母子健康協会 > ふたば > No.68/2004 > 保育におけることばの問題と対応 > 2 ことばの遅れと対応 > ことばの獲得
第二十四回 母子健康協会シンポジウム 保育におけることばの問題と対応
2 ことばの遅れと対応
神奈川県立保健福祉大学教授 前川 喜平



ことばの獲得


 ことばの獲得には、まず最初に、耳が聞こえるということです。それから目が見えて、五官がちゃんとしているということが条件です。そうすると、お母さんの身振りとか顔つきとか、いろんな言葉が、ある程度コミュニケーションの一つの道具だということを、子供は気がつくわけです。こっちが笑ったら向こうも笑うとか、おなかすいたときに、何だか知らないけど、泣いたら御飯が出てきたとか、そういうことですね。
 それが、非言語的な動作とか声ということで、そのうちに、今度は何だか知らないけど、使っているものが、「マンマ」と言ったら食事が出てきたぞとか、「ワンワン」と言ったら、犬と猫みたいに動くものがいるぞとか。何か、全体の一つのグループとしての音として頭に入るわけです。それから今度は、同じマンマでも、御飯とパン、リンゴペーストとかいろんなものがある。だんだんそういうふうに分かれていって。最後に、今度は「リンゴ」と訊いたら、赤いリンゴが出てきた、「ミカン」と訊いたらミカンが出てくるという、象徴概念として頭に入ってくるということです。

1. 言語と話しことば
 ことばのおくれを理解してほしいときに、一番問題なのは、言語と話し言葉の相違です。言語はその国で使用されている言葉や文字を言い、話し言葉は言語を使用してコミュニケーションを図ることです。皆様が幼稚園・保育園で問題にしているのは話し言葉の遅れです。子供の発達において、言語理解がある程度できていて、言葉の遅い子はたくさんいるけれども、言葉の理解が悪くて言葉がしゃべれる赤ちゃんはいないのです。そのことをよく知っておいてほしい。
 言葉を理解することを内言語というのですけれども、言語理解が最初です。それで、あるときにダムの水がたまったみたいに、それからあとは言葉が出てくるのですけれども、そこにはとても個人差があるということです。

2.話し言語の発達
(図1) では、一体、そのメカニズムはどうかというと、図1の言語の発達をみてください。雨が降っているみたいな矢印がいろんな言語刺激です。それが上半分に溜まってくると言葉が認知され理解される。言葉を理解する内言語が育ってくる。内言語がある程度たまると、今度は話し言葉になって言葉が出てくる、というのがこの図です。

3.生理的範囲の遅れ
(図2) 言葉が遅いときに、一番最初に疑うのが生理的範囲の言葉の遅れです。今度は図2―[1](生理的範囲の遅れ)を見て下さい。これはどういうことかというと、耳が聞こえて、ほかのことが全部普通です。それから、未熟児で早く生まれたとか、小さいときにけいれんを起こしたとか、そういうことがなくて、ほかのことはすべて普通で、言葉だけが遅いという子どもが、生理的範囲の遅れです。そういうときに、私は小児科で発達神経をやっていますが、二歳になって意味のある単語を言っていたら、三歳になって「パパ、電車」とか、「ブーブー、来た」とかの二語文を話していたら生理的遅れを疑います。ただし、早く生まれた子どもは、修正月齢です。要するに予定日から考えた月齢です。ある程度それをプラスアルファして、二歳になって意味のある単語を言っている、三歳になって二語文をしゃべっていれば「生理的遅れ」を考えます。
 そうすると、それを、さっき言った、言語刺激を雨の水にたとえると、内言語が十分あって、それから、表出性のしゃべる能力も十分あるけれども、どこかの成熟が遅くて、話し言葉が遅いというのが、生理的範囲の遅れです。

4.発達性言語障害
 ところが、次に問題になるのが、発達性言語障害です。これは、いま言った生理的の範囲と同じで、言語理解もあるし、耳も聞こえるし、やっていることも普通なんだけど、言葉だけが遅くて、二歳になっても単語も言えないし、三歳になっても二語文さえ出てこないというときが、これに当てはまるわけです。
 そうすると、これはどう解釈されるかというと、内言語の発達は普通なのです。こういう子どもたちは、三歳過ぎになると単語が出てくる。四歳過ぎから言葉が増え、学校へ行く前に大体普通になってくるというのがこのパターンです。それは、図2―[2](発達性言語障害)のように、雨水は十分たまって内言語はあるけれども、この話す方の部分の、脳の成熟が遅いのですが、成熟が進み、時期が来れば、この下のほうの表出性言語の部分も膨らんで言葉が普通に出るというタイプです。
 昔は、ここまでは普通ということになっていた。「誰それさんは五歳になって初めてしゃべって、いまは東大に行っている」とか、ああいう人たち、みんなそうです。ところが、いまはちょっとやかましくなって、先生方がたくさんいて、遅いとか何とかおっしゃるので、発達性言語障害ということになってきたのです。

5 .難聴
 それから、次の問題は難聴です。一体、耳が聞こえなかったらどうなるかというと、図2―[3](難聴)を見てください。
 幾ら言葉の刺激を受けても、入り口が狭くて言葉が入れない。それが難聴。だから言葉が出てこないという理由です。

6.知恵遅れ
 次に、一番、言葉の遅れの原因で多いのが知恵遅れです。知恵遅れはどうかというと、言語刺激は普通なんだけれども、容器の間口が狭い。だから、幾ら刺激しても、水が溜まらない。言葉を認知し理解する能力が悪いのです。だから出が悪いということです。入り口が狭いから出るのも狭いというのが、図2―[4](知恵遅れ)です。

7.情緒障害
 図2―[5]の情緒障害というのは一体何か。自閉症とか情緒障害とか多動の子は、外界に対して、言葉とか、耳から来たことに対する集中力というか、興味を示さない。言葉に対する刺激の屋根にフィルターがくっついているのです。だから、そこを通っていかない。言葉が遅いと解釈してくれたらいい。要するに、屋根にフィルターがくっついているので雨がたまらない。あるいは、少しは通るけど、通らないという感じです。多動の子も、あちこちに興味があるので、言葉をゆっくり聞いてられない。自閉症の子は、親の表情とか言葉に興味を示さないから、幾ら言ったって入ってこない、そういう意味の遅れです。

8.脳障害
 それから、脳性麻痺の子はどうかというと、さっき言った、言葉を聞いて理解して、それを発語するという、その部分のどこかが脳障害のため壊れている。図2―[6](脳障害)です。そうすれば、配線の悪いテレビはつきっこないのと同じことです。
 だけど、脳性麻痺の子というのは、それ以外に、協調運動障害だから、つかもうと思うと手がゆうことを聞かない。口も、しゃべろうとすると「エーッ」とゆがんだり、緊張するといったことがあります。それで、区別がつくのではないかと思います。
 そうすると、言葉が遅い子を見るときに、まず最低、生理的範囲の遅れか、発達性言語障害かです。ほかの発達が普通だということは、皆様は同年齢の子どもを見ていればわかるでしょう。それを比較してください。言葉の出具合で、二歳になって何かしゃべっていたらこれは生理的で、しゃべらなかったらこれは発達性の言語障害ぐらいに覚えていてください。
 それから、次は、耳が聞こえるかどうか。知恵が普通かどうか。脳性麻痺みたいな脳障害があるのかどうか。最後は、いわゆる情緒障害とか自閉症とかと、いうことです。



母子健康協会 > ふたば > No.68/2004 > 保育におけることばの問題と対応 > 2 ことばの遅れと対応 > ことばの獲得
事業内容のご紹介 協会の概要活動の概要設立の経緯協会のあゆみ健康優良幼児表彰の歴史
最近の活動のご紹介
小児医学研究への助成 機関誌「ふたば」の発行シンポジウムの開催 Link:Glico