには積まれていました。僕はタイムを更新したいと思っていましたが、ドライになっているのはレーシングラインだけだったので、これは非常にリスキーな賭けでした。けれども、思いのほかよくグリップしたので、僕は全力でプッシュしました。いくつかコーナーを抜けたところで、それまでよりも0.25秒ほど速いことが明らかになりました。ところがターン3で誰かがスピンしたためにイエローが提示されてしまいます。ものすごく残念でした」

 このため琢磨は、危険地帯のまっただなかというべき16番グリッドからスタートすることになる。「スタートで接触したドライバーがいて、ヒンチクリフはウォールにヒットしました。僕はそれを避けようとしましたが、とても混み合っていたため、後方から追突されたうえにパンクを喫し、ハーフスピンに追い込まれました。おまけにマルコ・アンドレッティが僕のフロントウィングを壊していきました。幸いにも、サスペンションにダメージがなかったうえ、セーフティクルーが素早く作業をしてくれたおかげでラップダウンになることなく、エンジンを再始動させてタイアを交換できました。そして次のラップでノーズを交換し、レースを再開することになったのです」

 琢磨は18番手になったが、レースはまたもや彼らが期待するような展開にはならなかった。ピットストップを終え、レースが残り10周となったとき、10番手まで挽回していた琢磨は、アンドレッティに行く手を阻まれるいっぽう、直後につけたグレアム・レイホールからの攻撃をかわしながらフィニッシュを目指すことになる。

「マシーンはレース1のときよりよくなっていましたが、ライバルたちが軒並み速くなっているのに対し、僕のパフォーマンスは上位を狙うには不十分なものでした。したがって、とりあえずは前のドライバーについていき、レース戦略で順位を上げるしか方法はありませんでした。しかも、マシーンはダメージを負っており、完璧な状態ではありません。したがって、10位は決して悪い結果ではありませんが、僕はもっといい成績を期待していたのです」

「僕はマルコやアレクサンダー・ロッシ、それにロニー・カナーンやカルロス・ムニョスらと好バトルを演じました。一時はチームメイトのジャック・ホークスワースともバトルしました。最終的には、レイホールとロッシを抑え、マルコにチャレンジしながらフィニッシュすることになります。最後の数周は激戦でしたが、結果は10位です。開幕戦でシーズン初の市街地レースとなったセントピーターズでは好調で、市街地レースの2戦目となったロングビーチではとてもコンペティティブで、ここデトロイトでは過去2シーズンともコンペティティブだったから、大きな期待を抱いていたのですが、残念な結果に終わってしまいました。けれども、できればここから何かを学び取って、シーズンの残るレースに生かしたいと思います」

 もっとも、デトロイトで学んだことが次のレースで大きく役立つことはないだろう。なにしろ今週の土曜日に開催される戦いの舞台は、ハイバンクで知られるテキサス・スーパースピードウェイなのだ。「過去数シーズン、テキサスで好調だったことはありませんし、僕たちはシーズン前のテストに参加しなかった2チームのうちのひとつなのです。ただし、チームのホームレースともいえる大事な一戦ですし、インディアナポリスで行われた"マンス・オブ・メイ"では、僕たちのスーパースピードウェイ・パッケージが好調だったこともありましたので、ここからさらにマシーンを進化させ、レースを力強く戦えることを期待しています」

written by Marcus Simmon

 

マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第6戦

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尻上がりに調子を上げていったものの......

第6戦 インディ500

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 ときには、フィニッシュできなかったことが本当に辛いレースがある。とりわけ、それが記念すべき第100回のインディ500で、好結果が期待できそうな状況であればなおさらだろう。しかし、残り36ラップ、あと100マイル(約160km)に満たない距離を走りきればいいだけになったとき、佐藤琢磨の身にまさにそんな不運が降りかかったのである。「僕たちは本当に速く、とてもいい結果が得られそうでした」と琢磨。「言葉では言い表せないほど残念な結末でした」

 インディGPが終わると直ちに、琢磨とAJフォイト・レーシングはNo.14 ダラーラ・ホンダをスーパースピードウェイにあわせてアジャストする作業を開始した。例年どおり、日程的にはとても長いように思えても、それは文字どおり時間との戦いだった。「僕たちのマシーンは、見た目は昨年とあまり変わっていませんが、たくさんの作業をする必要がありました。ホンダはスーパースピードウェイ用に新しいフロントウィング、フロントウィングの翼端板、リアウィングレットなどを持ち込みましたが、最大の変更点は、ドーム型スキッドの使用が全員に義務づけられたことにありました」

 2015年に深刻なアクシデントがいくつか発生したことを受け、インディカー・シリーズは従来のステップ型フロアの使用を取りやめることを決める。より大きなダウンフォースを生み出すステップ型フロアは、サイドウェイを起こしたときにマシーンが空中に舞い上がる原因になると考えられたからである。しかし、チームにとって容易ではなかったのは、チタン製スキッドブロックに加えて車高を9mm高くされた点にあった。「ダウンフォースが大幅に減るのはもちろんですが、それとともに重心が上がってしまうことが問題でした。おかげで非常にドライブしにくいマシーンになり、プラクティスが始まる1ヵ月前には安全を確認するためのエアロテストが実施されることになりました」

 このテストの結果、インディカー・シリーズはディフューザーのサイドウォールに長さ9mmのエクステンションを追加することを認めたのである。「車高が上がったことで、空力的にも機械的にも性能低下を招くことになりました。おかげで、エアロマップを完全に作り直さなければなりませんでした。これは大変な作業です。そこで、一部のチームは風洞実験を行ったようですが、僕たちはできませんでした。しかし、このため僕たちが考える以上に大変な状況となったのです」

 プラクティス1週目の火曜日は雨のためにセッションが中止となり、さらに困難な状況となった。「1週間もプラクティスがあると皆さんは思われるでしょうが、結果的には2日半しか走れませんでした。これでは、とても十分とはいえません! マシーンの傾き具合、車高、スプリングのパッケージ、ジオメトリー、アライメント、ウィングのセッティング......、やらなければいけないことは山のようにあります。3チーム体制で臨んだことは大きな助けになりましたが、それでも時間が足りず、たくさんのテスト・プログラムを見送ったほか、木曜日にはレース用のセットアップ作業に取り組みました。翌日はファスト・フライデイで、予選用の高いブースト圧を使うことになるため、さらに難しい状況となります。ダウンフォースを減らすと、マシーンは少しナーバスな挙動を示すようになりました。メカニカル・グリップを高めたいところでしたが、なかなかうまくいきませんでした」

 予選前に行われた土曜日のウォームアップも満足できる内容ではなかったため、琢磨らはひとつの重大な決断を下すことになる。「セットアップの方針を根本的に変更することにしました。特に僕のマシーンは大胆な見直しを行いましたが、これは大成功でした。気まぐれな風が吹き荒れ、気温は高いというチャレンジングなコンディションでしたが、チームとエンジニアたちは素晴らしい仕事をしてくれました。コンディションの変化に伴い、予選で苦戦する上位陣が少なくなかったので、僕たちはさらに進歩しなければいけないと考えていましたが、ここでいい結果が残せたのは本当によかったと思います。チーム全員で努力した結果、4列目の12番グリッドを獲得。プラクティスでの状況を考えれば、チームは驚くべき仕事をしてくれたといえますし、僕はこの結果に心から喜んでいました」

 そこからチームはさらなるセットアップの煮詰めに取り組んだ。月曜日には大きく前進できたものの、金曜日に行われたカーブデイではマシーンのバランスに問題が見つかり、月曜日に果たした進化の半分ほどを逆戻りしなければならなくなった。

 そして決勝レース、琢磨は好スタートを切ったものの、最初の数周でポジションを7つも落としてしまう。しかも、レース前半の間は同様のことが繰り返し起こり、さらに順位を落とすことになった。「最初の100周は、まるで悪夢のようでした。スタート直後はそれほど悪くありませんでしたが、すぐにひどいアンダーステアに悩まされるようになります。気温は華氏90度(約32℃)近くもありました。その為、僕たちはダウンフォースを増加して挑むことにしましたが、グリッド上に並んだマシーンを見ると、その多くが僕たちよりもダウンフォースを大きめに設定していました。そこで僕たちはプラクティスのときよりダウンフォースを増やすことにしたのです。アンダーステアはひどく、この症状は最初のスティントの間、ほとんど変わりませんでした」

 第2スティントでは、タイヤ空気圧の調整とフロントウィングのダウンフォースを増やすことで症状はいく分改善されたものの、それでもアンダーステアはしつこくつきまとった。第3スティントではさらに調整を行ったものの、その傾向に変化は見られなかっただけでなく、逆にスタビリティを著しく失う結果に発展。そして第4スティントではマシーンがさらに不安定になってしまったのである。「このくらい症状が重いアンダーステアであれば、さぞかしリアのグリップは安定していたと思われるでしょうが、実際にはそんなことはありませんでした。スタビリティを失ったマシーンはとても不安定な動きを見せると同時に、トラフィックのなかではアンダーステアが大幅に増加し、まるでスロットルを踏めませんでした。おまけにストレートではドラッグが大きいことが災いし、たくさんのドライバーが僕を追い抜いていきました」

 この後、琢磨は中団を走るドライバーから優勝争いを演じる有力ドライバーへと変貌を遂げることになる。「大胆な変化が望まれる状況だったので、僕はダウンフォースを減らすようリクエストしました。これが驚くほどうまくいき、ようやく戦いに挑めるようになりました。通常、ダウンフォースが大きければマシーンは安定しますが、うまくバランスを取ることができなかったので、僕たちはウィングを寝かしてドラッグを減らし、ペースを上げることに成功したのです」

 122ラップ目にリスタートが切られると、琢磨は11番手から7番手へとポジションアップ。マルコ・アンドレッティやグレアム・レイホールを追い抜き、スコット・ディクソンとバトルを演じ、競り勝つまでに勢いをつけた。残り50周目、バディ・ラジアーのマシーンからホイールが外れ、再びイエローが提示されたとき、琢磨は5番手につけていた。しかし、問題は、琢磨がまさにピットインしようと思ったそのときに、ピットレーンがクローズになったことにあった。

「あれはとても残念な状況でした。僕がピットストップしたのは、他のドライバーに比べてかなり遅いタイミングでした。僕たちのマシーンは燃費がよく、イエローが出たのはちょうどピットに入ろうと思っていたときでしたが、ここでピットがクローズとなったのです」 ピットロードがオープンになったところで琢磨はピットイン、10番手になってコースに復帰した。ポジションは下がったが、まだ上位フィニッシュのチャンスは十分にあった。

「リスタートはあまり上手くいったとはいえず、勢いを失って少し後退しました。それでも追い上げられると思っていましたが、集団のなかで走るのは難しい状況でした」 そしてアクシデントは起きた。「いつもであれば、フロントのグリップがどの程度あるかわかっていて、グリップを失いそうであればスロットルを戻します。ところが、リスタートのときは誰もがニュータイアを装着していて、みんながほぼ全開でコーナーに進入していきました。しかし、あれほど急激にグリップを失って挙動が変化するとは思いもしませんでした。すぐ前を行くマシーンが出口で減速した為に急接近し、突然マシーンが滑り始め、ウォールと接触してしまったのです」

 上位フィニッシュのチャンスは消え去った。「ピットストップをしたとき、2位でフィニッシュすることになるカルロス・ムニョスの直後につけていました。この後はふたつのスプリント・スティントが展開され、とてもコンペティティブなレースになると予想していました。けれども、残念な結果に終わってしまいました」

 レースは終わっても、今週末にダブルヘッダーが行われるデトロイトに向かうまでには、まだこなさなければいけない仕事が残されていた。「インディ500のイベントは月曜日の夜まで繰り広げられるのです! 最後にインディ500バンケットに参加し、火曜日になってようやくデトロイトに移動できます。しかも、水曜は朝からメディア向けのイベントが行われます。つまり、デトロイトの市街地コースでのバンピーでチャレンジングな戦いがあっという間に始まるのです。しかも、デトロイトが終わるとテキサス・スピードウェイでのオーバルレースに逆戻りします。 忙しい時期です!」

「インディ500の結果は本当に残念ですが、100回目という記念のイベントに参加できたことは本当に嬉しく思っています。そして皆さんのご声援に心から感謝しています。日本からはたくさんファンの方々に来て頂き、多くのスポンサーの皆さんに支援していただきました。日曜日の夜にはディナーを催しましたが、参加者は70名にもなりました! いい結果を残せなかったことは本当に残念ですが、これもレースです。今回、学んだこともあるので、今シーズンの残るレースも全力で戦っていきます!」

written by Marcus Simmon

 

マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第5戦

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納得のいかないトップスピード

第5戦 インディアナポリス

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 伝説的なインディアナポリス・モーター・スピードウェイで繰り広げられる"マンス・オブ・メイ"は今年もインディ・グランプリで幕を開けたが、No.14 AJフォイト・レーシング・ダラーラ・ホンダを駆る佐藤琢磨は20番グリッドからスタートして、18位でフィニッシュするという不本意な結果に終わった。「最近行われたレースのなかでは、もっとも多くの苦痛が伴う1戦でした」と琢磨。「とにかく難しい戦いで、十分なグリップも得られなければ満足のいくスピードも得られず、ひどく苦しみました」

 それでも、少なくともリードラップでレースを終えることで、琢磨はコンスタントなスタートを切ったシーズンを継続できたといえる。いっぽうのAJフォイト・レーシングにとっては、十分な競争力が期待できない戦いだったにもかかわらず、少しでも多くのポイントを獲得しようとして懸命に努力する一戦となった。

 この週末は満足のいく部分がいくつかあったものの、木曜日に行われた2回のプラクティスを19番手と21番手で終えるという控えめなスタートを切っていた。「最近、開催されたロードレースではいずれも苦しい思いをしました。いいときと悪いときがあるものの、満足なグリップが得られたことはありません。マシーンをうまくまとめあげることができるのかどうかはまるでわからない状態です。前戦のバーバーでは、最高の結果が得られたとはいえませんが、フリープラクティスではとても速かったほか、レースペースも良好でした」

「昨年のインディでは、ホンダ勢のなかで最速の1台になるなど、いい経験をすることができました。しかし、今回の初日はそれと同様のパフォーマンスを発揮できなかったので、2日目に向けては多くを変更しなければいけませんでした」

 金曜日のフリープラクティスで琢磨は5番手に浮上し、関係者を勇気づけた。「ようやく正しい方向性が見つかったような気がしました。しかし、コースコンディションが大きく変わった影響を、僕たちは誰よりも敏感に受けてしまったようです。僕たちのセッティングは極めてピーキーなうえにスイートスポットが狭く、バランスとグリップ・レベルは大幅に悪化しました」

 琢磨は予選グループで9番手につけたものの、第2セグメントへの進出はならず、20番グリッドからスタートすることになる。「予選は最悪でした。今回は僕とジャック・ホークスワースのほか、アレックス・タグリアーニがチームに加わりました。そこで3台に異なったセッティングを施したところ、大きなダウンフォースをつけたジャックのマシーンがとてもよく走りました。僕たちはプラクティスで十分なメカニカル・グリップがあると判断し、ダウンフォースを削ることにしたのですが、温度が少し上昇しただけでグリップは急激に低下し始めたのです」

 土曜日午前中のウォームアップは急に冷え込み、これがまたマシーンのセットアップに大きな影響を及ぼした。「たったの華氏50度(摂氏10度)しかなく、まるで冬に逆戻りしたような感じでした。タイアのデグラデーションが大きかったのでダウンフォースを増やす必要があった為、僕らはデグラデーションの問題を抱えるだけでなく、ストレート・スピードも伸び悩むことになりました。あれは本当に厳難しい状況で、ウォームアップから決勝に向けては何も改善を施せませんでした」

 決勝が始まると、琢磨は3つ順位を落として21番手となった。そこで早めのピットストップを行ったところ、不運にもピットロード出口のブレンド・ラインを踏んでしまったためにピットでペナルティを科せられ、リードラップから脱落することになる。「最初のスティントには硬めのブラックタイアで臨みました。けれども、そのスピードにはまるで納得できなかったので、早めにピットストップを行ってレッドタイアに履き替えることにします。ピットロード出口での違反は僕のミスによるものですが、温度があまりに低かったためにタイアが全くグリップせず、ターン1に向けて進路をとることができず、ラインに触れてしまいました。同じペナルティを受けたドライバーがほかにも何人かいました。おかげでラップダウンとなったので、僕はフルコーションになるのを期待することにしました」

 実際にフルコーションが出たのはレースが半ばを過ぎたあたりのこと。トップグループはピットオープン後、直ちにピットへ飛び込む必要があったので、先にピットストップを終えていた琢磨はリードラップに返り咲くことに成功。その後、改めて燃料補給を行うと、集団の最後方にあたる20番手でレースに復帰した。「あれはうまくいきました。イチからやり直し!という感じです。リスタートでは大いに楽しみました。いくつか順位を上げ、2台を同時にオーバーテイクしました。けれども、引き続きトップスピードは伸び悩んでいたので、徐々に順位を落としていくことになりました」

 琢磨はジョセフ・ニューガーデン、マット・ブラバム、ウィル・パワー、マックス・チルトンの攻略に成功して一時は16番手に浮上。しかし、最後のピットストップを行うまでにこれら全員に抜き返されることになる。これで19番手に後退した琢磨は、最終ラップにホークスワースをオーバーテイクし、18番手となった。

「グリップを向上させるため、僕たちはタイアの正しい空気圧を探し求めていました。最後の第4スティントになって、ようやく多少満足のいく設定が見つかりました。おかげでレース終盤に向けて順位を上げることができましたが、18位が期待どおりの成績であるはずがありません。目指すようなグリップがどうして得られなかったのか、徹底的に調査する必要があります。とにかく厳しいレースでした」

「今シーズンになって僕たちが手にした勢いを再現できなかったのは本当に残念なことです。いまのところ今年はいい展開ですが、直近の2戦はあまりいい戦いではありませんでした」

 しかし、その苦しさをいつまでも味わっている時間はない。この1日半後にはインディ500のプラクティスが始まり、全長2.5マイルのIMSにフルスロットルのエンジンが奏でるサウンドが響き渡ることだろう。「同じ場所ですが、まったく異なるレースの始まりです。アレックス、ジャック、僕の3人が力をあわせてインディ500に挑むのはこれが昨年に続いて2回目ですが、これがチームの戦い方に継続性を与えていることは間違いなく、できればこれがいいパフォーマンスを引き出す一助となることを願っています。とても楽しみです!」

written by Marcus Simmon

 

マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第4戦

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最後尾からの追い上げ

第4戦 バーバー

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 ベライゾン・インディカー・シリーズのバーバー・モータースポーツ・パーク戦は、佐藤琢磨があとになって振り返りたくなるようなレースではなかったかもしれない。けれども、好調にシーズンをスタートさせた琢磨にとって、スタート直後に順位を落としたレースでその被害を最小限に抑えた意味は小さくない。しかも、今回はシーズン2度目の「コーションのないレース」となり、AJフォイト・レーシングがNo.14 ダラーラ・ホンダのポジションを上げる方法はストラテジー以外にない状況だった。そして13位でフィニッシュした琢磨が得たポイントは、ランキングでトップ10に留まるのに十分なもの。ちなみに、琢磨はいまポイントランキングの9番手につけている。

 金曜日の走行を終えて後片付けしているとき、チームはこの結果よりもはるかにいい成績を期待していたはず。なにしろ、この日のフリープラクティスで琢磨がトップタイムを記録しただけでなく、チームメイトのジャック・ホークスワースも2番手に食い込み、チームは1-2ポジションを占めていたのだ。「とてもいい1日でした」と琢磨。「長い間、行われてきたバーバーでのウィンターテストは、やがて2デイのオープンテストとして定着するようになりました。しかし、今年はこれがフェニックスのテストに置き換えられ、バーバーではプライベートテストを1日行なっただけです。例年、オープンテストは開幕前の3月に開催されていましたが、この時期はまだ寒く、かなり速いラップタイムが記録されることも少なくありません。ただし、4月にレースのためにこのサーキットを訪れると、それよりもずっと温かくなっていることが多い。今年、テストでバーバーを訪れたチームのほとんどは、3月末に開催された開幕戦セントピーターズバーグのあとでアラバマにやってきました。このため、新しいエアロパッケージを試すこともできました。これまでと今回のテストの最大の違いは、気温がずっと高かったためにとても信頼のおけるデータが得られた点にあります。僕たちのテストは大成功に終わったと思います。ラップタイム的にも僕たちはコンペティティブで、いくつものアイテムを試し、どのアイデアが有用で、どれがそうでないかを確認できました」

 このため、シーズン最初のロードコース・レースが開催される風光明媚なアラバマに再び戻ってきたチームはポジティブなムードに包まれ、実際のところ金曜日はすべてが予定どおりに進行した。最初のプラクティスで琢磨は5番手。そしてその後、行われた2度目のセッションではトップに浮上したのである。「僕たちは自信がありましたし、金曜日の僕たちは本当にコンペティティブでした。ラップタイムはいずれも僅差でしたが、ホンダ勢が一団となって速さを発揮しました。それにしても、タイムシートの上位に名を連ねるのは本当に気分がいいものです」

「でも、さらに速いタイムが記録できることもわかっていました。元々コースは僕好みのものでしたが、ようやくこの流れるような素晴らしい高速コーナーの連続を満喫することができました。公式セッション中にAJフォイトが1-2ポジションを占めたのは、おそらくこれが初めてのことだと思います。ところが、土曜日になると状況は一転します。もちろん、それにはちゃんとした理由がありましたが、そのときはとてもショッキングな出来事でした。金曜日はテストのときより気温は高めでしたが、土曜日と日曜日に比べれば涼しい1日でした。土曜日は特に温かく、路面温度も気温も上昇しました。おかげでグリップ・レベルは低下し、コースコンディションは大幅に変わりました。ほんのわずかなことでクルマのバランスが変わってしまうことに、僕らは驚きました。コンディションの変化は誰にとっても同じことですが、僕たちには特に大きな影響があったようです。失ったグリップ・レベルを回復させようとして努力しましたが、すべて失敗に終わりました」

 土曜日のプラクティスは13番手という結果。したがって、トップ12のドライバーが出走できるQ2に進出できる可能性はまだ残されていた。しかし、毎回接戦が繰り返されるインディカー・シリーズの常で、琢磨は100分の数秒差でQ2進出のチャンスを逃し、16番グリッドに沈み込むこととなった。

「まだ完全には理解できていない部分が残るセットアップで、これがコンマ1秒程度の影響を与えたのは間違いないと思います。予選のときは気温が高く、柔らかめのソフトタイアでは1周しかアタックできません。今回はシーズン最初のロードコース・レースで、このパッケージングでタイアがどんな特性を示すのかは、不明な部分が残っている状態でした。あと100分の3秒速ければQ2に進出できたので、とても残念です」

「でも、僕たちには純粋にスピードが欠けていました。たった0.025秒差といえばそれまでですが、インディカー・シリーズはそれくらいの激戦なのです。それにしても16番手になるなんて、思ってもみませんでした」

 日曜日のウォームアップではふたつのセットアップを試したが、どちらも結果は芳しくなかった。そこで、いずれとも異なるセットアップで決勝レースに挑むことになった琢磨は、みずからの幸運を祈りながらグリッドに並んだ。そんな琢磨の目の前で多重クラッシュは起きた......。

「グリーンフラッグが振り下ろされる前にカルロス・ムニョスが加速し始めましたが、思った以上に加速していることに気づいた彼は状況を正そうとしてミハイル・アレシンと接触してしまいます。彼はスピンすると、チームメイトのジャックに激突。僕はギリギリのところで難を逃れましたが、ダメージを受けなかったのは幸運以外の何ものでもありませんでした」

「バーバーのオープニングラップでは、ターン1から3まではサイド・バイ・サイドで通過してヘアピンのターン5に進入しなければいけません。なぜなら、そこから先はオーバーテイクがきわめて困難になるからです。僕はターン2でアウト側に回り込むことを狙ったポジションでターン1をクリアしましたが、どうやらタイアに無理な負担をかけてしまったようです。ターン2の進入でリアグリップが一気に抜けて、思いがけず、あわやという事態に追い込まれました。ニュータイアなのでまずまずのグリップ力を発揮してくれると期待していたのですが、僕は不安定になった挙動を修正しなければいけませんでした。この結果、コーナーのいちばん外側までラインが膨らんでしまいました。必要なときにノーズをイン側に引き戻すことができず、アウト側に進んでしまったのです」

 これで琢磨は19番手となった。「僕の後にいたのは、アクシデントにあったスコット・ディクソンだけで、僕たちはなんとかして前の集団に追いつこうとしました。やがて、ペースが上がらないマックス・チルトンが先導する5台ほどのグループに追いつきました。もちろん、"ディキシー"からは猛アタックを受けましたが、なんとかしてそれはしのぎました」

 琢磨は燃料をセーブしていたが、あとでピットストップの際にジャンプアップを狙うのであれば、隊列を抜け出してクリーンなエアのなかを走る必要があった。琢磨はこれを実行、No.14のマシーンは14周目という早めのタイミングでピットストップを行った。やがてライバルたちがピットストップを実施すると、琢磨は14番手に浮上。続く第2スティントではルカ・フィリッピをパスして13番手となった。「僕はレッド・タイアを履いていて、とにかくアタックし続けました。まるで予選アタックのようなラップタイムが必要だったのです。このスティントが終わるとき、僕とディクソンは同じタイミングでピットストップしましたが、これは燃料をセーブするという意味で僕たちが正しい判断を下したことを示していました。なにしろ、彼は"燃費走行の王様"として知られているんですから!」

 続いて琢磨は硬めのブラック・タイアを装着。ピットストップが一巡した段階で12番手になる計算だったが、このときディクソンはレッド・タイアを履いていた。「彼が追い抜くのは時間の問題で、その2周後に僕をオーバーテイクしていきました。僕は燃費データに気をつけながら、できるだけ速く走ろうとしました。スコットはあっという間に視界から消えていましたが、スティントの後半になると著しいタイアグリップの低下が起きてペースが遅くなり、再び僕の目の前に現れました。最後のピットストップを行う前に、彼に追いつくところまで迫ったのです」

「ここで僕たちはひとつの決断を迫られました。予選で使ったレッド・タイアを履くか、新品のブラック・タイアを履くかを選択しなければいけなかったのです。他のドライバーの様子を見ている限り、レッド・タイアを履くとスティント中に急激なペース変動が起きそうだったので、僕たちはブラックを選ぶことにしました」

 残り25周となったところでピットを飛び出した琢磨は、レッド・タイアを履くマルコ・アンドレッティを追撃することになる。「スティント後半になれば彼のペースも落ち込んでくると期待していました。けれども、この頃には日が傾きはじめて気温が下がっていたため、マルコはタイア・デグラデーションに悩まされずに済みました。しかも、レース中はイエローが提示されなかったのです。苦しい状況でしたが、隊列の最後尾から13番手まで挽回したのだから、決して悪い展開ではありません」

 バーバーが終われば"マンス・オブ・メイ"はもう目前。そして1ヵ月近くに及ぶ戦いは、伝説的なロードコースで開催されるグランプリ・オブ・インディアナポリスで幕を開ける。しかし、琢磨はその前に"フィルム・スター"に転じるのだ! 「まずロサンジェルスに飛んで、そこでインディ500に挑む僕を追うドキュメンタリーの撮影を行います。撮影部隊は日本からやってきて、続いてホンダ・パフォーマンス・デベロップメント、その翌日にはヒューストンに移動してチームを訪れる予定です」

「たしかに残念な週末でしたが、No.14を走らせる僕たちはいい仕事をしたと思います。今回もたくさんのことを学んだので、この経験がインディGPコースの戦いで生かされることを期待しています」

written by Marcus Simmon

 

マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第3戦

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これ以上は望めない5位入賞!

第3戦 ロングビーチ

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 2016ベライゾン・インディカー・シリーズの第3戦ロングビーチで佐藤琢磨が5位入賞を果たしたことは、AJフォイト・レーシングにとって素晴らしいリザルトだった。この成績は、No.14ダラーラ・ホンダが決勝中に発揮した奇跡的ともいえるパフォーマンスを正しく反映したものだが、このレースでは一度もイエローが提示されなかったうえに、琢磨は3位と4位に入ったペンスキーのふたり----エリオ・カストロネヴェスとファン-パブロ・モントーヤ----の直後でフィニッシュしたのである。さらにいえば、琢磨はホンダ・ドライバーのなかで最上位、それも2番手をかなり引き離す活躍を示したのだ。

「ものすごく嬉しいし、チーム全員が素晴らしい仕事をしてくれました」と琢磨。「もちろん、5位が本当に期待していた成績かといえば、そんなことはありません。けれども、プラクティスの結果やライバルたちの状況を考えれば、これは喜ぶべき成績だと思います。今回は1度もコーションにならず、リタイアもありませんでしたが、それでも僕たちはコース上で順位を上げることができました。そしてTK(トニー・カナーン)やファン-パブロとバトルして、ペンスキーやガナッシのドライバーに割って入るポジションでフィニッシュしたのですから、チームのスタッフにとっては最高の成績だったと思います」

 琢磨が指摘したとおり、カリフォルニアの市街地コースでチームが示したパフォーマンスは期待とは異なるものだった。「最初のプラクティスをトップ5で終えたのはよかったのですが、この結果をそのまま鵜呑みすることはできません」 なぜなら、インディカー・シリーズでは2016年からタイアの使い方に関する新しいレギュレーションが導入されたからで、最初のプラクティスでは各チームがそれぞれの考え方に従ってタイアを使用しているため、この結果から本当の実力を推しはかるのは容易ではないからだ。「路面がまだグリーンであればマシーンのパフォーマンスは高いようでした。さらに赤旗も出たため、予定していた2/3ほどしか走行できませんでした」

 ところが2回目のプラクティスでは11番手に後退したため、エンジニアのラウル・プラドスとみっちりと打ち合わせを行い、事態の打開に努めることになった。「ラウルはたくさんのことを解析していて、それを僕と一緒に議論しました。夕食を摂るのも忘れるくらい一生懸命、仕事をしました! その結果、新しい考え方のセットアップで予選を戦うことにしました。それはちょっとギャンブルでもあったのですが、僕たちはマシーンの回頭性を向上させると同時にリアのスタビリティも改善しなければいけなかったのです」

 ドライブトレインにトラブルが発生したため、土曜日午前中のプラクティスを16番手で終えた琢磨は、予選でジャンプアップを達成。Q1を突破して12台が駒を進めるQ2に出走し、8番手のタイムを残したのである。なるほど、ファイアストン・ファスト6シュートアウトには参加できなかったかもしれないが、琢磨はホンダ勢のなかでは2番手で、しかも7番グリッドを手に入れたジェイムズ・ヒンチクリフの直後につけたのである。「Q1では、アグレシッブなセッティングを施し過ぎてしまったようで、柔らかめの新品タイアを装着していたにもかかわらず、オーバーステアが過大でした。このため安定性をもう少し高める必要がありました。この方向性は正しく、Q2ではタイムを短縮できました。ただし、Q2が行われている最中に計測器の問題が発生したため、少しトリッキーな状況となります。タイムに関する情報は誰にもわからず、コクピットのディスプレイにも何も表示されませんでした」

「通常は、ラップタイムがどれくらい速くなったか、もしくは遅くなったかが常時コクピット内に表示されるので、もっとプッシュできるのか、それともアタックを中断してタイアをセーブすべきなのかが判断できます。でも、今回はただひたすらアタックするしかなく、結果的に8番手となりました。プラクティスのことを考えれば、素晴らしい挽回だといえます」

 続いてフォイト・チームはアグレッシブな予選セットアップではなく、決勝に向けたセットアップを検討することになったものの、ウォームアップではセッション中の大半で琢磨はトップのタイムを記録し、その仕上がりに大いに満足することになった。そして彼らは決勝のときを迎える。「なんでも起きると考えられました」と琢磨。「また、ストラテジー・ミーティングを行った結果、イエローが出ない限り、2ストップで走りきるのは容易ではないことがわかりました。それでも、僕たちはできるだけ燃料をセーブして、なんとか2ストップで走りきるつもりでいました」

 琢磨はスタートでヒンチクリフに襲いかかり、オープニングラップの激しいポジション争いが行われたコーナーではジョセフ・ニューガーデンの攻撃をかわすことになった。「ヒンチとはサイド・バイ・サイドになりましたが、前が詰まっていたのでスロットルを緩めなければならず、もう少しでニューガーデンに抜かれそうになりました。ただし、2ラップ目以降は、少なくともタイアが新しい間はオーバーテイクができない状態でした。そこで誰もが燃料をセーブする走りに切り替えました。だからといってクルージングをしているわけではありません。まず、通常のブレーキングポイントの50〜100m手前でスロットルオフにします。このため、ブレーキングポイントに到達したときにはいつもよりだいぶスピードが落ちているので、ここでブレーキングのタイミングを本当にギリギリまで遅らせることになります。そして予選アタックのときとほとんど変わらないスピードでコーナーに進入し、なるべく勢いを削がない走りをしながら、使う燃料も減らさないといけないのです」

「この週末、僕たちのマシーンはハンドリングもタイア・デグラデーションも良好な状態でしたが、効率よく燃料をセーブしながらラップタイムも稼ぐには、常に誰かのスリップストリームに入っている必要があります。スリップストリームから外れかかっていると感じたら、少し燃料を余計に使ってでも前のドライバーに追いつかなければいけません」

 ここで9番手のライアン・ハンター-レイが遅れ始めたため、琢磨は後方からの追撃を心配する必要がなくなった。そして最初のピットストップではヒンチクリフを攻略して7番手に浮上。2回目のピットストップが近づいてくるまでに、琢磨はトップと5秒差ほどまで接近し、ウィル・パワーを仕留めて6番手となる。最後は残り20周以上を給油なしで走行することになったが、このとき、琢磨はトップのサイモン・パジェノーとわずか4.7秒差となっていた。

「チームはストラテジーに関して本当に素晴らしい判断を下していました。最初のピットストップを行ったときは、まだ1周分か2周分ほどの燃料を残していましたが、隊列のなかで走っている為ペースアップはできません。そして、他のドライバーと同じタイミングでピットストップを行えば、オーバーテイクするチャンスは限りなくゼロに近づいたことでしょう。そこで僕たちは少し早めにピットインすることを決め、前方がクリーンな状態で思いっきりプッシュしました。ウィルを仕留めることができたのはこのためです。もっとも、このおかげで最後のスティントは燃料が1周分足りないことになったので、さらに燃料をセーブしなければいけませんでしたが、何よりも大切なのはコース上のポジションなのです」

 残り13周で琢磨はカナーンのオーバーテイクに成功、続いてモントーヤの直後に迫った。残り4周、琢磨は4番手を賭けた勝負に挑んだが、この戦いはモントーヤがしのぎきって決着がついた。「僕は後にぴったりとついてチャンスをうかがっていました。TKはヘアピンのターン11出口でマシーンをスライドさせたので、僕はすぐにプッシュ・トゥ・パスを起動しました。あれは素晴らしい気分でした」

 「僕はまだたくさんプッシュ・トゥ・パスを残していましたが、なにしろ2周目から80周目までずっと燃料をセーブしなければいけなかったので、プッシュ・トゥ・パスを使いすぎれば燃料消費で困ったことになるのは目に見えていました。つまり、得るものもあれば失うものもあったわけです。使うのであれば、大きなチャンスが手に入る正しいタイミングにしなければいけません。たとえば、前のドライバーが小さなミスを犯した、というような状況です。一度、僕はとても惜しいところまでいきました。ファン-パブロがターン11の出口で小さな失敗をしたのでプッシュ・トゥ・パスを使いましたが、彼も使って対抗してきたのです。それにしても、ペンスキーのストレートの速さはなんでしょう! 彼らはギリギリまでダウンフォースを削り、リアウィングにつけていたガーニーも本当に小さいものだったようです」

 最終ラップの最終コーナーでもう1度チャンスがあったものの、琢磨はモントーヤのわずか0.0756秒差でチャッカードフラッグをかい潜った。「僕はまだプッシュ・トゥ・パスが残っていましたが、恐らくファン-パブロは残していなかったと思います。僕は横並びになっていました。フィニッシュまであと数メートルあればあったら、僕は彼を抜かしていたでしょう。彼との差はたったの30cmだったのですから。あれは、まるでオーバルレースのフィニッシュみたいで本当に楽しかったです。そして僕はチームのことを心から誇りに思います。彼らが素晴らしいマシーンを用意してくれたのです」

 とはいえ、ロングビーチでゆっくりと寛いでいるわけにはいかない。月曜日にはカリフォルニアでホンダのアクティビティが行われ、その後はインディアナポリスに1日だけ戻り、直後には週末の金曜日に始まるレースに備えてアラバマのバーバー・モータースポーツパークを目指さなければならない。「チームにとっては長旅になります」 そう語る琢磨は現在、ポイントランキングで6番手につけており、ホンダ勢のトップに立っている。「月曜日にホンダ・パフォーマンス・デベロップメントの方々と会えるのが本当に楽しみです。いい成績を残して、皆さんにはほんの少しだけ恩返しができたんじゃないかと思っています。その後はアラバマに向かいますが、バーバーでのレースは本当に楽しみです。シーズン最初のロードコース・イベントですが、ロングビーチのときと同じようにコンペティティブなはずなので、力強く戦えることを強く期待しています」

written by Marcus Simmon

 

マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第2戦

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あっという間のできごと

第2戦 フェニックス

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どんなドライバーにとってもレースの目標が15位ということはありえないだろうが、有名なフェニックスの1マイル・オーバルで久しぶりに開催されたベライゾン・インディカー・シリーズの1戦に挑んだ佐藤琢磨にとっては、決して悪い結果とはいえなかった。

No.14 AJフォイト・レーシング・ダラーラ・ホンダに乗る琢磨は、金曜日のプラクティス開始早々に激しいアクシデントに見舞われた。それでも、チームの素晴らしい働きぶり、そしてドクターから受けたアドバイスにも助けられ、琢磨は1ラップ・ダウンながら15位フィニッシュに漕ぎ着けた。この週末、決勝レースまでに走行できた時間は実質的に10分にも満たなかったが、それにもかかわらず価値あるポイントを獲得することができたのだ。

「まだ少し頭が痛みますし、なんとなくだるい感じがします」 レースの翌日、琢磨はそう語った。「でも、レース前には医師の判断を仰ぎながら鎮痛剤を服用しました。アクシデントの衝撃は、なんと78G! 僕にとっての最高記録ではありませんが、それに近い数字です。まるで2010年インディ500のプラクティスで起きたクラッシュを思い起こさせるようなインパクトでした」

ホンダ陣営は、週末を通じて納得のいく結果を残せなかった。とりわけプラクティスと予選では、ひとりを除く全シボレー系ドライバーの後塵を拝することになった。「まるで悪夢のようでした。1ヵ月ほど前にはここでオープンテストを行いました。テストは2日間で、昼間のセッションと夜のセッションがありました。僕らはどちらのセッションも順調に走行を終え、結果にも満足していました。その後、すべての走行データを見直して、予選シミュレーション用のセットアップから少し変更したものを今回持ち込みました」

「これまで僕たちは、まずプラクティスでの走行を行い、セッションの終わりにニュータイアを装着して予選アタックのシミュレーションを行ってきました。しかし今回は異なるアプローチを試みたのです。セントピーターズが終わって僕たちはランキングのトップ10に入っているため、いままで追加で使用することができた1セットのタイアがルールに従って使えないことになりました。週末を通して使用できるセット数が限られている為、ニュータイアでのパフォーマンスを最大限に生かそうと、予選シミュレーションを前倒しにしたのです。そこでややペンスキーを真似たプログラムを採り入れましたが、少し自信過剰だったのかもしれません。規模の大きなチームはセッション開始早々に予選シミュレーションを行うことが多々あります。巨大なリソースを駆使して、情報はできるだけたくさん用意し、すべてを把握して何が起きるかをはっきりと見極められる状態にある必要があります。。いまにしてみれば、あのときの僕たちはまだ不十分な状態でした」

「僕たちはいくつか新しいモノを持ち込んでいました。時間が許せば、それらをひとつずつテストしてどのような効果があるかを確認したうえで、予選用トリムに変更すべきでした。けれども、僕たちは一度に多くのことを行いすぎたのです。ダウンフォースのレベルも十分だったとはいえないし、さらに悪いことには、実際の空力重心は計算結果よりもずっと前方にありました。しかも、このコースは本当にリスキーです。なにしろ、予選用トリムでは5G近い横Gが発生するのですから!」

琢磨のマシーンは瞬間的にコントロールを失い、リアエンドからウォールに激突。しかも、その後、ジェイムズ・ヒンチクリフとカルロス・ムニョスの身にも全く同じアクシデントが降りかかったのである。「オーバルレースでは細かいことの積み重ねが本当に重要になります。スピードを殺さないためにはスリップアングルを限りなくゼロに近づけることが必要で、予選中のハンドリングはほとんどニュートラルになり、ステアリングはほぼ中立の状態になります。これはつまり、リアエンドがいつグリップを失ってもおかしくないことを意味しています。しかもフェニックスのターン1はコーナーの曲率がとても小さく、しかもバンク角は大きいものの非常にトリッキーで、コーナーに入ってからもどんどん変化していきます。あのときは3ラップ目で、まだ全開にしていなかったのに、あっという間にリアが滑り始めてスピンしました。僕にはなす術もありませんでした」

この後、AJフォイト・レーシングのメカニックたちは懸命にマシーンの修復に取り組んだが、琢磨は予選と最後のプラクティスに出走することができなくなった。そこでインディカーのオフィシャルは、決勝前に琢磨だけの特別走行枠を認めた。「通常であればシステム・チェックのための走行しか認められません。アウト/インラップ、それだけです。でも、オフィシャルは5分間の走行を認めてくれました。これには本当に感謝したいと思います」

「もしも自分のミスでアクシデントに遇って、そしてその原因を理解できているなら、コックピットに戻ってから直ちに全開で走行できるでしょう。でも、このようなアクシデントに遇うと、自信をすっかり失ってしまいます。こんな経験は過去5〜6年はなかったと思います。このためマシーンのフィーリングを正確に把握するのは難しい状況となりました。まして、このコースでは20秒ごとにターン2にやってくるのですから大変です。最初のラップでは、僕はスロットルを完全にオフにしました。それから、50%、60%、65%と徐々に踏んでいき、最終的に100%までいったところでチームに呼び戻されました。この走行は、決勝レース前には欠かせないものだったと思います」

ナイトレースに備えてセットアップを変更しなければいけなかったので、チームはジャック・ホークスワースのセットアップの考え方を採り入れることにした。「最後のプラクティスのとき、僕はスポッターエリアに足を運びましたが、とても強い印象を受けました。フェニックスは本当に速いコースです。素晴らしいコースだし、ファンは熱狂的だし、インディカー・シリーズは本当にここに戻ってきてよかったと思います」

「ただし、現状のダウンフォース・コンフィギュレーションでは、走行ラインが非常に限られてしまうので、オーバーテイクはとても難しくなります。だからテキサスやフォンタナとは大きく異なるし、ミルウォーキーだってこんなではないと思います。ターン1とターン2はバンク角が大きくて、ターン3とターン4はフラットなので、まるで小さなポコノのようです。僕たちは状況を鑑みて少しダウンフォースをつけることにしました。こんなふうには表現したくありませんが、ややコンサバティブな手法だったと思います。また、クラッシュの影響でエンジンを交換しましたが、おかげでエンジンはまだ十分に馴染んでいない状態でした。これらの影響でマシーンは走行抵抗が大きく、このためたくさんの燃料を使う状況となりました」

レース前半、琢磨は集団を追いかける形で走行していたが、ドラッグが大きすぎて燃費が悪かったために早めにピットストップを行わなければならなくなった。この結果、琢磨が2回目のピットストップを行った直後にムニョスがクラッシュに遭うという、不運な展開を呼び込むこととなる。

「僕は集団に追いついていたし、ペースも悪くありませんでした。最初のピットストップはイエロー中だったので問題ありませんでした。ところが2回目はグリーン中で、しかも3ラップか4ラップしたところでコーションとなりました。それまでにリーダーはピットインしなかったので、僕は2ラップ・ダウンになってしまったのです」

「ウェイブアラウンドになる可能性もありましたが、このときは集団の後方にいたので、そうはなりませんでした。このため、レースを通じてずっと後方を走行する形になり、17番手前後で周回を重ね、最終的に15位でフィニッシュしました」

「もうちょっといい結果が残せたかもしれませんし、もっと悪くなる恐れもありました。ただし、メカニックたちの奮闘によりマシーンは修復され、僕はレースに出走できました。僕たちは決して速くありませんでしたが、たくさんのことを学びました」

次戦は琢磨がインディカー・シリーズの栄冠を勝ち取ったロングビーチが舞台。しかもロングビーチがあるカリフォルニアは、アリゾナからそう遠くない。「けれども、その前に"500"に備えた最初のテストを行なうため、インディアナポリス・モーター・スピードウェイを訪れます。天気はあまりよくないみたいですが、最初のシェイクダウンとテストができることを期待しています。その後のロングビーチ戦は本当に楽しみです。それも、ロングビーチだからということだけが理由ではありません。好パフォーマンスを発揮したセントピーターズバーグで明らかになったとおり、僕たちのロードコース用パッケージはかなりいい仕上がりです。ロングビーチでは力強くレースを戦えることを期待しています」

written by Marcus Simmon

 

マーカス・シモンズレースレポート:インディカーシリーズ第1戦

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不幸中の幸い
第1戦 セントピーターズバーグ
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 セントピーターズバーグではいつも好調な佐藤琢磨だが、ベライゾン・インディーカー・シリーズの1戦としてフロリダ州のストリートコースを攻めているとき、運に恵まれないことのほうが多いのもまた事実である。2016年シーズンの開幕戦となった今回、琢磨には運がいい面も悪い面もあったが、オープニングラップで不運に見舞われたあと、素晴らしいパフォーマンスとストラテジーで集団に追いついたNo.14 AJフォイト・レーシング・ダラーラ・ホンダは、6位まで浮上してレースを終えたのである。

「状況を考えれば、この結果には満足しています」と琢磨。「難しいレースでしたが、僕たちは力強いパフォーマンスを示し、メカニックたちは抜群の働きを見せてくれました。とてもいい形でシーズンの幕開けを迎えることができたと思います」

 AJフォイト・レーシングではシーズン前に"人事異動"を行い、昨年までに比べると「はるかに洗練されたエンジニアリングチームができあがった」と琢磨はいう。「基本的には同じメンバーですが、他のチームから一部人員を募った結果、見違えるように強力なチームとなりました。特に、長年アンドレッティ・オートスポーツに在籍していたジョージ・クロッツが正しいポジションに正しいスタッフを配置したおかげで、ラリー・フォイトはチーム全体の運営に集中できる環境が整いました」

「長年、僕を担当してきてくれたレースエンジニアのドン・ハリデイはテクニカルディレクターに昇格し、2013年は僕のパフォーマンスエンジニアで昨年はNo.41のレースエンジニアだったラウル・プラドスが僕のレースエンジニアを務めてくれることになりました。新たに僕のパフォーマンスエンジニアに就任することになったのは、元KVレーシングのマット・カリーですが、彼はとても思慮深く、また知識も経験も豊富です。チームメイトのジャック・ホークスワースが乗るNo.41のエンジニアに起用されたのは元シュミット・ペターソン・モータースポーツのダン・ホッブズで、昨年は僕のパフォーマンスエンジニアを務めてくれたダニエレ・クッチャローニもNo.41の担当となります。というわけで、いろいろなところで人員のシャッフルを行い、より強いチームに生まれ変わりました。とても理に適った異動で、本当に強力なチームになったと思います」

 これで勢いをつけた彼らは、金曜日のフリープラクティスから目覚ましい速さを披露する。最初のセッションではホークスワースが2番手で、琢磨は5番手。そして2番目のセッションでは琢磨が5番手となり、ホークスワースをリードする形となる。「これほどスムーズなシーズンのスタートはこれまでなかったような気がします。セントピーターズバーグでは、いつもいいことが起こります。昨年も、ホンダ勢でファイアストン・ファスト6に残ったのは僕たちだけでした。新しいパッケージでテストしたことはほとんどなかったので、どのくらいのパフォーマンスを示せるかわかりませんでしたが、僕たちには自信がありました。新しいエアロは、昨年仕様に比べるととても性能が安定しています。昨年のエアロは特性がピーキーでセットアップが容易ではありませんでした。しかし、今年のエアロはとても幅広い特性を有しているようです。さらに、今シーズンはエンジンパワーも向上していますが、僕たちが速くなったのと同じようにライバルも速くなっているはずです」

「マシーンは走り始めの状態からいいバランスで、試すべきことがいくつも用意されていました。おかげで、ふたつのセッションともにとても忙しかったのですが、素晴らしいスタートで、今シーズンはふたつのメーカーがいい戦いを演じることになりそうです」

 土曜日のプラクティスでAJフォイトの2台は揃ってトップ10に食い込み─琢磨は9番手─、予選への期待が高まった。しかし、琢磨はQ2進出を果たしただけで、予選は11位に終わる。決勝で琢磨は10番グリッドからスタートしたが、これはウィル・パワーが体調不良で欠場した結果だった。「接戦でした。最初のセグメントではペンスキーの4台が僕と同じグループだったので、Q2に進出できるかどうか、少し心配でした! けれども、60.7秒をマークできたのでよかったと思います」 これで琢磨は4台のペンスキーに続く5番手となり、Q1突破を達成。「でも、Q2ではうまくいきませんでした。グリップが低下してしまったのです。原因はセットアップとタイアの内圧にありましたが、ここからいろいろなことを学べたと思います」

「続いて日曜日のウォームアップに臨みましたが、ここでもたくさんのことを試しました。土曜日から日曜日にかけてエンジニアたちが懸命に働いた結果、いくつかのプランとともに日曜日を迎えることができたのです」 ここで琢磨はグレアム・レイホールを1万分の1秒(!)しのぎ、トップに立つ。「ウォームアップでレッドタイアを使ったのは、おそらくKV時代以来のことだと思います。なにしろ、レッドタイアは本数が制限されているので、通常であればレースにとっておくことになります。ただし、4台チームであれば、そのうちの1台がレッドタイアを履いてスティント中のデグラデーションやハンドリングの変化をチェックすることもあります。このとき僕はフルタンクのレースセットアップでしたが、ブラックタイアでもとてもコンペティティブでした。ブラックタイアで4番手か5番手のタイムをマークしたところで、レッドタイアに履き替えました。同じようにしたドライバーはほかにも何人かいましたが、僕はタイムシートのトップに立ち、とても勇気づけられることになりました。マシーンはとてもドライブしやすく感じられました」

 まだスタートが切られていないというのに、早々とドラマが起きた。ウォームアップ中に琢磨のマシーンから送られるテレメトリーの通信が途切れたため、琢磨は走行中にマシーンをパワーサイクル(再起動)する必要に迫られた。惰性で空走しながら車体の電源を入れ直し、クラッチを繋げてもう1度エンジンを始動しなければいけなくなったのだ。しかも、最初の2回は失敗に終わり、3回目にしてようやく成功。おかげで琢磨は本来のポジションからスタートすることができた。ところが、続いてごく軽い接触があり、琢磨はパンクを喫することになる。「ターン1には慎重に進入しました。けれども、ターン2でマシーンの右側に異状が起きていることに気づき、ターン4ではタイアがパンクしていることが明らかになります。誰かがフロントウィングのエンドプレートで引っかけたのかもしれませんし、路面に落ちていた破片を僕が踏んでしまったのかもしれません」

 このため琢磨はエスケープロードに進入し、ゆっくり走ってピットまで戻ることになったが、コースに復帰したとき、運のいいことに琢磨はまだリードラップに留まっていた。「パンクはとても残念でしたが、メカニックたちは素早く作業を終え、リードラップでレースを再開することができました。これは非常に重要なポイントでした。また、通常であれば、リードラップで戻ってもすぐにトップに追いつかれてしまいますが、このときは先頭グループのペンスキーを逆に引き離していくことができました。僕はコース上でいちばん速かったのです。でも、どんなに速くて、どんなに頑張っても21番手のままだったのは、ちょっと残念でした!」

 レース前半をハードに攻めていった琢磨は、やがて集団に追いついたものの、引き続きリードラップに留まっていた。やがてコーションが提示され、琢磨のポジションは次第に盤石なものになっていく。「ブラックタイアでもレッドタイアでも僕たちは強力だったので、諦めずに戦い続けました。やがて、チャンスがやってきます。コーションが入ったことで僕は集団の直後につき、ポジションアップを狙いました。ピットストップではレッドタイアを装着することにしました。多くのドライバーはレッドタイアを最後のスティントのためにとっておきましたが、同じスペックのタイアでオーバーテイクするのは難しいので、僕たちは直ちにレッドタイアを履いてマキシマムアタックを行うことにしたのです。リスタートで僕は5つか6つほどポジションを上げました。少なくとも自分の目視で4台をオーバーテイクしたのは確認しました。そしてターン4に進入したところ、僕の目の前で3台か4台が横並びになったのです。ここでさらにポジションを上げられると思いましたが、ターンインするとすぐに、カルロス・ムニョスがグレアムと接触しているのが目に入りました。僕はグレアムを避けるとともに、できる限り減速しようとしましたが、そのときにはすでにイン側のタイアが縁石に乗っていたうえ、グレアムはコースのもっとも狭い部分でスライドし始めていたため、不運にもフロントウィングを引っかけてしまうことになりました」 それでも琢磨は、事故をすり抜けることに成功し、8番手まで浮上したが、その後ろでは10台近くが立ち往生した......。

 とはいえ、ダメージを負ったフロントウィングは交換しなければいけない。これは実に残念なことだった。なぜなら、このアクシデントが起きたとき、ミハイル・アレシンは接触を避けるためにコース上で一旦停止を余儀なくされたのだが、それでも彼はライアン・ハンターレイとエリオ・カストロネヴェスに続く5位でフィニッシュしたのである。「あれは本当に悔しかったですね。でも、6位でフィニッシュできたことは嬉しく思っています。なにしろ、本当に強力なパフォーマンスでしたから。チーム全体の力で上位に返り咲くことができました。今日は実際の成績以上に素晴らしいパフォーマンスを発揮できたと確信しています」

 開幕戦を戦い終えたチームと琢磨は、そのままバーバー・モータースポーツ・パークに向かい、火曜日にテストを実施。続いて、インディカー・シリーズの開催は久々となる1マイル・オーバルのフェニックス戦に備えて、チームは忙しく準備を行うことになる。「フェニックスは路面のグリップが恐ろしいくらい高くて、驚くようなコースです。ショートオーバルではロードコース用のエアロパッケージを使うことになっていますが、ウィングの角度はリーグによって規制されます。それでもグリップ・レベルは驚異的に高くて、コーナーではコンスタントに4.7Gを記録するほどです! 信じられないでしょう?! このため、肉体的には本当に厳しいレースになるはずです」

 
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