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妊産婦と乳児の精神保健と地域での育児支援

九州大学病院子どものこころの診療部 特任教授 吉田 敬子先生

育児支援に役に立つ3つの質問票

これまでに述べた産後うつ病の特徴から、妊娠期からのお母さんへのアプローチが重要であることがわかります。九州大学病院では、2002年より、産科の医師や助産師と、精神科の子どもと妊産婦を担当する医師や心理士の連携による母子メンタルヘルスクリニックを開設しています。また、福岡市母子保健行政のスタッフと連携して、出産後の母子訪問を利用した産後のお母さんのメンタルヘルスと育児支援を行っています。さらに未熟児・新生児医療や、小児科診療を行う医師をつなぎ、妊産婦とその養育支援から、子どもの発達や成長にも継続的な支援がなされるようなシステム作りに取り組んでいます。この連携システムの軸となるのが、私たちのチームで呼ぶところの〝3つの質問票〟で以下に示します。
(なお、質問票は、医療・保健スタッフが、教材やトレーニングを経て使用しています。)

産後うつ病質問票

エジンバラ産後うつ病質問票(Edinburgh Postnatal Depression Scale:EPDSと略す)は、妊産婦のうつ病のスクリーニングとして国内外で最も広く使用されています。自己記入式質問票です。質問票は10項目で、0,1,2,3点の4件法です。わが国では9点以上をうつ病のスクリーニングとして利用しています。ただし、あくまでスクリーニングであり、この結果によってうつ病が診断されるものではないという点に気を付ける必要があります。高得点であるほどうつ病の可能性が高いというわけではなく、当然偽陽性もあります。逆に質問票に記入したがらないお母さんもいるでしょう。したがって、その他の情報、訪問時の会話、観察なども加え、質問票につけられた内容をもとに面談を行い、お母さんの心情に触れ、理解とサポートを考えることが目標です。

育児支援チェックリスト

産後うつ病の発症にも、その後の増悪や持続にも、また育児と子どもの発達への影響にも、影響が大きいのはうつ症状のみではないことは前述のとおりです。お母さんの身近な人からのサポート状況や養育環境の要因を把握し、支援していくことは大変重要な役割を果たします。このチェックリストは、私たちが地域保健所と連携して行った母子訪問における調査研究の結
果から、お母さんと養育環境の背景要因を考慮してリスト化されています。

赤ちゃんへの気持ち質問票

この質問票はロンドン大学研究所のKumarとMarksらによって考案され、吉田が日本語版として翻訳、紹介した、自己記入式の10項目からなる質問票です。各項目は、赤ちゃんへの肯定的な気持ちから否定的な気持ちへの0,1,2,3点の4件法になっております。通常の母子保健担当者との会話の中では、母親は赤ちゃんや育児に対する否定的な感情を訴え難く、たとえ訴えられても、母子保健の専門家ですら受容的に受け止め難い場合もあります。質問紙は、母親にとって複雑な心境を保健師や助産師、医師などの支援者とともに語りあえるきっかけとなることを目指しています。母親が記入した否定的な感情の項目については、具体的に赤ちゃんへの気持ちについて母親の話を聴く、育児の中で生じる感情について共感を深めることで支援につなげることです。産後うつ病質問票の結果と比較すると、産後うつ病質問票総得点が9点以上の母親は、赤ちゃんへの気持ち質問票で、育児に行き詰まりを感じたり、赤ちゃんに怒りや攻撃的な気持ちを抱いていると答える母親が有意に多かったという結果が出ています。このように、二つの質問紙の項目を合わせると、うつ病の早期発見だけでなく、母子相互作用や養育機能に影響する育児中の母親の心理的葛藤についても気づくことができ、支援を広げることが可能になります。

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