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第28回 母子健康協会シンポジウム 季節と子どもの病気
3.救急よりみた子どもの傷病
北九州市立八幡病院副院長・小児救急センター長 市川 光太郎 先生



6.事故外傷 — 怪我

 あとはケガです。ぜひともここでお話をさせていただきたいのは、先ほど、頭は打ちやすいんだというお話がありましたけれども、頭を打ったというのが一番心配になられる。これは家族も、預かっている側も一番心配になられるので、病院に来る件数が一番多いのです。
 頭を打ってすぐ泣かない、これは当然、問題があるというのはよくおわかりいただけるし、頭を打ってゲーゲー吐いているというのも心配になられますが、頭を打ってたんこぶが結構できている、あるいは、たんこぶどころかブヨブヨ血腫ができている。このように局所の症状と全身の症状、吐いたり顔色が悪いなどですが、それと打ってすぐ泣かないなどの意識がなくなるという意識障害、この三つを比較したうちで、ある論文を読んで統計を取りましたら、実は頭の骨が折れている、あるいは頭の中に出血しているとか、脳挫傷が起こっているという比率が、どういう場合が一番多いかということですけれども、吐いたという全身の症状の場合は、1.03の危険率でしか頭の中はどうもなっていなかったのです。意識がなくなった、すぐ泣かなかったという方は2.8倍です。ところが、頭に血腫がブヨブヨできた、あるいは、血を止めないといけない、慌てたというぐらいの傷がついた場合は4.6倍、頭の中に病変があったことが判りました。これは頭蓋骨骨折を含めてです。
 ですから、吐いたというよりは、頭の傷が強い場合のほうが急がないといけない。あるいは、精密検査ができる病院に行っていただきたいと思います。意識がないという場合は当然ですけれども、意識がなかった場合よりも、頭の傷が強い場合のほうが、頭の中、骨のリスクが高いということはぜひ覚えておいていただきたいと思います。
 園でたくさん事故が起こったり、原因不明の骨折だとか、見ていないときの頭蓋内出血だとかたくさんありますけれども、お腹を打つ子もよくあります。お腹を打ったときは、我々大人と違ってお腹の容積の割には肝臓とかが大きいですから、お腹の皮膚は全くどうもなっていないのに、中がやられているということはたくさんあります。それは臓器の大きさ順で、肝臓、腎臓、脾臓という順番ですけれども、こういう臓器がもし中でグシュッとちょっとでも崩れた状態になると、必ず吐きます。それはもう、打ってすぐから吐きますので、お腹を打って吐いたときには、ぜひ病院にすぐ連れて行っていただきたいと思います。
 すぐに吐かない場合というのは、棒とか自転車のハンドルが一番多いんですけれども、それがみぞおちにドーンと入って、膵臓が割れたり、十二指腸の粘膜の中に血腫ができたりする場合は、それができるまでの時間がかかるので、1、2時間後から吐き出すということになります。いくらお腹を打って元気そうに見えても、吐いた場合にはどこかが傷んでいるということで、必ず病院に行っていただきたいと思います。
 手足のケガというのも非常に多いと思いますけれども、現実的には最近のお子さんは転び方が下手で、サルワタリを渡っていて途中で渡れなくなって、そのまま下に落ちたというか、下りたら足を骨折した。全然膝を曲げるとかいうことができないので、そのまま棒みたいにドーンと落ちていますから、折れるということですね。病気よりも、子どもたちの生活背景の悪化が非常に不安で、このままでは日本の子どもたちはだめになるというふうに思っています。(表9)。

  • 頭部打撲に関して、局所(打撲部位)症状の強い(皮下血腫や挫創・裂創の存在)場合は、嘔吐や顔色不良などの臨床症状や意識レベル低下の存在よりも頭蓋骨骨折や頭蓋内損傷の危険率が3-4倍高いことが証明されている
  • 頭部打撲後、泣き寝入りして小一時間の睡眠後に嘔吐が1-2回みられる場合は「脳震盪」として観察でよいが、それ以上吐く場合には「軽症頭部打撲後嘔吐症」や「頭蓋内損傷」を考慮して救急受診が必要
  • 頭部打撲直後にすぐ泣かないなど意識障害を認めた場合にも救急受診しておくべき
  • 腹部打撲では腹部皮膚に外傷を認めることは少ないので、外見で判断せず、嘔吐や顔色不良がある場合には救急受診が必要であり、肝臓、腎臓、脾臓損傷では受傷直後からの嘔吐がみられる
  • 膵臓および十二指腸損傷の場合は受傷直後ではなく1-2時間後から嘔吐がみられる
  • 腹部外傷では臓器の大きさで受傷頻度が異なり、肝臓>腎臓>脾臓>膵臓の頻度である
  • 腹部打撲では顔色の状態や嘔吐、血尿、腹壁緊張の有無を十分に観察する
  • 四肢打撲では変形・腫脹が強い場合には骨折、捻挫などが考えられるので、患部が動かないようにシーネ(ダンボール紙、雑誌、新聞紙など)固定して救急受診する
  • 裂傷や挫創で出血がひどい場合には清潔な布で局所を圧迫して救急受診するが、出血がひどい場合には患部より中枢側を幅広い紐やバンドで縛って救急受診する
  • 熱傷の重症度は自己判断することなく必ず受診すべきであり、特に関節部、顔面、口腔内などの熱傷は緊急受診が必要である
  • 熱傷は深度と熱傷面積が重要となるが、熱傷面積は患児の掌を1%として換算する
  • II度熱傷が10〜15%以上の受傷面積時は高次医療機関(熱傷専門施設)を救急受診すべきであるい

表9 知っておくと便利なポイント(事故外傷)

 これで、終わらせていただきたいと思います。

前川 どうもありがとうございました。非常にわかりやすく要領よく、ありがとうございました。



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