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財団法人母子健康協会 第30回シンポジウム 「保育における食物アレルギーの考え方と対応」
2.「乳児期の食物アレルギーへの対応」

国立病院機構相模原病院臨床研究センター アレルギー性疾患研究部長 海老澤元宏先生

海老澤「乳児期の食物アレルギーへの対応」ということをお話ししたいと思いますけれども、まず最初に、「なぜ周りのお医者さんたちと私たちと意見が違うのか」という話から入っていきましょうか。

食物アレルギーに関連した医療機関における問題点と解決法

まず、表1に「食物アレルギーに関連した医療機関における問題点と解決法」と書いてあります。ここには、医療機関における問題、アレルギー疾患に関する理解不足、乳児アトピー性皮膚炎との関連性、食物アレルギー全体像の把握、抗原特異的IgE抗体の汎用と無理解と書いてあります。

医療機関における問題点、これはどういうことを言っているかというと、皆さん、標榜科ってわかりますか。「小児科・内科」と出ていると、その先生はたぶん小児科が専門だったんだなというふうに思うわけですね。一番最初に来ているもの。「内科・小児科」というと、内科が専門で、ついでだからちょっと子どもの風邪ぐらい診てやろうかなと、そういう感じですね。

では、「小児科・アレルギー科」とあったら、その先生はアレルギーに詳しいのか、というところです。小児科だけなら、たぶん小児の一般を中心にやっていこうという先生ですが、「小児科・アレルギー科」だと、花粉症ぐらい診てやろうかなとか、そんな感じですよね。

表1 食物アレルギーに関連した医療機関における問題点と解決法

そうしたときに、その先生たちがどこまで食物アレルギーに精通しているかというと、たぶん、精通していないのが現実です。これは、食物アレルギー自体、本物の食物アレルギーが、この20年ぐらいの間にすごく増えてきているという背景があります。それと、食物アレルギーというのは、昔は学問の中になかったと言うと語弊がありますけれども、先生たちもちゃんと習っていないわけです、お医者さんになってからも。だから、わかっていないというのは逆に言うと当たり前で、最近、ようやく食物アレルギーの診断の方法とか、治療の方法というのがだんだんわかってきて、私たちの学会でもガイドラインを出したのはつい数年前です。だから、若干しようがないところもあります。

本当に困っている人を近くで診ているケースというのは、あまりないと思います。というのは、いま、インターネットでいろいろな情報がとれますし、日本アレルギー学会という学会のホームページのサイトにアクセスすると、「専門医・指導医一覧(一般用)」とあって、例えば北海道の専門医、「小児をベースにしたアレルギーの専門医は誰ですか」と入れると、すぐ見つかるわけです。そうしたら、そこに行ってみようかなと思うわけですね。

学会の専門医と「アレルギー科」の標榜は違うということをまず知っておいてほしいのは、アレルギー学会の専門医というのは、試験を受けて、アレルギーの認定施設で三年間研修をして、取っている資格です。でも、「アレルギー科」というのは誰でも標榜できるわけです。だから、誰でもそういう看板を掲げられるという実態は知っておいてください。

例えばアトピー性皮膚炎に関して言えば、年齢ということも影響しますけれども、皮膚科の先生は、どちらかというと皮膚の疾患でしょうという考え方です。でも、小児科の先生は、どちらかというとアレルギーのほうにウエートを置いた考え方をしがちです。そうすると、あそこの皮膚科に行ったら軟膏を塗っておけと言われたけれども、こっちへ行ったら検査をしろと言われた、そういう話になるわけです。そうするとお母さんたちは、「どうしよう?」と思うわけです。

どこの科にかかるかによっても違うし、皆さんがご担当されている保育園あるいは幼稚園というのは食物アレルギーが一番多い年齢層です。有病率に関してお話しすると、この間の保育園保健協議会というところを通してやった調査では、ゼロ歳から1歳ぐらいのお子さんが10%弱です。年間120万ぐらいのお子さんが出生するとして、下手すると10万人ぐらいはいるという話です。

3歳になるとそれが激減します。半分くらいになります。どうしてかというと、食物アレルギーが治ってしまうわけです。小学校に入る前ぐらいはどうかというと、2%くらいでしょうか。だから、最初は10%弱、8〜9%くらいあったのが、3歳になるとそれが半分ぐらいになって、小学校入学前になると2%ぐらい。そういうデータが出ています。

そうすると、私たち小児科あるいはアレルギーを専門にするお医者さんは何をしたらいいかというと、最初の診断をちゃんとつけるということと、あとは何だと思いますか? どこで治ったかということを、なるべく早く患者さんに伝えてあげることなんです。

どこで治ったかというのは、負荷試験というのをしないとわからないわけです。でも、一般の先生たちのところで負荷試験ができるかというと、これはなかなか大変です。負荷試験というのは何かというと、実際に食べさせてみて、その人に本当にアレルギー症状が出るかどうかということを調べる検査です。

でも、下手をするとアナフィラキシーになるかもしれない、ある人はほとんど出ないかもしれないという、どうなるかわからないことをやるのって怖いでしょう。一般の病院で先生は一人しかいらっしゃらないから、そういったときにはなかなか気が進まないですよね。一般診療で風邪を診ている間に、負荷試験をやってくださいと言っても、そんなの誰もやらないですよね。だから、そういうことが必要になったら、専門の病院にちゃんと紹介してあげれば、負荷テストをやって、もう治っていますとか、治っていませんとか、そういう話をしてもらえるわけです。

ですから、問題点の解決策というのは、まず、正しい食物アレルギーの理解。さっきの有病率の話でも、それを知っているだけでも違います。それだけ治るんだということを知らない先生だっているわけです。それと、血液検査で陽性になることと食物アレルギーであるということは、先ほど前川先生のお話でもありましたが、違うということがわかってきているわけです。

だから、保育園で皆さんが、給食の対応のために私たちに書いてくださいといって保護者に持たせている紙の中に、「食物特異的IgE抗体の数値を書け」と書いてあったら、それというのは意味がないですよね。そういうことをやっている施設は多いです。

私は、保育園保健協議会の鴨下(重彦)元東大教授に頼まれて、いま、厚生労働省から出す、食物アレルギーの保育園のガイドラインというのをつくっている最中です。そのガイドラインの管理表には、IgE抗体を書けなんて一切入れないつもりです。それは意味がないからです。

じゃあ、何をすべきかといったら、食物負荷テストを受けているかとか、食べて症状が出たかということを基本にして対応していくべきなのです。まず、保育園の管理表から改めていかないといけないわけです。

表2 食物アレルギーに関連した患者側の問題点と解決法

表3 食物アレルギーに関連したコメディカルに求められていること

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