第34回母子健康協会シンポジウム 「子どもたちの遊びと体づくり」
1.「子どもと遊び」

東京慈恵会医科大学名誉教授 前 川 喜 平 先生

「子どもと遊び」について、理論的なことについてお話しさせていただきます。

1.幼児期の学習の基本

幼児期は一生のうちで最もいろいろのことを覚え、身につける時期であります。人間の行動の基本的なものは、幼児期に獲得されると言われております。子どもがいろいろなことを体験し、身につけていく過程を「学習」と言います。この学習の過程を観察しておりますと、幼児の学習の基本は、好奇心や関心による大人の真似を含めた遊びによって獲得されるとされております。学習には、このほかに、しつけだとか教育的学習も含まれておりますが、本日は、遊びを中心にして話したいと思います。

2.遊びとは

ここに五つのことが挙げられており、遊びは、①子どもの好奇心や探索心に基づく自発的に行われるもの。②目的がない。③面白くて、楽しい。④現実の世界から切り離されている。⑤現実に直接に役立つという意識がない。

3.遊びの意義

遊んだらどういう意義があるということについてはいろんなことがありますけど、次のことが挙げられます。
①運動能力を高める。②興味や好奇心を高め、知的な発達を促進する。③イメージを広げ、表現力を豊かにする。
④同年齢、あるいは異年齢の仲間関係を経験する。⑤さまざまな情緒的体験を持つ。⑥自発性、自主性を養うということです。

遊びは、子どもの活動と学びの原点であります。そして、自主性、協調、共感、役割、責任、他者とのかかわり方も遊びで身につけていきます。子どもは遊びを通して必要な能力を身につけ、成長するものです。それで、遊んでいる結果としてこういうことが身につくので、これから話す遊びを大切にしてほしいと思っております。遊びにより、心や体の発達や、社会性、情緒面、それから耐性(我慢すること)、それからやってよかったという達成感の発達などが促進されます。

乳児期の遊びは、母親やきょうだい、その他、養育者が相手になり行われます。幼児期は、最初は親が相手をして遊んでおりますが、親を基地とした探索行動、公園での並行遊びなどを経て、だんだん子ども同士で遊ぶようになります。子ども同士が遊べるというのは、普通は3歳からということになっていますけど、これも環境によります。見立て遊び、ごっこ遊びなど、種類も多くなります。3〜4歳になりますと、ある程度のルールをつくって遊べるようになります。幼児は、遊びを通して運動の敏捷性、適応や社会性を身につけていきます。ここいらは重要なことです。

4.教育との違い

教育というのは、好奇心や自発性とは関係なく、あることを身につけるため、強制的に学習させることが一番の違いです。例えば、ひらがな、漢字、足し算、引き算を学習させるとか、ピアノを習うというのは、この例として既におわかりだと思います。

5.遊びと現代の子どもたちの問題

遊びと現代の子どもたちの問題として、私の感じていることを述べさせていただきます。

(1)三間がない

いわゆる仲間遊びに必要な「三間」ですね、遊ぶ仲間、遊ぶ時間、遊ぶ空間(場所)がない、これは既にご存じのことです。

(2)粗大運動発達からみた仲間遊び

東京都の、保健所とか、健康サポートセンターで二次健診をやっていますけど、ここ二、三年以上前から、歩き方がおかしいという1〜2歳の幼児が増えております。昔は、そういう子どもたちは、足の形がおかしいとかの整形外科的疾患が多かったのです。ところが、これらの子どもたちの大部分は、十分に歩かせていないということなんです。それで、ここで皆様にぜひ知ってほしいのは、歩くことでも、反復練習を行うことです。たくさん歩かせるということです。そうすると、今度は歩き方の質が成熟して行くということです。

今から十五、六年前、歩行が記録できるペドスコープと重心計を使用して、子どもがどういうふうに歩き方が成熟するかという研究をしたことがあります。十五、六年前は大人のように歩けるのが3〜5歳ぐらいだったのです。ただ、今の子どもは、おそらくこういう研究をすると、昔に比べて、これらの成熟が遅いのではないかと思うのです。それで、粗大運動からいいますと、歩くことがちゃんと歩けて初めて走れるようになる。ちゃんと走れて、片足立ちとか片足ケンケンとか、それから横に跳ねる片足跳びだとか、スキップだとか、そういう粗大運動発達が成熟していくのです。それはちょうどビルの工事のように段階的に一つ一つ成熟していきますので、未熟な歩行は、その後の走るだとか、片足立ちだとか、にも影響をするわけです。その結果、皆様よくご存じの転びやすい、転ぶときに手が前に出なくて顔で、顔面制動をするとか、骨折しやすいとか、怪我をしやすいなど、園での生活に関係するようなことが起こってくるわけです。

ここに、これからお話しする移動遊具を使用した園における仲間遊びの重要性があるわけです。この仲間遊びがちゃんとできる前に、0歳児保育からの歩き込みということをぜひ心がけてほしいと思います。とにかく車で連れ歩かない。歩かせる。一緒にいろんなことをするということは、子どもにとっては大切なことなのです。

それから、今の子どもたちで、積極的に遊べない子がいるのです。そういう子どもたちの原因の一つとして、親に丸ごと受け入れられてなくて育てられていることが挙げられます。昔は、いいことも悪いことも、うちの子は丸ごと親が受け入れていたのです。ところが、今のお母さんたちは、いいことをすれば褒めますけど、悪いこと、自分の気に入らないことをすれば怒るのです。そうすると、子どもの心に、十分に愛されていない、受け入れられていない感情が芽生えますので、積極的に遊ぶとか、何かをすることが、非常にしり込みをするようになるのです。ですから、保育園で十分に遊べない子どもとか、仲間遊びができないような子がいたら、みんなでその子をかまって、十分受け入れて、安心させて遊べるようにするというのが一つのことじゃないかと思います。これは言うは易し行うは難しいですけど。それでその方法として、ここに、エリクソンから見た遊びの心理社会的発達のことが書いてありますけど、とにかくそういう子がいたら、ここに書いてあるように、「赤ちゃんは空腹のときに乳を与えられ、おむつが濡れて不愉快なときにかえてもらい、抱いてほしいときに抱いてもらうとヒトに対する信頼感が生じる。反対に、空腹でも乳を与えられず、抱いてほしいときに抱いてもらえないとヒトに対する不信感が生じて、悪い影響を及ぼす」と。ですから、もしそういう子がいたら、とにかく子どもをかまって、育て直しをしてほしい、というのがここに書かれていることです。

理論的な話は、これを持って終わらせて頂きます。特に私の話でわからないことがありましたら質問をしてください。あとのことは質問用紙に書いてください。後ほど、またお話をいたしますので。

私の話はこれで終わりたいと思います。

それでは、次に工藤先生にお願いします。保育園での実際の遊びについての具体的な例を示しながらお話を伺いたいと思います。

 先生は、区立の保育園で働いております。いろんな現状の難しい中で改善しながら、いかに仲間遊びとか、そういうことで子どもを伸ばそうか、そういう工夫をたくさんなされております。お話をお聞きになって、ぜひ皆様方の保育園での実際に役立ててください。わからないことがあったら、後でまたお話をさせていただきます。

では、先生、よろしくお願いします。

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