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特集 対談 「なぜ今、食育か」
神奈川県立保健福祉大学栄養学科長、食育推進会議委員
中村丁次
神奈川県立保健福祉大学人間総合・専門基礎担当科長・東京慈恵会医科大学名誉教授
前川喜平



国は2005年7月に食育基本法を施行し、今年から食育推進基本計画により具体的な活動が始まりました。子どもと食の問題については、当財団でも財団設立以来、あらゆる機会を捉えて取組んできました。これからも重要課題として取組んでまいりますが、なぜ、国レベルでこの問題に取組むようになったのか、食育推進会議に参画されている中村丁次先生と当財団の理事である前川喜平先生に話し合って頂きました。

マクガバン報告から健康日本21へ


前川 それでは、「なぜ今、食育か」ということについて対談を始めたいと思います。今日の対談は、食育推進会議のメンバーであり、栄養学の権威として知られている中村丁次先生にお話しを聞きながらすすめたいと思います。
 それでは、最初に食育基本法のきっかけとなった「健康日本21」について、お話し戴きたいと思います。

中村 今日はこのような座談会にお招きいただきまして、ありがとうございました。
 そもそも、子どもの生活習慣に対して国が口を出すというのは、かってはあまりなかったわけです。例えば箸が持てない子どもがいたら、それは家庭のしつけの問題、食べ過ぎや偏食があったらそれはお母さんの教育が悪い、というふうに言われてきました。それを政策として取り組み始めてきたというのは、それなりの理由があったからで、最初きっかけになったのは米国のニクソン大統領の時と考えられます。
 米国で健康と栄養に関するホワイトハウス・コングレスというのが開催されました。米国では心臓病が増大して、医療保険が増大し、医療費のために企業や国がおかしくなり始めたという深刻な問題があったのです。増大する保険の掛金で、ある自動車会社が倒産したという話が出て(笑)、ニクソン大統領は、約1,000人の栄養・食生活関係者、あるいは保健・医療関係者を集めて2日間議論させたわけです。
 それをマクガバンという上院議員がまとめたので「マクガバン報告」と言われています。「アメリカ人の心臓病を防ぐためにはやはり食生活が大事だ。特に油を減らして穀類を増やす、どっちかというと日本人のような食生活をするのがいい」という報告書が議会に提出されました。

前川 ニクソンというと何年くらい前ですか。
中村 報告書が提出されたのが1977年です。
前川 じゃ30年以上前ですね。
中村 それがそもそも、政策として個人の食事に介入し始めたきっかけだと思います。そのあと目標を決めまして、それに近づくようなガイドラインが出て、そして具体的な摂取量を示した「フード・ピラミッド」が出て、いろいろな政策がなされて来ました。
 ところが、なかなか効果が上がらないので、アメリカは「ヘルシーピープル2000」というのを1990年にスタートさせまして、1990年から2000年までに、アメリカ国民はすべて健康になりましょうという10年間の数値目標を掲げたわけです。これは斬新な考え方で、今までのように「肥満を減らしましょう」とか、「油を減らしましょう」とか、満遍なスローガンではなくて、きちっと数字の目標を掲げたのです。それを参考にしたのが「健康日本21」です。

前川 ああ、そうですか。
中村 日本は米国より10年後の2000年にスタートしました。日本は10年後の2010年をゴールにしましたので、ちょうどアメリカから10年ズレています。日本もたくさんの数値目標を掲げて、2005年のときに中間報告をやりました。
前川 見直しましたね。
中村 どのくらいゴールに到達したかをみたのですが、結果は惨憺たるもので、効果が思ったほど上がっていないのです。残された5年間をどうしようかという話になって、これはもう本腰でやらないと2010年にはいい結果が出ないのではないかというのが現在の状況だろうと思います。



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