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温かい心を育むために

東京女子医科大学 医学部長 大澤真木子先生

理想的な親子関係を築くには

理想的な親子関係の条件があるとすれば、第一の条件は、お子さんに対して、完全に保護者であることであります。お子さんのありのままをご両親が受け入れるということ。つまり、そのお子さんが「良い子でも悪い子でも、とにかく親は親であり、お子さんを見捨てることなく、困ったときには全面的に受け入れる」という姿勢を示してあげることが望まれます。このことは、親の視点からは、親が子供を愛するのは当然と思っていても、お子さんに対し表現しなければ判らないことが多いのです

第二の条件は、お子さんの自主性が芽生えてきたら、「自主性を重んじる」。ある一定の年齢にきたら、「信じて見守って待つ」という姿勢が必要です。ご両親の好みや価値観でお子さんを支配するのではなく、お子さんの要求に応じ、意見を尊重し応えてあげる事が重要であります「かわいい子には旅をさせろ」と言いますが、小さな失敗は経験させてあげることも必要なのです。軽く転ぶことで、お子さんは痛い経験を通し、次から転ばないようにします。しかし、一度も転んだことのないお子さんは、転んだら痛いと云う事がわからないので、何故足元に気をつけなければならないのが判らない可能性があります。

第三の条件はコミュニケーション。頭ごなしに叱ったり、注意するのではなく、子どもの言い分に耳を傾ける必要があります。一見理不尽に見える同じ行動でも、背景にあるお子さんの気持ちによっては、同じ行動でも意味するところが異なり、肯定すべきことも多いと思われます。お子さんの意思を良く聴いて(尋問ではなく傾聴)尊重できると良いと思います。

第四の条件は、お子さんが自分は役に立っているという実感を得る機会を奪わない事です。お子さんから、親御さんに対し、何か手伝いたいという申し出があったら、遠慮せず、喜んで依頼しましょう。人は皆、誰かの役に立ちたいと思っています。「そんなことをしてもらったら悪い」などとは思う必要はなく、親御さんに「喜んでもらった、役に立った」という実感が、お子さんの自己評価を高め、自らの存在感を確立して行くのに役立つのだと思います。

第五の条件は、自分の型に当てはめようとせず個性を尊重することです。戦後60年以上経ち、平和な社会で、私たち親がおちいりやすい落とし穴として、自分の子どもはこういうようにカッコよくと自分の理想の型にあてはめようとすることであります。しかし、全く同じ人間だけが集まっている社会など不自然きわまりなく、ヒトのDNAは皆異なり、お子さんにはそれぞれの個性があり、個性にあった生き方をするのが最も幸福なのです。お子さんの意思を尊重する事が重要です。

ここまで読まれて、乳児期にほったらかしだった。と悔やんでいる保護者の方がおられるでしょうか?—今からでも遅くありません。お子さんが甘えたそうにしたら乳児期に戻ったつもりで甘やかしてあげて下さい。一時的に我侭なお子さんになるかもしれませんが、どんなに甘えさせてあげたいと思っても、満たされれば、さっさと離れていってしまいます。お子さんが、親を求める時期はほんの僅かです。完璧な育児などなく、いま育児中の皆様にはお子さんとの今の時を大いに楽しんでくださることを切望します。

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